精霊の森とハロウィンの灯り
とある森の奥に、一軒の小屋が建っている。
そこでは、少女リアと少年ユノ、そして精霊のミラが共に暮らしていた。
秋も深まってきたある日のこと、リアは窓の外を見ながらぽつりと呟く。
「そういえば、子供の頃父さんと母さんとハロウィンやったなぁ」
ユノは初めて聞く単語に首を傾げた。
「ハロウィン?」
「そう。家の外にかぼちゃで作った飾りを置いたり、仮装をしてお菓子をもらったりするんだよ」
そばで聞いていたミラは、そんな雑な説明にそれでは伝わらないでしょうに、と呆れていたが、ユノは目を輝かせた。
「へえ、楽しそうだね」
思いのほか、乗り気である。リアはそんな反応が嬉しくて、ぱっと笑顔になった。
「みんなでやろうよ!」
両親が亡くなってから、ミラと二人で暮らしていたこともあったため、イベントごとをやることも少なくなっていた。
久しぶりに楽しめそうなイベントを見付けて、リアは嬉しくなる。
「僕ハロウィンのことなにも知らないんだけど……」
「大丈夫、私が教えてあげるよ」
任せなさい、とでも言うように胸を叩くリアに、ユノも笑顔になった。
それから数日、三人は空いた時間を見つけて、ハロウィンの飾りを作った。
「私もやるんですか……?」
「みんなで準備した方が楽しいでしょ」
紙を切って、かぼちゃやおばけを作る。もちろん、ジャック・オ・ランタンも忘れてはならない。
大きめのかぼちゃを用意して、目や口をくり抜く。
「これ、結構難しいね……!」
かぼちゃは固く、なかなか上手くくり抜けない。くり抜く場所には印を付けておいたが、形はガタガタだ。
「怪我をしないよう気を付けてください」
ミラがハラハラしながら見守る中、二人はそれぞれ思い思いのジャック・オ・ランタンを作り上げた。
完成した物をお互い見せ合う。
「あはは、ユノのかぼちゃ泣きそうだね」
「リアのはなんだか怒ってるよ」
「魔除けなんだからいいんだよ」
二人は顔を見合せて笑い合う。どこか不格好で思った通りの顔にはならなかったけど、それが楽しかった。
「自分で作ったからか、だんだん可愛く見えてきた」
「僕も」
完成したジャック・オ・ランタンは小屋の前に飾った。なんだか本当に魔を祓ってくれそうに見えた。
ハロウィン当日。
リアは黒いマントを羽織り、頭にはとんがり帽子をかぶって現れた。
隣りにいるミラも、しぶしぶといった体でお揃いの帽子をかぶっている。
「どう?」
「魔女にしたんだ。二人ともお揃いでいいね」
「ユノは……おばけ……?」
「……おばけ」
ユノが頷く。いらない布などを縫い合わせて目元に穴を開けただけのシンプルな仮装だったが、カラフルなところが意外に可愛い。
「それじゃあ準備も終わったことだし……」
二人は顔を見合わせると、同時に口を開く。
「トリック・オア・トリート!」
そう言いながら差し出された手に、ミラは目を瞬かせる。
「……私ですか?」
「そうだよ。ほらほら、早くお菓子くれないといたずらしちゃうよ」
ミラに近寄りながらにやりとするリア。しかし、そんな様子を見て、ミラはフッと笑った。
「私が用意していないと思いましたか?」
ミラが戸棚を開けると、そこには沢山のお菓子が入っていた。
リアが目を丸くする。
「すごい量だね……」
「もっと欲しいと泣かれたら困りますからね」
「……! それは子どもの頃の話でしょ!」
リアが顔を真っ赤にして怒る様子を見て、ミラもユノも笑う。楽しげな気配に釣られて、精霊たちも集まってきた。
「よし、じゃあ早速お菓子パーティーしよ!」
「……ハロウィンパーティーじゃありませんでしたか?」
「細かいことはいいの!」
ミラからもらったお菓子に加え、リアとユノそれぞれが用意したお菓子も広げる。
食卓の上は色鮮やかなお菓子が並び、壁にはここ数日で飾り付けた紙のかぼちゃやおばけ。外にはジャック・オ・ランタン。
ミラは窓辺に座りながら、いつもより賑やかな森の様子に笑みをこぼした。
ふと、むかし聞いた話を思い出す。
ハロウィンは元々、先祖の霊が家族の元へと帰ってくる祭りなのだという。
ジャック・オ・ランタンの灯りが家に導くというのなら、もしかしたら。
ミラは窓の外へと目を向ける。
そこには、二人が作ったジャック・オ・ランタンがぼんやりと光っていた。
「リアの両親が、今日は帰ってきているかもしれませんね」
そっと呟いた言葉は、木々が揺れる音で消えていく。
その時――。
ジャック・オ・ランタンが、少しだけ笑ったように感じた。
慌ててもう一度確認すると、作った時と同じく怒った顔と泣いている顔で並んでいる。
「……ふふ」
ミラが微笑む。
気のせいかもしれない。それでも、どこかでリアの両親が見守っている気がした。
「次はそのお菓子食べてみたい」
「じゃあリアのお菓子と交換しよう」
「これがおすすめだよ」
いつの間にかハロウィンパーティーは、お菓子交換の場へと変わっていた。
二人の笑い声が、小屋の中に響く。
その様子を、外のジャック・オ・ランタンが優しく見守っていた。
名を交わす精霊の森の番外編でした。
もしご興味があれば本編も読んでいただけると嬉しいです。




