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ナイトメア・クエスト  作者: 黒田夢斗
1章 未知との遭遇
4/6

第2話 死闘の果てに

「なんだ・・・こいつは・・・!」

 出口かと思われた場所。

 そこで俺達を待ち構えていたのは、モンスター。


「そんな・・・・。でかすぎるじゃない・・っ。」

 なにより特徴的なのは、その大きさ。

 3mを普通に超えている、獣人型モンスター。

 腰に鉈のようなものを付けている。

 狂気的に輝く瞳。涎を垂らす口。剣山のように逆立つ鬣。

 いままで戦ったモンスターの中では最強であるとわかる。

 なにより、真正面で対峙した時に襲い掛かる圧倒的なプレッシャー。

 ・・・こいつは苦戦するだろうな。

 

「くそっ・・・。もう一度戻って穴を下っていたら、その隙にやられちまう!戦うしかないぞ!」

 俺達は洞窟の中央部に進んでしまっている。このまま背中を見せて逃げたら、あっという間にやられる。

「そんなこと言ったって無理よ、あのでかさじゃ!私とあなたでは到底歯が立たないわ!」

「だからって諦めるのか?!やるしかないんだよっ!いくぞ!」


 簡単に倒せる相手じゃないことはわかっている。最悪、死ぬことも・・・。

 それでも、やるしかない。

 俺達は、ここで死ぬわけにはいかないから。

 それに、やらなければ、殺される。それならやって殺されるほうが、まだいい。


「うおおおぉぉぉ!!」

 先手必勝。

 俺は剣技【アバランシュ】を発動する。


「私だって、あなたを守ると決めた・・・・。やるしかない。紅蓮の炎よ。怒れる龍の如くその力を解き放ち、邪悪なる者たちを焼き尽くせ。【ファイアー・ショット】!」

 クレアも後ろから魔術を撃ってくれる。


[ヴルアアアアアア!!]

 獣人型モンスターが、腰の鉈を抜き、俺の【アバランシュ】を受ける。


---ガキィィン!!


「なっ・・・・!!」


 俺の全力の剣技を、奴は片手の鉈を軽く一振りして受けただけで、凄まじい衝撃だった。

 その衝撃を受けきれなかった俺は、身体ごと後ろへ吹き飛んだ。

 手が痺れる。そのまま俺は、剣を落としてしまう。

 ・・・・なんて力だ。モンスターってのは底知れねぇ・・・。

 しかし、俺の攻撃をはじき返したあのモンスターは今頃、クレアの【ファイアー・ショット】を食らっているだろう。

 さすがに魔術とあればダメージも大きいはずだ。



「な、なんで・・・?!なんで効いていないのよ?!」

 クレアの口から驚きの言葉が飛び出す。

 効いて、いない・・・?

 モンスターの身体を見ると、術が当たったと思われる箇所から煙がすこし出ているだけだった。

 術が効いた様子は、まったくなかった。


「ちっ・・・。油断していたな。次はもっと大きな技で行く!クレアも、もう一度だ!」

「わかってる!・・・生命の根源たる水よ。邪悪なるもの達に女神の怒りを天より降らせよ。【アクエリア・ショット】!」

 おそらく、先ほど使っていた【アクエリア・ウェーブ】は魔力が足りないようだった。

 それでも、あの魔術の威力は相当のものだ。直に食らった俺だからこそわかる。

 あの術を食らえば、おそらくだが4~5秒は動きが止まるはず!

 そこに俺が【スラッシュ】を胴体に当てれば・・・。


[ヴァァァァァ!!!]

 予想通り。

 天から勢いよく降り注ぐ水に、獣人型モンスターの動きが止まった。

 ・・・・目に水が入ったのだろうか?ごしごしと目を擦っている。


「セアアアアアア!!!」


---ザシュッ!!


 下段からの、切り上げ剣技【スラッシュ】がモンスターの身体を抉る。

 これは綺麗に決まった。

 俺が最初に覚え、ずっと使ってきた【スラッシュ】は、俺が使える剣技で一番キレがいい。

 奴にもダメージはけっこう通ったはず。


[ヴオオオオ!!]

 

 ・・・・・あれ?元気になってないか?

