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「離せ!!離せって!!!」

前方にいる兵士達に対し、辺り一面に響き渡る程の大きな声で叫んだ。自らも両腕を掴まれ、身動きのとれない状態でありながらも、金色の髪を振り乱し、彼らにひたすら叫び続けていた。しかし、その声も虚しく、彼らは足を止めることなく、どんどん遠ざかっていった。

「母上!!父上!!離せ!!離せって言ってるだろ!!」

必死に叫ぶ娘の声に、両親は足を止めようとするが、彼らもまた、兵士に両手を掴まれているため全く身動きがとれない。そんな状態であっても、二人は兵士への決死の抵抗をもって振り返ろうとする。彼らの視線の先には懸命に兵士から逃れようとする娘の姿があり、二人はそんな彼女を見ていると胸が締め付けられる想いに駆られる。

「グラファ…。」

重々しく声を漏らす母親だったが、その声は娘、グラファには届く事はなかった。兵士に腕を引っ張られながら、両親はグラファから引き離されていく。

「待て!!母上!!父上!!待て!!!」

城まで続く大きな通りには、野次馬と化した国民の姿が至る所にある。グラファの両親を引き連れた兵士集団が近づくと、波が引いていくが如く、自然と道が出来上がる。国民は兵士に捕らえられた者に対し、犯罪者を見るような軽蔑の眼差しを向けていた。その視線を嫌というほど浴びている二人は、視線を落とし自然と重い足取りとなっていった。皮肉にも彼らは上質の絹で出来た衣服を纏い、いかにも貴族を意識したものであった。そのような装いをした人間が兵士に捕まっているのを見ているだけで、国民にとってとても愉快だった。

「小賢しいまねして稼いだ罰だね…。」

誰かの陰口を皮切りに野次馬達の陰口は伝染していく。こそこそと陰口をたたく声は徐々に大きくなっていった。その彼らの態度がグラファ一家には、かなりの屈辱を与えていた。グラファは唇を噛み、辺りにいる野次馬達に殺意すら感じさせる程の視線を向けた。

「黙れ!!おまえらだって………似たような事…してるくせに…。偽善者ぶるな!!」

グラファのエメラルドグリーンの瞳は野次馬達に恐怖心を与える程の威力があった。この地域は大半の国民は赤銅色の瞳をしている為、グラファの容姿を見る彼らの視線は異物を見ているようだった。グラファは自分の無力さと悔しさにその場に座り込んでしまった。ふわりと冷たい風がグラファの全身を覆っていった。兵士はようやく大人しくなった彼女の腕を解放してやった。

「まぁ、殺されることはないだろうな。」

ボソッと呟くと、兵士達は職務に戻る為、前方を歩く兵士集団の元に駆け寄っていった。その兵士のつぶやきも耳に入らない程の放心状態となったグラファは、しばらくの間、その場に座り込み、恥辱と悔しさから何度も何度も拳を地面に叩きつけていた。

「くそ……、ふざけやがって…。」



                   *



「兄上…。やはり何かよからぬ事が起きているのでないですか?」

「確かに…。何かがおかしい。」

「先ほどの村での噂。本当でしたら、大変なことです。」

「そうだな。」

「ティルツィエ殿へご報告に参った方が…。」

「彼らが何か情報を握ってるとは思えぬが、……オルペンツェへ向かうぞ。」

「はい、兄上。」




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