第2話 死闘の果てに
「なんだ・・・こいつは・・・!」
出口かと思われた場所。
そこで俺達を待ち構えていたのは、モンスター。
「そんな・・・・。でかすぎるじゃない・・っ。」
なにより特徴的なのは、その大きさ。
3mを普通に超えている、獣人型モンスター。
腰に鉈のようなものを付けている。
狂気的に輝く瞳。涎を垂らす口。剣山のように逆立つ鬣。
いままで戦ったモンスターの中では最強であるとわかる。
なにより、真正面で対峙した時に襲い掛かる圧倒的なプレッシャー。
・・・こいつは苦戦するだろうな。
「くそっ・・・。もう一度戻って穴を下っていたら、その隙にやられちまう!戦うしかないぞ!」
俺達は洞窟の中央部に進んでしまっている。このまま背中を見せて逃げたら、あっという間にやられる。
「そんなこと言ったって無理よ、あのでかさじゃ!私とあなたでは到底歯が立たないわ!」
「だからって諦めるのか?!やるしかないんだよっ!いくぞ!」
簡単に倒せる相手じゃないことはわかっている。最悪、死ぬことも・・・。
それでも、やるしかない。
俺達は、ここで死ぬわけにはいかないから。
それに、やらなければ、殺される。それならやって殺されるほうが、まだいい。
「うおおおぉぉぉ!!」
先手必勝。
俺は剣技【アバランシュ】を発動する。
「私だって、あなたを守ると決めた・・・・。やるしかない。紅蓮の炎よ。怒れる龍の如くその力を解き放ち、邪悪なる者たちを焼き尽くせ。【ファイアー・ショット】!」
クレアも後ろから魔術を撃ってくれる。
[ヴルアアアアアア!!]
獣人型モンスターが、腰の鉈を抜き、俺の【アバランシュ】を受ける。
---ガキィィン!!
「なっ・・・・!!」
俺の全力の剣技を、奴は片手の鉈を軽く一振りして受けただけで、凄まじい衝撃だった。
その衝撃を受けきれなかった俺は、身体ごと後ろへ吹き飛んだ。
手が痺れる。そのまま俺は、剣を落としてしまう。
・・・・なんて力だ。モンスターってのは底知れねぇ・・・。
しかし、俺の攻撃をはじき返したあのモンスターは今頃、クレアの【ファイアー・ショット】を食らっているだろう。
さすがに魔術とあればダメージも大きいはずだ。
「な、なんで・・・?!なんで効いていないのよ?!」
クレアの口から驚きの言葉が飛び出す。
効いて、いない・・・?
モンスターの身体を見ると、術が当たったと思われる箇所から煙がすこし出ているだけだった。
術が効いた様子は、まったくなかった。
「ちっ・・・。油断していたな。次はもっと大きな技で行く!クレアも、もう一度だ!」
「わかってる!・・・生命の根源たる水よ。邪悪なるもの達に女神の怒りを天より降らせよ。【アクエリア・ショット】!」
おそらく、先ほど使っていた【アクエリア・ウェーブ】は魔力が足りないようだった。
それでも、あの魔術の威力は相当のものだ。直に食らった俺だからこそわかる。
あの術を食らえば、おそらくだが4~5秒は動きが止まるはず!
そこに俺が【スラッシュ】を胴体に当てれば・・・。
[ヴァァァァァ!!!]
予想通り。
天から勢いよく降り注ぐ水に、獣人型モンスターの動きが止まった。
・・・・目に水が入ったのだろうか?ごしごしと目を擦っている。
「セアアアアアア!!!」
---ザシュッ!!
下段からの、切り上げ剣技【スラッシュ】がモンスターの身体を抉る。
これは綺麗に決まった。
俺が最初に覚え、ずっと使ってきた【スラッシュ】は、俺が使える剣技で一番キレがいい。
奴にもダメージはけっこう通ったはず。
[ヴオオオオ!!]
・・・・・あれ?元気になってないか?
奴の身体を見ると、斬りつけた箇所に、傷は見当たらなかった。
「ば、ばかな・・・・。さっきの切り上げによるダメージは、まったく通っていなかったのか・・?」
呆然とする俺に、獣人の反撃が襲い掛かる。
「グレイ!危ない!」
「・・・・・?!まずい!!」
---ガスッ!!