 奴の身体を見ると、斬りつけた箇所に、傷は見当たらなかった。

「ば、ばかな・・・・。さっきの切り上げによるダメージは、まったく通っていなかったのか・・?」

 呆然とする俺に、獣人の反撃が襲い掛かる。


「グレイ!危ない!」

「・・・・・?!まずい!!」

 

---ガスッ!!


 危なかった。

 とっさに背中から取り出した盾で辛うじて防げたものの、衝撃は容赦なく、身体を痺れさせる。

 クレアが言ってくれなければ、あの攻撃でひとたまりもなかった。


 一度、獣人と距離を取る。

 恐ろしいことに、奴の攻撃力、防御力はケタ違いだ。

 身体を斬りつけたとて、奴にダメージは通らなかった。魔術でも結果は変わらなかった。

 ならば、どうダメージを与える・・・?

 攻撃をただ当てても無駄。かといって、このまま逃げ続けても待つのは死。

 こうして考えている時にすら、もう獣人は俺に近づいてきている。


[ブラアアアアアアア!!]

「ちぃっ・・・!クレア!これを飲んで魔力を回復しておけ!」

 クレアに親父からもらった薬を渡す。

「わかったけど、どうするのよ?!このままじゃ確実に死ぬわ!」

「今考えている!考えながら、時間を稼ぐから、魔力の回復を急いでくれ!」


「ハァ!!」

 獣人の攻撃を盾で受けたら、確実にしばらくは硬直してしまう。

 その間にやられてしまう可能性が高い。

 そう考えた俺は、奴の攻撃をかわすことに専念する。


 洞窟を全速で駆け回り、ぎりぎりのところで飛びついてかわす。

 しかし、俺も人間。体力は無限ではない。

 いつまでも奴の攻撃をかわせるはずがなかった。

 何度か奴の攻撃をかわしているうちに・・・。


---グシュッ!!


「ぐああああっ!!」

「グレイーーー!!」


 奴の鉈が左腕を切り裂いた。

 辺りに飛び散る鮮血。

 腕は幸い千切れてはいないものの、回復しないことには使い物にならなくなってしまった。

 逃げ続けることもできなくなった。

 これは・・・本格的にやばいな・・・。

 左腕からの出血と、痛みがひどい。

 動かなくなった身体で、ただ俺は獣人の姿を見ることしか出来なくなった・・・。


 ・・・・・・・・・・・・・。


「・・・・ん?」

 なんだか、様子が変だ。

 追撃を行うかと思われた獣人の行動が、違ったものであったからだ。


 目を擦っている。ごしごしと。何度も何度も。

 獣人の顔に赤い斑点が見える。

 擦るたびに斑点は薄れ、顔に塗り広げられていく。

 あれは・・・血、か?

 俺を切った時の血が奴の顔についたのか・・・?

 ただ、どうにも気になる。

 あの目を擦る仕草に既視感を感じた。


 俺は、この戦いでの記憶を辿る。

 圧倒的な攻撃力、防御力を前に追い詰められていく俺達。

 そんな俺達でも、一度だけ、攻撃することが出来た。

 クレアの放った【アクエリア・ショット】の足止めのおかげで、俺は【スラッシュ】を出せた。

 【アクエリア・ショット】は、奴の動きを止めることに成功したんだよな・・・。

 予想を上回り、7秒ほど奴は動きを止めていた。

 思えばなぜ、【ファイアー・ショット】ではなく【アクエリア・ショット】で奴の動きをとめることが出来たのだろうか。


 【ファイアー・ショット】を受けたとき、奴は平然としていた。

 【アクエリア・ショット】を受けたとき、彼は動きを止めた。

 異なる点は、術の着弾点。

 火球を飛ばす【ファイアー・ショット】は奴の腹に当たった。

 天から水を叩きつける【アクエリア・ショットは】奴の頭から当たっていった。

 奴の行動を思い返してみる。

 俺が【スラッシュ】を放つ前に、奴は何をしていたか・・・。

 

 


