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第3話:名前


少女が食べているのを見て、匡矢が話を振る。

「ところでこの子の名前なんていうの?」

………………長い沈黙。

「え? 待って。もしかしてまだ確認してなかった?」

「聞いてなかった」と紗夏

「紗夏が聞いていると思った」と壮馬

「……」返事もせずに食べ続ける陸斗

「本当に? 大事なことなのに?」

「うん、完璧に忘れてた」


「はぁ、まったく。……食べている時にごめんね、お名前教えてくれる?」

もぐもぐもぐ、ごくん。飲み込んでから答える少女。

「でぃー だぶりゅー ぜろ きゅー よん」

「え? それが名前? 前いたところで呼ばれていたものだよ?」

何に対して疑問を持たれているのか、全くわからない少女は繰り返す。

「でぃー だぶりゅー ぜろ きゅー よん」


重い空気が流れる。壮馬が口を開いた。

「おそらく、個体番号だろう。名前はないってことだ」


その空気を断ち切るように、匡矢が言う。

「じゃあ! 今、名前を決めよう! いいよね?」

少女が頷く。

「何がいい?」

「なんでもいい」


「……うん。だよね。僕、こういうの苦手だから壮馬か紗夏決めて」

「おい、俺を抜かすな」

久しぶりに陸斗が話す。

「陸斗も苦手側でしょ」

「それは、そうだが……最初から抜かされるのは違う」

そんな2人を放置して、壮馬と紗夏は食べるのをやめて真剣に悩む。

「ねぇ、好きなものある?」

「ないよ」

「うっ」


「好きな動物は?」

「どうぶつ?」

「それも分かんないのか」

それぞれ質問するが、何も得られない。


「そもそも、文字の読み書きはできるの?」

匡矢が純粋な好奇心で場を乱す。

「それくらいできるだろう」と陸斗。

みんなが少女を見る。

少女は視線が自分に向いていることに気づいて答えた。

「……よめるけど、もじは かけない。すうじは かける」


全員言葉が出なかった。

会話は問題なくできていた。

だから、誰も想像していなかったのだ。


その時、壮馬が閃いた。

「あ! それなら名前は『あおい』っていうのはどう?」

「可愛いけれど、どうして?」

「あおいって全部母音で、できてるじゃん? だからこれから文字を習った時に、すぐに書けるようになったらいいかなって思って。他にも『うい』とか『あい』も思いついたけど『あおい』のほうがいいかなって」

「確かに、それはいいね。『あおい』がいいよ! うん! いい名前!」

「だろ?」


「紗夏と壮馬だけで盛り上がらない! これは本人に聞かないと」

「ふふ。そうだね。ねえ、『あおい』って名前はどうかな?」

紗夏が聞く。

壮馬はドキドキしながら少女の返事を待つ。

少女は少し目を伏せ、考える。

「……あおい…………いいとおもう」


「よし!」

「よかったね、壮馬。」

「おう。『あおい』、これからよろしく」

「よろしくね、『あおい』」

「よかったね、『あおい』ちゃん」

壮馬、紗夏、匡矢が口々に言う。

「おい、陸斗もなんか言っとけよ」

「うん? いい名前だと思う」

陸斗は最後までマイペースに食べていた。


この日から、『あおい』としての生活が始まった。

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