③
そして、森を進むにつれ、どんどん険しくなっていった。
「あっ…」
優乃が石に躓き、また転んでしまった。
「本当にドジだな。まぁ、もうすぐで街に着く。ほらな」
フィーナに言われ、目を凝らして見ると、出口らしきものが見えた。
そして森を抜け、しばらく歩いた先にある橋を渡ると、たくさん家のようなものが並んで建っていた。
ほとんどがボロボロで、壁などはコンクリートらしい。
家が建っていると思えば、隣には屋台のような脆い店が並んでいたりと、優乃が今まで住んでいた都会の景色とは全く正反対だった。
だが、何故かここはガランガランで人の気配が全く感じなかった。
ここに居るのは優乃とフィーナだけなのだ。
「ここって本当に街なんですか…?誰もいない…」
「ああ。かつては街だった。だが<あれ>が起こってからは誰もいなくなってしまった」
「<あれ>…?」
「あまり優乃をこの世界の奴らに見せたくなかったから、あえてこの場所を選んだんだ。正解だったな」
「なんで私の姿を見せたくないんですか?」
「さっきも言ったとうり、優乃は人間界で生きるべき人間であり、この世界にいてはいけない存在なんだ。よく考えて。そんな世界に人間がいたらこの世界は大騒ぎになる。だからやたらと優乃の姿をこの世界の者に見られたくなかったんだ」
「でも私が今いるこの世界が人間界じゃないなんて…証拠は!?」
「優乃には分からないが、人間には人間特有のニオイがある。だから遠くにいても、人間がいるって分かったんだ。そして優乃を見つけた」
「そ…そう…」
優乃は信じることが出来なかった。確かに自分が住んでた国にもこんな廃墟のような街はなかったし、あったとしても外国だろう。だが何処か納得していない自分がいた。
「とにかく立ち話も何だから。中に入って」
優乃が連れられたのは、コンクリートで造られた少し古い一軒家のような建物だった。
「勝手に入ってもいいんですか?」
「ああ。今はもう誰もいないし…。廃墟のようなもんだよ。まぁ信じられないと思うが、今は信じるしかないよ。」
「はい…」
そして木材製の脆い椅子と机があり、二人はそれぞれ座った。
「とにかくこの世界には人間なんて一人もいない。みんな人間のような容姿をしているが人間じゃない。あたしだってそうだ」
「フィーナも?」
「もちろん。あたしは人間なんかじゃない」
「そうだよね。改めてその事実を聞くと、心細い…。これが全部夢ならな…」
「本当にそう思ってるか?」
「えっ?」
「本当は嬉しいんじゃないの?」
「なんで…分かるの…?」
「伝わってくるんだ。何故か知らないが、伝わってくる」
「私、友達が少なくて…一人なんです。だから、寂しくて。消えてしまいたいって思ってたら、意味分かんない世界に来ちゃって…、本当に消えることが出来たんだって…そう考えると嬉しくって」
「…」
「ごめん…急に変な話して」
「…でも、一人はいるんだろ?」
「え?」
「友達…」
「…うん。かけがえのない`親友'が一人…」
「…だったら幸せじゃねぇか。あたしは…あたしは…誰もいないんだ。家族も友達も…誰も」
「そうなの…?」
「でももう慣れた。一人でも生きていけてるからいいんだ。これで…。
…さぁ、そろそろ行くぞ」
フィーナが椅子から立ち上がった。
「え…どこへ?」
優乃がそう聞くと、フィーナが微笑みながら、
「あたしの家に決まってんだろ?」
「でもまだあの話聞いてない!街から人々がいなくなって街がこうなってしまった、あの話」