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第1話:脱走


ある日、少女は警報音が鳴り響く研究所の廊下を走っていた。なぜか分からないが今すぐここを出なければならないそんな衝動に駆られていた。


少女がいるのは地下深くに作られた研究所。昼夜の区別がつかない場所で、管理を目的とした場所だ。

少女はそこで育った。毎日が、訓練と命令だけで構成されていた。


少女はどこが出口なのか分からないまま、走り続ける。背後では、変わらず警報音が鳴り響いている。「コードレッド、コードレッド。B24階管理フロアにて研究個体脱走。繰り返す……」

白衣を着た大きい大人たちがあちらこちらから集まってくる。近づき手を触れようとすると、少女の能力――壁――が現れ、弾かれる。

その一瞬の隙をついて逃げる。


たくさん逃げたその先に階段があった。

しかし、その前には銃を持った警備員たちが集まっている。少女に銃を向けると躊躇いなく撃った。

当たると思った銃弾はまたも――壁――によって遮られる。ヒビが入った形跡もない。「くそっ」という声が警備員側から聞こえた。


後ろからは白衣を着た研究員、前には銃を持った警備員に挟み込まれる。しかし、少女は迷わず階段に向かう。また、銃を構える警備員たち。今度は、警備員たちが――壁――によって四方を囲まれた。


身動きが取れなくなった警備員たちを気にすることもなく、少女は上へと走り抜けていく。


少女は自分が何階にいるのか分かっていない。でも、上を目指さなきゃいけないという本能に従ってひたすら登っている。途中何度も警備員や研究員に遭遇するが――壁――によって近づけさせない。向こうも壁を壊すことができないため、研究個体を捕縛できないでいた。


少女はついに地上階へ着いた。息切れはほとんど見られない。外への脱出に向かおうとしたが、ぐるりと360度警備員たちによって囲まれた。その手には先ほどよりも威力の強いマシンガン。少女が気づいた瞬間には放たれていた。


少女に当たる前にやはり――壁――に当たりその場に銃弾が落ちる。しかし、絶え間なく浴びせられる鉄の壁に逃げ道はなかった。

上を見る少女。吹き抜けの高い位置に窓があった。

自分を360度囲っている壁の内側に横向きの――壁――を生成する。それを階段状にし、素早く上っていく。

マシンガンは上に行く少女を捕捉できない。

ハンドガンに切り替えるが――壁――に遮られる。


窓にたどり着いた少女は体重をかけ、窓を割り向こう側へと落ちていく。


――落ちていくように見えたのは警備員だけだ。少女は、向こう側にも横向きの――壁――を生成し、地面よりも近い場所に着地している。再び階段状に――壁――を作り、地面に降り立つ。

完全に建物の外だった。


それでも、少女は走るのをやめない。建物から遠ざかるように走る。辺りは暗く何も見えない。急に何かにぶつかる。高いフェンスだった。10mはあるだろう。上には有刺鉄線が巻かれている。


だが、少女にとってそれは壁ではなかった。横向きの――壁――を作って超えられる。

超えた後もひたすら走る。今度こそ本当にどこに向かえばいいのかわからない。でも、まだ安心できないとでも言うようにひたすら走る。


数分走ったところで、少女の身に異変が起きる。

「ぅぐっ」と声を出し、その場に跪く。必死に首元を触ろうとしているが、うまく動けずにその場に倒れた。



少女が倒れる少し前。

少女から数百メートル離れたところに男が2人歩いている。

「思いの外、修理に時間がかかったな」

「あぁ。ところで、今日の出港何時だっけ?」

「20:00って言われただろう? 全く、すぐ忘れるんだから」

「ああ、そうだった」

その後は何も言わずに歩いた。


「ぅぐっ」


「なぁ、今なんか言ったか?」

「いや。俺も聞こえた」

聞こえた方向に走っていくと倒れている人影が見えた。

急いで駆け寄る2人。

「おい! 大丈夫か」

「子供じゃないか! 待て! 不用意に触るな!」

「そんなこと言ってられないだろ――いたっ!」

彼女に触った男の指が弾かれたように動く

「どうした!? 大丈夫か?」

「電流が流れてるぞ!」

「はぁ? なんで? どこから?」

「俺が知るか!」

2人は触らないように少女を観察する。

すると首輪のようなものを発見する。

「これか?」

「わからないが、壊してみるのはありだな」

修理用に持っていた工具箱から滑り止め用のゴムシートとマイナスドライバーを取り出す。

「おい、これで首輪押さえてろ」

そう言ってもう1人にゴムシートを渡す。

「わかった」

ゴムシートのおかげで今度は感電せずに触れた。

首輪の繋ぎ目にマイナスドライバーを突き刺す。硬い金属音が返ってくる。びくともしなかった。

だが、何度も行うとドライバーの先端が接ぎ目に刺さる。てこの原理を利用して、そのまま力を込めるとバチっという音がして首輪が外れた。

ゴムシートごと首輪を遠くへ投げ飛ばす。

少女に触るがもう電流は走ってなかった。


急いでバイタルを確認する。

脈はある。呼吸もあるが乱れている。

呼びかけても反応しない。

「どうする?」

「……どうするかな。おそらく着ている服から研究所の所属だろう。でも、こんな少女に電流を流す奴らには戻したくないな」

「それなら、一旦基地に連れて行こう。ここは俺らの基地内だ。不審人物を捕まえた名目で隊長に指示を仰ごう」

「……ああ、そうだな」


そういうと、少女を抱えて2人は基地へと戻った。


この日から少女の新しい生活が始まる。


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