②
「どこ…?ここ…」
優乃は不思議そうな顔で辺りを見渡した。
それもそのはずだった。
いつもならこのトンネルを抜けると、見慣れている街や道路や建物が目に入るのだが、その面影はもはやなかった。
全く知らない場所。優乃は呆然と立ち尽くしていた。
目の前には、大きくて透き通った湖があり、その周りには沢山の木々や草が緑に生い茂り、はえている。
木々の間からは、白く眩しい光が漏れ、湖を美しく照らし出していた。
そして青と白のミックスの色をした、色鮮やかな小鳥たちがさえずりまわっている。
東京では見られないような鳥や小鳥が。
とにかく言葉では言い表せられない幻想的な光景が広がっていた。
先ほどまで抱いていた不安など、もうどこかへ消えてしまったようで、優乃は興味津々で近辺を探索してみようと考えた。
だが、
「っ!」
足を負傷していたことすらも忘れてしまっていたようで、足を歩ませた時に足に痛みを感じ、力が抜け転んでしまった。
「痛っ…。あ」
ふと何かが閃いたように微笑み、湖に近づいた。
そして優乃は両手で湖の水を掬いあげ、右足の傷口にそっとかけた。
「いっ…たた…」
水がしみたようで、思わず言葉が溢れてしまう。
そして何度もこの動作を行い、止血をした。
「はぁ…。」その時だった。
ガサッ
優乃の後ろの方で、草と草が擦れあったような音がした。
「誰…」
すると、優乃の近くにあった木の影から人影らしきものが見えた。
その瞬間、目にも止まらぬ早さで優乃目掛けて走ってきて、何かを突き出した。
刀だ。
「お前、人間だろ?どうやって人間界からここにやって来た」
なんと人影の正体は女だった。
見た限り、年齢もそう高くないと思える。
優乃とさほど変わらないくらいの年だ。
格好は優乃と似たような制服を来ていた。
白のYシャツに黒い膝上丈のスカート。そして紺のハイソックスに赤いリボンだった。
だが何故かこの少女の瞳はエメラルドのような色だった。
「あ、あの…」
「…」
「…?私は何も…」
「そうか…知らず知らずの内に何らかの異常が発生し、偶然ここに飛ばされたわけだな」
「あの…。えっと…」
「説明はきちんとする。最初に言っておくけど、ここは、あなたが今まで住み慣れてきた世界じゃない。つまり人間界じゃないということ。ここは空世界と呼ばれる世界なの。まずは説明できる場所へ移動したい。来てくれないか?」
「……?わかった…」
優乃がそう返事をすると、少女は突き出していた刀を鞘に納め、「こっちだ」と付いてくるよう命じた。
少女の名は、フィーナ。
フィーナの話によると、どうやらここは深い森の中らしい。
何故優乃がこの世界に飛ばされたのかは、さすがのフィーナでも分からないようだ。
詳しい話は、この森を抜けたところにある<ニール>という街に着けば話すとの事だった。
そして優乃は興味津々な気持ちと、不安が入り交じりつつ、心のどこかで嬉しさを感じていた。
何故だろうか…
嫌いな学校がある世界から遠ざかった気がして、嬉しいのか…?
何にせよ、この森をぬけるにはまだまだ歩かなくてはならないだろう。