第4話 新たな仲間
悪夢からのプレゼントが届いた。
それは、紅く、爛々と輝く2つの目。
「なんで・・・どうなっているんだ・・・・。」
「・・・・・・・・。」
2人共黙り込んでいる。何が起きているのか、はっきりと認識できていないんだろう。
視力に異常は無い。目にも特に痛みは無い。
身体的な面では、特に異常は無いようだ。
ではなぜ、瞳の色が変わってしまったのか、その理由がわからない。
何か特別な意味を持っているのか・・・?
「なんでグレイの目が紅く変わったのかしら・・・。知り合った頃からずっと、黒だったのに・・・。」
「私に、目の色を変える魔術なんて使えない。残念だけど、グレイの目はたぶん元に戻らない。」
ひたすら考え込むクレア。色を変えるのは無理と、説明するルナ。
色を‘変える’・・・?どこかで、聴いたような・・・・。
「・・・そうだ。母さんだ。母さんが、俺の瞳の色を魔術で黒く変えていてくれたんだ。」
「「え?!色を変えた?!」」
2人共身を乗り出して聞いてくる。・・・そんなにこの話題が興味深かったのだろうか。
「ちょっと、変えていてくれたってどうゆうことよ!私と出会う前のあなたは、色が違っていたって言うの?!」
「グレイ、教えて欲しい。そんな魔術存在するの?瞳の色を変える魔術なんて、とても興味深い。」
「ちょ・・・落ち着けって!いまから順を追って説明するから!」
「俺が生まれた時はな、瞳の色が赤色だったらしい。それで、学院で勉強するにあたって瞳の色のことで友達から、からかわれたりしたら可哀想だから・・・という理由で母さんが魔術を使って瞳の色を変えていた・・・と親父が言っていた。」
「「・・・・・・・。」」
「本当に、そんな術あるのかはわからないけど、生まれた時が赤で、いままでが黒だったわけだから、何らかの形で色を変えていたのは間違いない。」
「でも、おかしくない?いままではグレイのお母さんが魔術で黒くしていたって言うけど、じゃあなんでいきなり色が元に戻っちゃったのよ。」
確かにそうだ、普通は一度かけた魔術は取り消せないはずだ。
「人の身体に魔術をかけたのなら、なおさら取り消すのは難しい。魔術を解いたのか、あるいは・・。」
ルナがその後言いたいことがわかってしまった。
おそらく、ルナが言いたいことはこうだろう。
「この魔術より強力な何らかの力で書き換えた、ちがうか?」
「そう。魔術は、より強い魔術が加わった場合、弱いほうの魔術の効果が消えてしまう。だけど、瞳の色を変えるような魔術に強弱はないはず。だから、魔術ではない、何かが瞳の色を変えた・・と思うよ。」
おそらく、ルナの見解で間違いは無いはず。
その何かの力を使った人物が、俺にはわかってしまった。
「クレア。お前が俺の意識の中に入った時、俺と会話している変な紅い光がいたのを覚えているか?」
「ええ、覚えているわ。むかつく奴だったわね・・・。でも、それがどうかしたの?」
「あいつだ。あいつが俺の目の色を変えた犯人だ。」
「え・・・?なんで?さすがに意識の中の奴が変えられるものじゃ無いと思うわよ?そいつは別にあなたにとって何でもないんでしょ?」
クレアが目を丸くして驚く。そうか、こいつには話していなかったな。
俺の‘出生’について・・・。意識の中で出会った、あの男について・・・。
クレアは、大切な仲間だ。これが良い機会かもしれない。
まぁルナも居るけど、面倒だし話しちまおう。不思議と、こいつなら話しても大丈夫気がするし。
それから俺は、クレア達に全てを打ち明けた。
捨てられた過去のこと。手紙に書いてあった‘出来損ない’のこと。悪夢のこと・・。
「あなたにそんな過去があったなんて・・・。」
「ごめんな、空気を沈ませるからあまり話したくなかったんだけど。」
「・・・とても、興味深かった。その悪夢は何か意味を持って出てきたのかな?」
「確かに、その悪夢ってのが私の見たあの紅い光と何か関係があるの?」
ここからは俺の推測になる。
いままでの悪夢。誕生日の幻覚、幻聴。紅い光。手紙。出来損ない。
全てのキーワードを繋ぎ合わせれば、自ずと答えが見えてきた。
「まずは、旅に出るまで俺が見続けてきた悪夢。この内容はほとんど覚えていないけど、なんらかの意味を持っているはずだと思っていた。旅に出た途端に見なくなったからな。まぁ、内容は覚えていないから今はおいておく。」
「「・・・・・・・・。」」