「そうか、そうだったのか・・・。」

 全てのキーワードが繋がった。

 奴の目を擦るという行動に既視感を感じたのも無理はない。

 だって、その行動は‘既に’見ているのだから。

 俺は奴が【アクエリア・ショット】を食らって、目を擦っている姿をすでに目撃している。

 水が目に入って、目を擦る。

 血が目に入って、目を擦る。

 その間、奴の行動は全て止まる。

 つまり、奴の弱点は・・・。


「見つけた・・・弱点!」

「え?!本当なの?!でも、あなたはそんな怪我じゃ!」

「クレア、魔力の回復はしてあるな? お前にしか出来ない、この状況を打破できる作戦を言う。」

 そう、これしか道はない。

 奴の動きを止め、2人で安全にこの洞窟から抜け出す方法。


「俺が奴の目を閉じさせる。お前は、奴が目を閉じている間に、目に向かって正確に、更に、一番早く飛んでいく魔術を出してくれ。奴の目を潰す、それが俺達にできる最善の勝ち方だ。」

「ちょっと待って、なんでいきなり目を狙う話になってるのよ?!それに、目を閉じさせるって・・・一体何するつもりよ?!」

「詳しく説明している時間はないんだ!とにかく、指示したとおりに頼む!一度しかないチャンスなんだ!スピードと正確さがある魔法を頼む!」


 目を擦り終えた獣人が、今度こそとどめを刺すと言わんばかりに、俺に鉈を振り下ろしてくる。

「かかったな・・・!食らえ!」

 俺は全力を振り絞って、身体を後ろへとステップさせる。

 届け、届いてくれ・・・!

 鉈の切っ先がぎりぎり俺に届かないという距離まで、身体を無理やり持っていく。

 切っ先が俺より10cm前方を空振ろうようとした直後、俺は無事な右腕を前に出す。


---ブシャッ!!


「ぐあああああああああ!!」

[ヴオオオオオオ!!]


 俺と獣人が一斉に叫ぶ。


 俺は、無事な右腕をわざと斬られた。

 狙いはもちろん、奴の目を塞ぐため。

 大胆な賭けだが、狙い通り俺の血は奴の目に飛んでいった。

 

「い・・・ま・・・だ!やれぇ!クレアーー!」


「グレイッ!!・・・・紅蓮の炎よ。その身を千に分け、放たれる一つの矢の如く、全てを射抜け。【フレア・アロー】!」

 魔方陣から、数え切れない炎の矢が生成され、獣人の目元へと一斉に放たれていく。

 目を擦ろうと、獣人が手を目に持っていく寸前に、炎の矢は獣人の目元に突き刺さっていく。


[ヴ・・ヴアアアアアアアアア!!!!]


 洞窟に響く断末魔。

 まちがいない、奴の目が弱点だ。


 これで、奴の視力は奪われた。

 俺達を襲うことも、もはや出来まい。

 ・・・クレアの奴、あんな魔術使えるなんて。やっぱりすごいな、あいつは。


 両の腕の痛みを必死で堪えていた俺も、もう・・・限界か・・・。

 身体から失われていく、大量の血液。

 ああ・・・意識が薄れてきた・・・。

 これ・・・で・・・奴は・・・。

 

 俺、死ぬのかな・・・・。

 獣人が目元をおさえて苦しむ姿を見ながら、俺の意識は薄れていった・・・。


 


「グレイ?!ねぇ!グレイったら!・・・・意識がないのかしら・・・。」

 薬を飲ませようにも、意識がなければ飲み込むことが出来ない。

 獣人が苦しむ声を聞きながら、私は焦っていた。


 とにかく出口を探さなければ・・・。でも、一体どこに。

 グレイはかなりの重傷だ。放置すると本当に死んでしまう。

 治癒術を試みたものの、私の治癒術では彼の傷口を塞ぐ程度のことしか出来なかった。

 体力もなくなっているはず、傷口を塞いだ程度じゃ、グレイは・・・。

 お願い、どうか死なないで・・・・。

 


「こっち。こっちに、出口がある。」

 突如後ろから聞こえる謎の女性の声。

 後ろを見ても姿は見えないが、明らかに私たちのことを呼んでいる、と思う。

「早く来なさい。あのモンスターが落ち着く前に。」

 私達は、このまま居てもどうすることもできない。

 ここはあの女性の声に従うのが賢明な判断だろう。

 指示通り、一度来た道を戻ることにした。


 上ってきた穴をもう一度下る。

「重たいわね・・・・・。よいしょっ・・・よいしょっ・・・。」

 グレイを担ぎながら穴を下るのは、かなり大変だった。

「起きたら・・・、文句言ってやるんだから・・・・。」

 

 ようやく穴を下り終えた。

 さっきは穴を見つけて、夢中で走ってしまったから、あまりここら辺は詳しく見ていない。

「こっち。そこの通路を左に曲がって、突き当りを右に。」

 声の主のシルエットは見えたが、けっこう小さめだった。

 指示通りに、洞窟を進んでいく。




 ・・・・あれ?ここは・・・どこだ・・・?

