初めての重力修行(5倍)
小屋の扉を開いた瞬間、
リオの身体に“重さ”がのしかかった。
「っ……!」
膝が沈む。
肺が圧迫され、呼吸が浅くなる。
心臓が、ぎゅっと掴まれたように重い。
重力5倍。
たったそれだけで、世界はまるで別物だった。
(これが……重力の壁……!)
足が地面に吸い付くように重い。
腕を上げるだけで、全身の筋肉が悲鳴を上げる。
だが――
「……立てる。まだ、立てる」
リオは歯を食いしばり、ゆっくりと背筋を伸ばした。
その姿を、小屋の入口からエルミナが静かに見つめていた。
「初めての重力修行で立てるなんて……
やはり、あなたは“選ばれた子”ですね」
リオは振り返らない。
振り返る余裕がない。
ただ、前を見て、一歩を踏み出す。
ズシッ。
地面が沈んだように感じる。
足首、膝、腰、背中――
全ての関節が軋む。
(歩くだけで……こんなに……!)
だが、リオは止まらなかった。
重力調整ドアを抜けると、
そこには広大な“異世界空間”が広がっていた。
紫がかった空
白い砂の大地
遠くに見える黒い岩山
魔素が濃く漂う空気
「ここが……修行エリア……」
エルミナが説明していた通り、
この空間はリオの成長に合わせて自動生成される。
今はまだ“初級エリア”。
しかし、重力5倍の世界では、
ただ立っているだけでも修行になる。
リオは深呼吸を試みた。
「……っ、重い……!」
空気すら重い。
肺に入る魔素が濃すぎて、胸が熱くなる。
(でも……負けない)
リオは拳を握りしめた。
「まずは、歩くことから始めましょう」
背後からエルミナの声がした。
「走る必要はありません。
重力5倍の世界では、歩くだけで十分な修行になります」
「……はい」
リオは一歩、また一歩と前へ進む。
ズシッ……ズシッ……
足を上げるたびに、
太ももが焼けるように熱くなる。
(こんなに……重いのか……!)
だが、リオは止まらない。
「ふ……っ……!」
呼吸が荒くなる。
汗が額を伝う。
腕が震える。
それでも――
「まだ……いける……!」
リオは歩き続けた。
エルミナは静かに頷く。
「努力(E)……
表向きは最低ランクのスキル。
でも、あなたの“努力”は、誰よりも強い」
歩き続けていると、
リオの身体の中で“何か”が変わり始めた。
(……身体の奥が、熱い?)
魔素が流れている。
血管の中を、熱い光が走るような感覚。
「リオ。
あなたの魔力回路が、重力に刺激されて活性化しています」
エルミナが説明する。
「重力修行は、筋肉だけでなく、
魔力回路の強化にも繋がるのです」
「……魔力回路……」
リオは自分の胸に手を当てた。
(確かに……何かが流れてる……!)
魔素が身体を巡るたびに、
重力の圧力が少しだけ軽くなる。
(これが……魔力の流れ……!)
リオは目を見開いた。
だが――
「っ……!」
限界は突然来た。
膝が崩れ、リオは地面に倒れ込んだ。
ドサッ。
砂が舞う。
呼吸ができない。
視界が揺れる。
「リオ!」
エルミナが駆け寄る。
「無理をしすぎましたね。
でも……よく頑張りました」
リオは苦笑した。
「……歩くだけで……こんなに……」
「ええ。
重力5倍は、普通の大人でも立てません」
エルミナはリオの背中に手を当て、
魔素を流し込んだ。
「さあ、小屋に戻りましょう。
若返りの泉で回復すれば、すぐに動けます」
リオは頷いた。
小屋に戻ると、
エルミナはリオを泉の部屋へ案内した。
「この泉に浸かれば、
肉体年齢は初回転移時に戻り、
魔力・体力・精神力が完全回復します」
リオは泉に手を入れた。
「……あったかい……」
湯ではない。
魔素そのものの温かさ。
リオはゆっくりと泉に浸かった。
――全身が光に包まれる。
疲労が溶けていく。
筋肉の痛みが消える。
魔力が満ちていく。
「……すごい……!」
エルミナは微笑んだ。
「これが、あなたの“無限修行”を支える泉です」
泉から上がったリオの前に、
魔素文字が浮かび上がった。
《ステータス表示》
☆リオ・アークライト(10歳)
種族:人族
属性:無属性(潜在:全属性適性)
職業:なし(潜在:世界干渉者)
称号:異世界転移者
■ スキル
・努力(E)
・異世界転移
・魔力感知(F)
・体術(F)
・精神耐性(F)
※ 小屋での修行により、今後急速に成長する。
■ ステータス
能力数値
HP27
MP13
STR(筋力)3
VIT(耐久)4
AGI(敏捷)5
SPD(速度)5
INT(知力)7
WIS(精神)6
LUK(運)13
■ 潜在能力
魔力回路:未覚醒(潜在A)
武技適性:潜在B
魔法適性:潜在A
鍛冶適性:潜在A
錬金適性:潜在A
世界干渉適性:S(エルミナのみ知る)
エルミナはステータスを見て、静かに頷いた。
「リオ。
あなたは“努力(E)”ではありません。
本当は――“全てを伸ばせる器”です」
リオは拳を握った。
「僕……もっと強くなりたい」
「ええ。
あなたなら、どこまでも行けます」
リオは立ち上がった。
「もう一度……行ってきます」
エルミナは微笑む。
「行ってらっしゃい、リオ。
あなたの努力が、世界を変える日まで」
リオは再び、重力調整ドアへ向かった。
ドアの魔素文字が光る。
《推奨重力:5倍》
リオは迷わずドアを開いた。
ズシッ――!
重力がのしかかる。
だが、リオは笑った。
「……さっきより、軽い」
若返りの泉で回復した身体は、
重力5倍を“受け止める準備”ができていた。
リオは一歩、踏み出す。
その一歩が、
無限修行の第二歩だった。