「次にだ。俺は誕生日の朝、いつもの悪夢を見た後に、幻覚と幻聴を感じた。その幻覚で見たものは一人の男だった。紅い瞳で俺をにらんでいたよ。幻聴で聞こえたのはその男の声。待っているぞ。ここまでこい。貴様の真実を私は知っている・・・だったかな。」
「「・・・・・・・・・・。」」
2人共真剣な表情で俺の言葉を待っている。
1つ咳払いをし、また話を再開する。
「次に、俺が捨てられた時に持っていた、手紙についてだ。さっきも話したとおり、そこには‘出来損ない’と書かれていた。・・・これはあくまで想像だけど、俺の親は俺を使って何かを実験していたと思っているんだ。何らかの実験に失敗した、あるいはたいした成果を残さなかったから、俺を‘出来損ない’と呼んだのかもしれないな。たぶん、これもその影響だろう。」
羽織っていた上着を脱ぎ、シャツも脱いで背中を見せる。
背中に大きく刻まれた、十字型の傷。
「な・・・なんてこと・・・!い、痛くないの?」
「痛みは一度も感じたことは無いよ。まぁ俺は大して気にしてないから、いいんだけどさ。」
「さて、そろそろまとめようか。これらの事柄は、全て俺達が見たあの紅い光と関係がある。」
そう、あの光が話していたこと・・・。あの言葉で全てのパズルのピースが繋がった。
獣人との戦いで意識を失った時に、ほとんど気づいていたけど、次に意識を失った時に、完全に確信した。
「その前に、クレア。お前が俺の意識に入った時、俺とあの光との会話をどの部分から聴いていた?」
「えと・・・あの光があなたに、誰かを不幸にさせるって言ってた時あたりかな・・・?」
それならば、話は通じる。
「実は、俺はあの光と、以前会ったことがある。獣人との戦いで、意識を失った時かな。」
「・・・・だから、あの時あなたは・・・。一度会ったことがあるような口ぶりだったから、もしかしてとは思っていたけどね。」
「話が早くて助かるな。あいつは俺に‘出来損ない’と言った。真実を知る資格もないと言った。そして、紅い光。ここまでは覚えているか?」
「ええ、覚えているわ。でも、それがいままでの事と何か関係が・・・あっ!」
どうやら気づいたようだ。ルナも同様に気づいたのだろう。目を見開いている。
「そうだ。この‘出来損ない’という言葉を俺に向けるのは、俺か両親、もしくは実験に携わった誰かしかあり得ないんだよ。そして、真実を知る資格が無い・・・ということは、これを言っていたあの紅い光は俺の真実を知っていることになる。つまり、俺を全て知っているのはさっきと同じように両親か、その実験に携わった誰かと断定できる。更にあの紅い光は、俺が幻覚で見た紅い光と一緒だった。ここまででわかるように、あの光は、父親か実験に携わった誰かだ。」
「なんで、母親は除外されるの?」
「あの声は、お前も聞いたとおり男だったろ。」
まぁ、他にも理由はあるが、面倒だから省かせてもらおう。
「そして、もう一つ言えることは、あの光の正体は俺にとてつもない殺意を抱いている。殺す宿命がある・・・だったっけか。確実に俺を殺そうとしているのは明らかだ。その時点で、光の正体が決まった。まぁ薄々はそうじゃないかと思ったけど。」
「で、あの光は結局誰だったのよ?」
「俺の・・・俺が今の親父に引き取られる前の親父さ。つまり、本当の父親。」
そう、はっきりと断言できる。
あの父親は、かつての息子であった俺を殺そうとしている。
「な、なんで今のことからわかるのよ!はっきり教えなさい!」
「俺が捨てられていた時に持っていた手紙の内容をさっき言ったろ。≪私は完成体の作成に失敗した。これはただの出来損ないだ。こいつを見ていると気が狂いそうになる。18まで育ててほしい。嫌ならば、山にでも草原にでも捨てに行ってかまわない≫ってな。」
「・・・・・・・!!そ、そんな・・・・。」
「‘こいつを見ていると気が狂いそうになる。’‘18まで育てて欲しい’・・・。なんで、見ていたら気が狂いそうになる奴を18まで育てて欲しいなんて言ったんだろうな?」
「そんな・・・ことが・・・。許されるわけ・・・。」
「この手紙の意図は簡単だ。可哀想だから、18まで育てて欲しいと書いた・・・そんなはずがないんだ。こいつは、18まで俺を育てて、俺を自分自身の手で‘殺す’ためにこの手紙を書いたんだ。・・・このことから、あの光の正体は・・・元の父親ってことがわかる。」
真実にたどり着いたとき、恐ろしかった。
自分の本当の父親が、俺を殺そうとしているなんて考えたくなかった。