 確か俺は、モンスターと戦ってて腕を切られて、大量に出血して意識を失ったはずだ。

 しかし、ここにあるのはモンスターでも、クレアでもなく、ただの暗闇。

 辺りを見回しても何もなかった。

 

 

---くくく、やはり貴様は弱いな。


 突然暗闇の中から、赤い光が2つ漏れ出す。そこから声が聞こえる。

 聞こえた声は、誕生日の朝に聴こえた幻聴と同じ声だった。


---いざ旅に出ても、結局貴様は何も変わらない。いつも他人から守られてばかりだ。

 

 なんだか同じことを何度も聴いたような気がする。

 しかし何度聴こうが関係ない。わかっていることを改めていわれるのは、とても不愉快だ。

 そんなわかりきっていることを、なぜこいつは・・・。


「うるせぇよ!そんなことわかってんだよっ!俺が弱いことだって、全部、全部・・・っ!」

 ムキになってキレてしまった。


 弱い自分を変える、世界の頂に立つ、自分の真実を知る、全てを・・・知る。

 果てしない目標を掲げても、旅を続けていればきっとたどり着けると信じていた。


 旅に出て、すぐに変われると思っていた。

 弱い自分を克服できると、思っていた。

 世界の頂に立ちたいと、本気で思っていた。


 ところがどうだ。

 結局、モンスターだって、クレアがいなければ倒せなかった。

 自分ひとりでは何も出来ない。弱さの克服なんて、何も出来ちゃいない。

 世界の頂へ昇る道だって、きっと全然昇れていない。

 悪夢のことなんて、あれから進展すらない。

 知らないことが多すぎる。できないことが多すぎる。

 足掻いて、もがいて、このざまだ。

 こんなはずじゃ・・・なかったのに・・・。

 


 身体が、心が、絶望に蝕まれていく。


「俺、旅に出なかった方がよかったかもな・・・。」


---所詮は‘出来損ない’か。貴様のような奴に、もはや真実を知る資格などない。


 ‘出来損ない’か。なんだかどこかで聴いた気がするな・・・。

 けど、それももう関係ないことか。

 真実も、結局たどり着けなかった。

 ‘出来損ない’である俺は、所詮その程度だったのだ。


「真実って、結局なんだったんだろうな・・・。」


---貴様の命にはもう何の価値もない。早々に、死ね。


 あの大量の出血を見る限り、俺の命はもう長くないだろう。

 願わくば、俺は死んでもクレアは無事でいてほしい。

 彼女は‘出来損ない’なんかじゃない。

 ここで死ぬべき人間は俺1人で充分だ。


 ああ・・・・。なんだか眠くなってきたな・・・。

 ここで眠れば、死ねるのだろうか。

 眠れば、全てが終わってしまうのだろうか。

 まぁ、関係のないことか。

 もう、目覚めることはないのだから・・・・。


「・・・・・・ん・・・?」

 突如暗闇を照らす、一筋の光が降り注いだ。

 光の中に、白い手が見える。


 言葉は出ていないが、俺に来いといっているかのように、手招きしている。

 ・・・あの手に掴まれば、死ねるのかな。

 俺は右手を差し出す。

 白い手を離さないよう、しっかりと掴んだ。

「死んだらどこに行くんだろう・・・。天国だったら、いいな・・・・。」




 女性の指示通りに進むと、洞窟を抜け出すことができた。

 外の空気を思いっきり吸い込みたいところだが、いまはそんなことしている場合じゃない。

 早くしなければ・・・・、グレイが・・・。


 グレイが死の淵をさまよっていることは、誰から見ていても明らかだった。

 顔は血の気がなく、真っ白だった。心臓も弱弱しく、辛うじて動いているような状態であった。


「こっち。この洞窟を出て、北に進むと町がある。」

 先ほどから、洞窟の出口まで案内してくれた女性が口を開く。

 さすがに外だからか、姿を隠すことはできずに私の前に姿を現した。

 身長は150cmあるかないかといったところだろうか。

 フードを被っているから、顔はよく見えない。

 

 とにかく、町があるのは好都合だった。

 町に行けば、医院なり店なりいろいろとある。

「わかったわ。でも急がないとグレイが・・・。」

「急がなくても大丈夫。あなたがこの人の傷口を塞いでくれたおかげで、あと1時間は持つ。」

 1時間って・・・けっこう短くないだろうか・・・。

 しかも、そんなことなぜわかるのだろうか?