危なかった。
とっさに背中から取り出した盾で辛うじて防げたものの、衝撃は容赦なく、身体を痺れさせる。
クレアが言ってくれなければ、あの攻撃でひとたまりもなかった。
一度、獣人と距離を取る。
恐ろしいことに、奴の攻撃力、防御力はケタ違いだ。
身体を斬りつけたとて、奴にダメージは通らなかった。魔術でも結果は変わらなかった。
ならば、どうダメージを与える・・・?
攻撃をただ当てても無駄。かといって、このまま逃げ続けても待つのは死。
こうして考えている時にすら、もう獣人は俺に近づいてきている。
[ブラアアアアアアア!!]
「ちぃっ・・・!クレア!これを飲んで魔力を回復しておけ!」
クレアに親父からもらった薬を渡す。
「わかったけど、どうするのよ?!このままじゃ確実に死ぬわ!」
「今考えている!考えながら、時間を稼ぐから、魔力の回復を急いでくれ!」
「ハァ!!」
獣人の攻撃を盾で受けたら、確実にしばらくは硬直してしまう。
その間にやられてしまう可能性が高い。
そう考えた俺は、奴の攻撃をかわすことに専念する。
洞窟を全速で駆け回り、ぎりぎりのところで飛びついてかわす。
しかし、俺も人間。体力は無限ではない。
いつまでも奴の攻撃をかわせるはずがなかった。
何度か奴の攻撃をかわしているうちに・・・。
---グシュッ!!
「ぐああああっ!!」
「グレイーーー!!」
奴の鉈が左腕を切り裂いた。
辺りに飛び散る鮮血。
腕は幸い千切れてはいないものの、回復しないことには使い物にならなくなってしまった。
逃げ続けることもできなくなった。
これは・・・本格的にやばいな・・・。
左腕からの出血と、痛みがひどい。
動かなくなった身体で、ただ俺は獣人の姿を見ることしか出来なくなった・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
「・・・・ん?」
なんだか、様子が変だ。
追撃を行うかと思われた獣人の行動が、違ったものであったからだ。
目を擦っている。ごしごしと。何度も何度も。
獣人の顔に赤い斑点が見える。
擦るたびに斑点は薄れ、顔に塗り広げられていく。
あれは・・・血、か?
俺を切った時の血が奴の顔についたのか・・・?
ただ、どうにも気になる。
あの目を擦る仕草に既視感を感じた。
俺は、この戦いでの記憶を辿る。
圧倒的な攻撃力、防御力を前に追い詰められていく俺達。
そんな俺達でも、一度だけ、攻撃することが出来た。
クレアの放った【アクエリア・ショット】の足止めのおかげで、俺は【スラッシュ】を出せた。
【アクエリア・ショット】は、奴の動きを止めることに成功したんだよな・・・。
予想を上回り、7秒ほど奴は動きを止めていた。
思えばなぜ、【ファイアー・ショット】ではなく【アクエリア・ショット】で奴の動きをとめることが出来たのだろうか。
【ファイアー・ショット】を受けたとき、奴は平然としていた。
【アクエリア・ショット】を受けたとき、彼は動きを止めた。
異なる点は、術の着弾点。
火球を飛ばす【ファイアー・ショット】は奴の腹に当たった。
天から水を叩きつける【アクエリア・ショットは】奴の頭から当たっていった。
奴の行動を思い返してみる。
俺が【スラッシュ】を放つ前に、奴は何をしていたか・・・。
「そうか、そうだったのか・・・。」
全てのキーワードが繋がった。
奴の目を擦るという行動に既視感を感じたのも無理はない。
だって、その行動は‘既に’見ているのだから。
俺は奴が【アクエリア・ショット】を食らって、目を擦っている姿をすでに目撃している。
水が目に入って、目を擦る。
血が目に入って、目を擦る。
その間、奴の行動は全て止まる。
つまり、奴の弱点は・・・。
「見つけた・・・弱点!」
「え?!本当なの?!でも、あなたはそんな怪我じゃ!」
「クレア、魔力の回復はしてあるな? お前にしか出来ない、この状況を打破できる作戦を言う。」
そう、これしか道はない。
奴の動きを止め、2人で安全にこの洞窟から抜け出す方法。
「俺が奴の目を閉じさせる。お前は、奴が目を閉じている間に、目に向かって正確に、更に、一番早く飛んでいく魔術を出してくれ。奴の目を潰す、それが俺達にできる最善の勝ち方だ。」
「ちょっと待って、なんでいきなり目を狙う話になってるのよ?!それに、目を閉じさせるって・・・一体何するつもりよ?!」
「詳しく説明している時間はないんだ!とにかく、指示したとおりに頼む!一度しかないチャンスなんだ!スピードと正確さがある魔法を頼む!」
目を擦り終えた獣人が、今度こそとどめを刺すと言わんばかりに、俺に鉈を振り下ろしてくる。
「かかったな・・・!食らえ!」
俺は全力を振り絞って、身体を後ろへとステップさせる。
届け、届いてくれ・・・!
