17場面 もう迷わない。
昨日のあの事から紗香に会うのが気まずい遠志です。さて、どうしたものか…。
今、家で横になりながら考えています。もちろん皆はまだ居ますが…。
(ガッシャーン)
啓が皿を落として割った。
「何やってんのよ!松戸君!」
「か…可視さん…俺の事、初めて呼んでくれ――」
「あぁ。こんなにしちゃって…」
そう言って割れた皿の破片を拾って片付ける可視さん。
啓は無視されたショックから呆然としている。
「愛理さんって頭いいんですね!」
「そう?…」
紗香が愛理さんに勉強を教わっている。しかも、勝手に僕のノートを使い、ノート一冊使い切っている。
どんだけ書いたんだ!?という突っ込みは後にして…
「何、人の家で好き勝手やっとんじゃあ!!」
微笑ましく見ているのに我慢の限界を感じた遠志です。
「いや、まぁ気にすんな」
と啓。
「てめぇは何で人の家の皿割っといて可視さんに片付けさせてんだよ!」
「何!?」
呆然としていた啓は可視さんが皿を片付けている事に気づいていなかったようだ。
「可視さん!俺が片付けますから!すいません!」
啓がすっごい勢いで可視さんに近づきすっごい勢いで土下座をし、すっごい勢いで皿を片付け始めた。
「可視さん。ちょっと…」
「え?何?」
僕は可視さんを家の外に呼び出した。
「可視さん…。あの…。実は…」
僕は紗香の事を言おうか迷った。すると可視さんが
「紗香ちゃんの事?」
可視さんにはばれていたらしい。
「はい…。何か最近ちょっとドキッ、としちゃうんです。可視さんが居るのは分かってるんですが…僕はどうしたら…」
こんな事を言っていいのか分かりませんが…もやもやしているよりは…。
「遠志の思う通りにしたら?」
「え?」
予想外の展開です。可視さんの言動はいつも予想外です。今回もてっきり怒られるかと思っていましたが…。
「遠志のもやもやがすっきりするまでど直球で紗香ちゃんにぶつかってみたら?」
まるで恋の相談を僕がしているようだ。可視さんは僕の彼女…なのに…。
「分かりません。何で可視さんは肝心な時はそんな冷静でいられるんですか?普通は彼氏がこんな事言ったら怒るでしょう?何でそんな親身になって…」
「好きだからだよ」
「え?」
またもや予想外の発言だ。
「遠志の事が好きだから、自分でもよく分かんないけど何か背中を押しちゃうんだよね」
そう言って彼女は笑った。今思えば僕は優柔不断だった。可視さんに告白したのだって本気じゃなかったかもしれない。今何か紗香に…。
僕は……最低だ。
「僕…僕は…可視さんが好きです」
やっと分かった。紗香にはドキッっとした。だけど、それは恋じゃないんだ。僕が優柔不断だったから…。でも、今なら分かる。僕は可視さんが好きだ。心の底から好きだ。これが本当の恋なんだ。
もう迷わない。僕は可視さんとずっと一緒に居る。
「可視さん。僕…やっと分かりましたよ。もう迷わない」
「そっか…成長したんだね…」
そして、僕達はキスをした。今までとは違ったちゃんとしたキスを。
さて、この小説はコメディーだからこの辺で…。
さぁ!気を取り直してまた僕の家の中。相変わらず紗香と愛理さんは勉強中。
あれ?啓が居ない?何処に行ったんだ?
「いってぇ〜!」
ん?この声は…トイレからだ。僕はトイレのドアの前に向かった。
「あの〜お取り込み中失礼ですがどうしたんですか?」
わざとらしくトイレの中の人物に言ってやった。
「遠志か!?いやぁ〜お前の家の冷蔵庫の中にあったケーキ!?食べてみたらお腹こわしちゃって!」
案の定、声の主は啓だ。
「ケーキって一番奥の方に入ってたやつか?」
「多分そうだ!」
「あぁ!あれは一年前に親がアマゾンの奥地で買ったと言っていた『アマゾネスはママの味ケーキ』だぞ」
「そんなもん置いとくな!」
人の家の物を盗み食いしたお前が悪い。
「自業自得だな…」
そう呟いて僕はトイレを離れた。途中で
「来たぁ!第二波がぁ!来る!ぬぉぉぉぇぇぇ!」
等と聞こえたような…まぁ気にしない。