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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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とある国の話

⚪︎⚪︎を知らない君たちへ

作者: 朝比奈 澪
掲載日:2026/08/22

 貴方は知らないでしょう。

 ぐにゃりと曲がった肉の感触を。


 貴方は知らないでしょう。

 母を抱いて泣く子の声を。


 貴方は知らないでしょう。

 私が何を見たかを。


 貴方は知らないでしょう。


 パチン!


 三日月が飛び散った。


「レーナ?」


 声がする。

 焦茶色の髪が揺れる。


「レーナ、爪を切っているの?」


 ーーそうよ。すぐ伸びるんですもの。こまめに切らないと土が入っていけないわ。


 ダレンの目が小さくなる。


「ーー血が出ているよ」


 血?


 瞬きをする。

 赤色が見える。


 体が震える。


 血。


 突如、砂埃が広がった。


 仲間が死んだ。

 風は10時方向。

 敵の位置は。


 遠くに狼煙。

 弾切れ。


 討たなきゃ。


 血。


「レーナ!」


 床が軋む。

 荒い息。

 破片が飛ぶ。


「レーナ!レーナ!父さんを見ろ、ここにいる、父さんの顔を見ろ!」


 あつい。ちがう。息ができない。うるさい。


「レーナ!母さんよ!貴方は家にいるの!」


 星が散った。

 視界が揺れて、ゆっくり晴れていく。

 がくんと力が抜けて温かいものに倒れ込んだ。

 破れたカーテン。割れた花瓶。


 戦争はもう終わったのに。


 ねぇダレン。

 いつか、戦争を知らない子たちの時代もくるじゃない?

 でもね、罪は消えないの。


「レーナ、あのワンピースとっても素敵!お給金貯めて買いましょうよぉ」


 エリザ。焼けこげた隊服の端。


「今日から俺が君の上官だ!次の酒場で奢れよ?それが部下の務めだ!」


 先輩。残った右腕。


「聞いてくれよ、かわいい彼女がいてさぁ」


 カイザ。赤黒いハンカチ。


「人殺し!」


 燃える街道。震える少女。


 病院の陰から聞こえた声。


「レーナさんは……です。これ以上飲むと……の危険があり……すから、薬はもう……」


 遠くから微かに反響した声。


「飲み過ぎだ馬鹿!死ぬぞ!」


 ーー死ぬ。

 私、死ぬのかな。それもなんか。


 ざあざあと雨が降っている。がらがらと雷が鳴っている。なんとなく外に出てみる。

 見慣れた町。人はまばら。

 気の向くままに歩いてみる。

 私、帰ってきた時なんて言われたっけ。


 あぁそうだ。

 おかえり、って言われたんだった。


 手を伸ばす。雨が降る。

 遠くで傘が飛んでいる。


 足をならす。土を踏む。

 木々がとどろき哭いている。


 ちょっとだけ、笑みが溢れた。


 白く黒い空がみえた。



水曜日付紙

 ファーラ川下流域で若い女性の遺体が見つかった。遺体の身元は現在捜査中。



 ボウッと音を立てて燃える。

 青年はひとり崩れ落ちた。


「初めてデートした場所で、死ぬな、よ、」


 貴方も、知らないでしょう。


 誰も、知らないでしょう。

金曜日付紙

ファーラ川下流域で発見された女性の遺体について、身元が判明した。女性は、レーナロッテ・グランシャ嬢(27歳)。元第7騎士部隊所属4等士。家族から先週金曜日に捜索届が出されていた。

生前はよく笑う明るい人柄で知られ、結婚も控えていたという。


* * *


読んでいただきありがとうございました。

本当は15日に投稿しようと思っていた作品です。

評価や感想等も頂けましたら幸いです。

どうか貴方に届きますように。

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