鉈の切っ先がぎりぎり俺に届かないという距離まで、身体を無理やり持っていく。
切っ先が俺より10cm前方を空振ろうようとした直後、俺は無事な右腕を前に出す。
---ブシャッ!!
「ぐあああああああああ!!」
[ヴオオオオオオ!!]
俺と獣人が一斉に叫ぶ。
俺は、無事な右腕をわざと斬られた。
狙いはもちろん、奴の目を塞ぐため。
大胆な賭けだが、狙い通り俺の血は奴の目に飛んでいった。
「い・・・ま・・・だ!やれぇ!クレアーー!」
「グレイッ!!・・・・紅蓮の炎よ。その身を千に分け、放たれる一つの矢の如く、全てを射抜け。【フレア・アロー】!」
魔方陣から、数え切れない炎の矢が生成され、獣人の目元へと一斉に放たれていく。
目を擦ろうと、獣人が手を目に持っていく寸前に、炎の矢は獣人の目元に突き刺さっていく。
[ヴ・・ヴアアアアアアアアア!!!!]
洞窟に響く断末魔。
まちがいない、奴の目が弱点だ。
これで、奴の視力は奪われた。
俺達を襲うことも、もはや出来まい。
・・・クレアの奴、あんな魔術使えるなんて。やっぱりすごいな、あいつは。
両の腕の痛みを必死で堪えていた俺も、もう・・・限界か・・・。
身体から失われていく、大量の血液。
ああ・・・意識が薄れてきた・・・。
これ・・・で・・・奴は・・・。
俺、死ぬのかな・・・・。
獣人が目元をおさえて苦しむ姿を見ながら、俺の意識は薄れていった・・・。
「グレイ?!ねぇ!グレイったら!・・・・意識がないのかしら・・・。」
薬を飲ませようにも、意識がなければ飲み込むことが出来ない。
獣人が苦しむ声を聞きながら、私は焦っていた。
とにかく出口を探さなければ・・・。でも、一体どこに。
グレイはかなりの重傷だ。放置すると本当に死んでしまう。
治癒術を試みたものの、私の治癒術では彼の傷口を塞ぐ程度のことしか出来なかった。
体力もなくなっているはず、傷口を塞いだ程度じゃ、グレイは・・・。
お願い、どうか死なないで・・・・。
「こっち。こっちに、出口がある。」
突如後ろから聞こえる謎の女性の声。
後ろを見ても姿は見えないが、明らかに私たちのことを呼んでいる、と思う。
「早く来なさい。あのモンスターが落ち着く前に。」
私達は、このまま居てもどうすることもできない。
ここはあの女性の声に従うのが賢明な判断だろう。
指示通り、一度来た道を戻ることにした。
上ってきた穴をもう一度下る。
「重たいわね・・・・・。よいしょっ・・・よいしょっ・・・。」
グレイを担ぎながら穴を下るのは、かなり大変だった。
「起きたら・・・、文句言ってやるんだから・・・・。」
ようやく穴を下り終えた。
さっきは穴を見つけて、夢中で走ってしまったから、あまりここら辺は詳しく見ていない。
「こっち。そこの通路を左に曲がって、突き当りを右に。」
声の主のシルエットは見えたが、けっこう小さめだった。
指示通りに、洞窟を進んでいく。
・・・・あれ?ここは・・・どこだ・・・?