18になった俺が、実の父親にいつ殺されるかわからない・・・そんな状況になってしまった。
「元の父親は、俺を自身の手で殺すことを望んでいる。そのために、悪夢を見せて俺を旅に出させたんだと思う。・・・・とまぁ、関係ないことも話してしまったけど、あの意識の中の紅い光が元の父親なら、俺の瞳を赤色に戻すのは、簡単なんじゃないかと思ったわけだ。もともと紅かったんだからな。」
これ以上話すのも辛い。
結論を述べ、やや強引に終わらせた。
「それで、犯人はわかったわけだけど、どうするの?私じゃあなたの目は治せない。」
ルナが心情を読み取ったのか、話題を切り替えてくれる。
・・・いい奴だな、こいつ。
「ああ、別にいつもどおり過ごすよ。どうせ治らないし、この目のまま旅を続けることにする。」
「・・・・・・・。」
「そう。ねぇ、クレアを一晩借りていい?ちょっと、お話がしたい。」
「え?・・・べ、別に・・いいけど・・・。」
まぁ、ルナも別に深い意味があって借りるわけじゃないだろう。
明日にはここを出発するし、一晩だけなら別に何も問題ない。
「ああ、別にいいよ。明日の正午にはここを出発するから、正午にクレアは町の出口に来てくれ。」
「え、ええ・・・。わかったわ。それじゃ・・・おやすみ。」
クレアとルナが部屋から出て行った。
時刻は既に夜の11時を過ぎている。
・・・・・色々ありすぎて、疲れた。
・・・・・・・・・・・・・・。
・・・不安だけど、俺はそれでも、進むって決めたんだ。
明日には出発だ。気持ちを切り替えないと、クレアに心配かけてしまうな。
明かりを消し、目を閉じて、頭を巡る全ての思考を遮断して眠りについた・・・。
「ねぇ、どうしたのルナ?何か私に用事があるの?」
「クレア、あまり落ち込んでもダメ。グレイにだって、話したくないことの1つや2つはあるでしょう?あなたに言う必要は無かった、そう感じたからグレイはあなたに話さなかった。」
確かに、その通りだと思う。
あんな辛い過去を、誰かに話したくないのは当然のことだ。
だけど・・・私になら・・・話して欲しかった・・・。
「ねぇ、クレア。あなたは、グレイのことが好きなの?」
「え?!な、何言ってるの、ルナ!そんなわけないでしょう?」
「・・・・にやにや。」
なんだろう、いますごくイライラした。
今のは突然わけわからないことを言われて、焦っただけ・・・だと思う。
なんか心臓が跳ね上がるくらい驚いたけど、別に何も考えてないし。
「・・・別になんとも思ってないわ。でも、仲間なんだから一言ぐらい相談して欲しかったかな?」
「素直じゃない。でも、まぁおもしろいからいい。・・・グレイはたぶん、あなたに話すことで余計に心配をかけてしまうことを恐れたと思う。会って間もないけど、目を見ればわかる。過去を話している時のグレイの顔、とても辛そうだったけど、同時に何かを恐れていたような気がしたから。」
やはり、ルナは鋭いと思う。私ですらそんなことわからなかったのに、そこに気づくなんて。
その理由があるなら、グレイが言いたくないのもわからなくもないけど、それでも頼って欲しいと思うのが仲間である。実に理不尽な理由だけど、それを私は望んでいる。でも、本当に仲間として心配しているのか。私はグレイのことを仲間じゃなくて・・・・・。
「うああぁぁぁ~~・・・。別に、なんでもないのにぃ・・・・。頭痛くなってきた・・。」
「ふふ、クレア、可愛い。私から言えるのは1つ。今グレイはとても不安だと思う。命を狙われて、それに目の色まで変えられて・・・。クレアが傍に居て、しっかりと支えてあげて。あなたにしかできないと思うから。」
「・・・そうね。私もしっかりしないとね。あいつはバカだから、またかっこつけるんでしょうけどね。目の色変わったくらいで落ち込まないように、しっかり元気つけてあげなきゃ。」
そうだ、私に出来ることをすればいい。
たくさん守ってもらった恩を返す時。
グレイが辛いのなら、私が支えてあげるしかない。
明日から、気持ち入れ替えて頑張ろう。
「ねぇ、クレア。あなたとグレイは、旅に出ているの?」
「ん?そうだよ。あいつは何か世界の全てを知るとか言ってて、私は一応雑貨屋の娘だから、素材とか薬とかを仕入れるために旅に出てるの。」
「・・・本当にそうなの?グレイが心配でしょうがないんじゃ・・。」
「ばっ・・ちがうわ!私はそんなことで旅になんて出ない!」
何を言い出すんだ、この子は。
そんなことで危険な旅にわざわざ出るわけ無いでしょ!馬鹿にしてんの?!