 口から出かけた疑問を飲み込む。今はそんなこと聞くよりも、グレイを町に連れて行かなくては。



 30分北へ進むと、町が見えた。

「あの町ね?急いでグレイを医院へ運びましょう!」

「焦らないで、まだ大丈夫だから。この人は、医院には運ばない。宿屋に運ぶ。」

 何を言っているのだろか、この人は・・・。


「ちょ、ちょっと!医院に連れて行かないで、なんで宿屋に連れて行くのよ?!急がないとグレイが死んじゃうじゃない!」

「だから、焦らないでって言ってる。医院ではこの怪我を治すことはできない。だから宿屋に連れて行く。」

 医院がだめだから宿屋に・・・?

 言っていることの意味がわからない。

「この人は、絶対に死なせない。だから、早く宿屋に連れて行く。」

 ・・・私にできることは何もない。

 洞窟からの出口を案内してくれたこの女性を、今は信じるしか・・・。

 だけど、もしもこの判断でグレイが死んでしまったら、私はどうするだろう。

 ・・・きっと、この人を一生恨むんだろうな。



「ちょっと、あなた一体・・・?!」

「・・・・?治癒術で、この人の怪我を治すのだけど、何かおかしなことがあった・・・?」

 驚いた。この人は、治癒術が使えるんだ・・・・。


 グレイの心臓に、右手を乗せた直後、乗せた右手が緑色に光る。

 見る見るうちに外傷は癒えていった。


「すごい・・・。こんなことが・・・・。」

 後はもう安心してみていられた。

 顔の血色も元に戻り、腕の傷も完全に塞がれ、身体の細かい外傷も全て癒えていた。

 傷ならわかるけど、血はどうやって増やしたんだろう・・・。


「足りない分の血を、魔力に血と同じ成分を混ぜて、代用した。身体は新しい血を生産していくから、代用した魔力はなくなっていく。3日も経てば、この人は完全に復帰できる。じきに目を覚ますはずだから、見ていてあげて。」


 魔術でそんなことまでできるんだ・・・。

 魔力を血の代わりに・・・、そんな医療聴いたこともなかった。

 これが、外の世界の医療。


「本当にありがとう。おかげでグレイと私は助かったわ!あなた、治癒術師なの?」

「・・・・・・。それじゃあ、またね。あまり無茶をしないこと。けっこう、危なかったから。」

 私の問いに答えずに、彼女は去ってしまった。

 本当に、不思議な人だったな。




「・・・・・・・・・んっ・・・。・・・・あれ・・・ここ、は・・?」

 夕日がカーテンの隙間から差し込む。

 目をゆっくりと開いていく。

 

 ここは、天国か?地獄・・・ではなさそうだな。


「やっと、目覚めたのね!感謝しなさいよ?ここまで運ぶの大変だったんだからね。」

 俺の様子に気づいたクレアがにっこりと笑いかける。

 ・・・・・俺は、生きていたのか・・・?

「ここ、どこだ・・・?」

「ここはあの洞窟を抜けて、北に進んだところにある町よ。《エスタリア》という町らしいわ。」

 ・・・・頭がはっきりとしない。

 俺達はなぜか洞窟を抜けていて、《エスタリア》とやらの町にいる。

 あの場面、どうやって抜け出したんだろうか。


「名前は聞けなかったけど、ある人に助けてもらってね。洞窟の出口を案内してくれたのも、その人だし、あなたの傷を治して、死の淵から連れ出してくれたのもその人よ。」

 ・・・すごい人もいたもんだな。

 だけど、今の俺にとっては、そんなこと‘余計’なことだ。


「・・・・なぁ、クレア。」

「なに?まだどこか痛むの?」

 痛みはないよ、残念ながらね。

 次の瞬間、俺の口から思いもよらない言葉が飛び出した。


「この旅を、終わりにしないか。」


「・・・・え?」


 何故、俺はこの言葉を呟いてしまったんだろう・・・。



 


 



 

 

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