確か俺は、モンスターと戦ってて腕を切られて、大量に出血して意識を失ったはずだ。
しかし、ここにあるのはモンスターでも、クレアでもなく、ただの暗闇。
辺りを見回しても何もなかった。
---くくく、やはり貴様は弱いな。
突然暗闇の中から、赤い光が2つ漏れ出す。そこから声が聞こえる。
聞こえた声は、誕生日の朝に聴こえた幻聴と同じ声だった。
---いざ旅に出ても、結局貴様は何も変わらない。いつも他人から守られてばかりだ。
なんだか同じことを何度も聴いたような気がする。
しかし何度聴こうが関係ない。わかっていることを改めていわれるのは、とても不愉快だ。
そんなわかりきっていることを、なぜこいつは・・・。
「うるせぇよ!そんなことわかってんだよっ!俺が弱いことだって、全部、全部・・・っ!」
ムキになってキレてしまった。
弱い自分を変える、世界の頂に立つ、自分の真実を知る、全てを・・・知る。
果てしない目標を掲げても、旅を続けていればきっとたどり着けると信じていた。
旅に出て、すぐに変われると思っていた。
弱い自分を克服できると、思っていた。
世界の頂に立ちたいと、本気で思っていた。
ところがどうだ。
結局、モンスターだって、クレアがいなければ倒せなかった。
自分ひとりでは何も出来ない。弱さの克服なんて、何も出来ちゃいない。
世界の頂へ昇る道だって、きっと全然昇れていない。
悪夢のことなんて、あれから進展すらない。
知らないことが多すぎる。できないことが多すぎる。
足掻いて、もがいて、このざまだ。
こんなはずじゃ・・・なかったのに・・・。
身体が、心が、絶望に蝕まれていく。
「俺、旅に出なかった方がよかったかもな・・・。」
---所詮は‘出来損ない’か。貴様のような奴に、もはや真実を知る資格などない。
‘出来損ない’か。なんだかどこかで聴いた気がするな・・・。
けど、それももう関係ないことか。
真実も、結局たどり着けなかった。
‘出来損ない’である俺は、所詮その程度だったのだ。
「真実って、結局なんだったんだろうな・・・。」
---貴様の命にはもう何の価値もない。早々に、死ね。
あの大量の出血を見る限り、俺の命はもう長くないだろう。
願わくば、俺は死んでもクレアは無事でいてほしい。
彼女は‘出来損ない’なんかじゃない。
ここで死ぬべき人間は俺1人で充分だ。
ああ・・・・。なんだか眠くなってきたな・・・。
ここで眠れば、死ねるのだろうか。
眠れば、全てが終わってしまうのだろうか。
まぁ、関係のないことか。
もう、目覚めることはないのだから・・・・。
「・・・・・・ん・・・?」
突如暗闇を照らす、一筋の光が降り注いだ。
光の中に、白い手が見える。
言葉は出ていないが、俺に来いといっているかのように、手招きしている。
・・・あの手に掴まれば、死ねるのかな。
俺は右手を差し出す。
白い手を離さないよう、しっかりと掴んだ。
「死んだらどこに行くんだろう・・・。天国だったら、いいな・・・・。」
女性の指示通りに進むと、洞窟を抜け出すことができた。
外の空気を思いっきり吸い込みたいところだが、いまはそんなことしている場合じゃない。
早くしなければ・・・・、グレイが・・・。
グレイが死の淵をさまよっていることは、誰から見ていても明らかだった。
顔は血の気がなく、真っ白だった。心臓も弱弱しく、辛うじて動いているような状態であった。
「こっち。この洞窟を出て、北に進むと町がある。」
先ほどから、洞窟の出口まで案内してくれた女性が口を開く。
さすがに外だからか、姿を隠すことはできずに私の前に姿を現した。
身長は150cmあるかないかといったところだろうか。
フードを被っているから、顔はよく見えない。
とにかく、町があるのは好都合だった。
町に行けば、医院なり店なりいろいろとある。
「わかったわ。でも急がないとグレイが・・・。」
「急がなくても大丈夫。あなたがこの人の傷口を塞いでくれたおかげで、あと1時間は持つ。」
1時間って・・・けっこう短くないだろうか・・・。
しかも、そんなことなぜわかるのだろうか?