「ふ~ん・・・・。・・・・決めた。」
「え?何を?」
「秘密。そんなことより、一緒に寝よ。私、眠い。」
相変わらず、マイペースだ。
でも、ルナの身体は小さいし、一緒に寝たら気持ちいいかもしれない・・・。
「そ、そうね。一緒に寝ましょうか。」
「ふふ、私の身体であったまるなんて・・・へんなこと考えるね、クレアも。」
「・・・・・なんでわかるの?」
「秘密。」
こうして夜は更けていった・・・。
朝、起床した俺は朝食を済ませて、正午まで町の中をうろつこうと考えた。
故郷を出て、初めて見たほかの町。
薬とか、いろいろいいもの有りそうだしな。
ゆっくり見ていくとしよう。
「へぇ・・・・身体能力向上リストバンドか・・・。」
興味深いものを見つけた。
装備した人の身体能力が飛躍的に向上するらしい。
値段は10万J。・・・・無理だな、諦めよう。
「おっ・・・これなんていいな。」
俺が手に取ったものは、砥石。
剣だってしっかり手入れをしなくてはダメになってしまう。
それに、切れ味を最高にしておけば、戦闘も少しは楽になるだろうし。
値段は1000J。決めた、買おう。
「これくださーい。」
そうこうしているうちに、時刻はあっという間に正午へ。
町の出口に付いても、クレアはいなかった。
「何してるんだよあいつ・・・・。」
しょうがない、少し待つか。
15分後・・・。
前方に2つの影。
一つは見ただけでわかる、クレアだ。
ただもう一方がわからない。
小さい、クレアと何か話している。
「グレイ!この子なんとかしてよ~・・・」
「なんだ、どうしたんだよ。一緒に連れているのは・・・ってルナか?!」
もう一つの影はルナだった。
しかしなんだろう、ものすご~く嫌な予感がした。
ただの見送りならいいけど・・・。
「グレイ。単刀直入に言う。私を町の外へ連れて行って。私もあなたの言うとおり、世界に興味を持った。あとは、クレアに興味を持った。」
「はぁ?!・・・クレア、どういうことだよ?」
まったく何がなんだかわからない。
クレアが昨晩何かしたのだろうか。
「知らないわよ!何が何でも離れてくれなくて・・・。ルナは、本気みたい。」
「うん。ガチで言ってる。私は、優秀だし、治癒術も使えるし、いざとなればこのナイフで・・・。」
自分で優秀とか言っちゃってるね。まぁ違いは無いけど。ってかナイフ怖いっての。
「まぁ優秀であることはわかってるんだけど、外は危ないしな?悪いことは言わないから、付いてこないほうがいいぜ?」
いればとても頼りになりそうだけど、そんなことで決めてはいけないと思った。
「・・・あなたを治療したのは私。そのくらい、わかるでしょ?」
ギラリとナイフの先端を光らせて、無表情で言うルナ。だから怖いっての。
「そ、そりゃそうだけど・・・・危ないし。感謝はしているけど、だからこそ危ない目にあわせたくないというか・・・。」
「うるさい。さっさと連れて行け。私は無駄な時間が嫌い。何が何でも付いていくから、諦めたほうがいい。」
「参った、俺の手には負えん。クレアよ、後は任せた。」
「・・・もういいんじゃない?別に付いてきたって。ルナは決して悪い子じゃないし。」
「あのなぁ・・・怪我をされたら本当に困るし、心配なんだよ。」
「うるさいわね。良いったらいいの!心配性がうざいのよ!行きましょう、ルナ。」
まさか逆ギレされるとは思わなかった・・・。
とはいえ、クレアまで良いって言うんならもうとめられないな。
「はぁ・・・わかった。だけど、帰りたくなったらいつでも言うんだぞ。怪我、病気に気をつけろよ。」
「うん。ありがとう、グレイ。それじゃ、行こう?」
「そうね、行きましょうか。次はどっちに行こうかしらねぇ・・・。」
「この町から西に行けば、森があるって聴いたことがある。」
「マジか?!森は新鮮だなぁ・・。よし、次はそこに行ってみるか。」
こうして、新たな仲間を加えた俺達はまた、進んでいく。
目指すは西にある森。
3人組は、話し声が尽きることなく、進んでいった・・・。