口から出かけた疑問を飲み込む。今はそんなこと聞くよりも、グレイを町に連れて行かなくては。
30分北へ進むと、町が見えた。
「あの町ね?急いでグレイを医院へ運びましょう!」
「焦らないで、まだ大丈夫だから。この人は、医院には運ばない。宿屋に運ぶ。」
何を言っているのだろか、この人は・・・。
「ちょ、ちょっと!医院に連れて行かないで、なんで宿屋に連れて行くのよ?!急がないとグレイが死んじゃうじゃない!」
「だから、焦らないでって言ってる。医院ではこの怪我を治すことはできない。だから宿屋に連れて行く。」
医院がだめだから宿屋に・・・?
言っていることの意味がわからない。
「この人は、絶対に死なせない。だから、早く宿屋に連れて行く。」
・・・私にできることは何もない。
洞窟からの出口を案内してくれたこの女性を、今は信じるしか・・・。
だけど、もしもこの判断でグレイが死んでしまったら、私はどうするだろう。
・・・きっと、この人を一生恨むんだろうな。
「ちょっと、あなた一体・・・?!」
「・・・・?治癒術で、この人の怪我を治すのだけど、何かおかしなことがあった・・・?」
驚いた。この人は、治癒術が使えるんだ・・・・。
グレイの心臓に、右手を乗せた直後、乗せた右手が緑色に光る。
見る見るうちに外傷は癒えていった。
「すごい・・・。こんなことが・・・・。」
後はもう安心してみていられた。
顔の血色も元に戻り、腕の傷も完全に塞がれ、身体の細かい外傷も全て癒えていた。
傷ならわかるけど、血はどうやって増やしたんだろう・・・。
「足りない分の血を、魔力に血と同じ成分を混ぜて、代用した。身体は新しい血を生産していくから、代用した魔力はなくなっていく。3日も経てば、この人は完全に復帰できる。じきに目を覚ますはずだから、見ていてあげて。」
魔術でそんなことまでできるんだ・・・。
魔力を血の代わりに・・・、そんな医療聴いたこともなかった。
これが、外の世界の医療。
「本当にありがとう。おかげでグレイと私は助かったわ!あなた、治癒術師なの?」
「・・・・・・。それじゃあ、またね。あまり無茶をしないこと。けっこう、危なかったから。」
私の問いに答えずに、彼女は去ってしまった。
本当に、不思議な人だったな。
「・・・・・・・・・んっ・・・。・・・・あれ・・・ここ、は・・?」
夕日がカーテンの隙間から差し込む。
目をゆっくりと開いていく。
ここは、天国か?地獄・・・ではなさそうだな。
「やっと、目覚めたのね!感謝しなさいよ?ここまで運ぶの大変だったんだからね。」
俺の様子に気づいたクレアがにっこりと笑いかける。
・・・・・俺は、生きていたのか・・・?
「ここ、どこだ・・・?」
「ここはあの洞窟を抜けて、北に進んだところにある町よ。《エスタリア》という町らしいわ。」
・・・・頭がはっきりとしない。
俺達はなぜか洞窟を抜けていて、《エスタリア》とやらの町にいる。
あの場面、どうやって抜け出したんだろうか。
「名前は聞けなかったけど、ある人に助けてもらってね。洞窟の出口を案内してくれたのも、その人だし、あなたの傷を治して、死の淵から連れ出してくれたのもその人よ。」
・・・すごい人もいたもんだな。
だけど、今の俺にとっては、そんなこと‘余計’なことだ。
「・・・・なぁ、クレア。」
「なに?まだどこか痛むの?」
痛みはないよ、残念ながらね。
次の瞬間、俺の口から思いもよらない言葉が飛び出した。
「この旅を、終わりにしないか。」
「・・・・え?」
何故、俺はこの言葉を呟いてしまったんだろう・・・。