陰陽師ではもう食べていけないので、ライブ配信者になります
東京都杉並区。祖父の代から続く由緒正しい陰陽師の家系、葉月家。
その末裔として生まれた葉月レン(24)は、今日も畳の上でため息をついていた。
「依頼……ゼロ件っと。はい、今日も安定の無職陰陽師ですわ~。」
傍らのスマートフォンに映るのは、最新の「AI除霊アプリ」がランキング1位に輝くニュース。
「……これ、明らかに俺の仕事奪ってんだろ……?」
「今どき、人間に除霊頼むやつなんていねぇよ。」
座布団の上で丸くなった白い狐が、耳だけ動かして嘲笑した。式神の白狐。葉月家に伝わる小さな守り狐……のはずだが、性格は捻くれている。
「お前の霊力は、歴代の中でもかなり高い方だ。実力も十分ある。でも、お前の時代はもう終わったんだよ」
「やめろその言い方!!陰陽師って、本当に絶滅危惧種になってんだな……。」
家計は火の車。陰陽事務所は、半分崩壊気味。家賃すらまともに払えていない。もちろん、光熱費も払えず、照明は蝋燭を使っている。
「なあ白狐……俺、もう普通にコンビニで働くわ……。」
「お前、昨日クビになったろ。『レジ横の招き猫と毎日霊的な喧嘩するな』って。」
「あれは、あのクソ妖怪が悪かったんだよ!ずっと煽ってくるし……!」
そこへ、スマホがピコンと鳴った。DMのようだ。
「……なんだ?客か?」
【初めまして! 心霊系配信者をしている、「天海弥来」と申します。ぜひ、陰陽師である葉月レンさんにコラボしていただきたいです!】
「……心霊系配信者……?」
レンがスマホで検索すると、白狐がひょいっと覗き込んだ。
「お、人気配信者じゃねぇか。登録者50万人だと?」
「ご、50万!?うちの事務所の公式Xフォロワー、たったの14人だぞ!?」
「半分は親戚だしな。」
レンの胸に、久々に光が灯る。
「これ……ワンチャン、俺……バズるんじゃ……?」
「ワンチャンというか、これ逃したら一生バズらねぇよ。」
「おい、もっと言い方あるだろ!!」
***
DMが来てから1週間後の夜。弥来と合流したレンは、廃病院の前に立っていた。
「ここが……ライブ配信する場所ですか……?」
「はいっ!『ガチで霊が出る』って噂なんですよ!リアル陰陽師さんとなら、超盛り上がりそうです!」
満面の笑みを浮かべる弥来。金髪ツインテールに明るい笑顔がはじける。けれど、手が震えている。
「……もしかして、霊、苦手なんですか?」
「だ、だだだだいじょうぶですっ!こ、怖いわけじゃ……!」
「めちゃくちゃ、怖がってるじゃねーか。」
白狐がすかさずツッコむ。
「そ、それでは配信を始めますね……!」
「ちょ、ちょっと待って!俺、配信初めてで……!」
スマホを前に、レンはガチガチに固まった。弥来が「配信開始」のボタンを押した瞬間――――
【LIVE】視聴者 1120人
(コメント欄)
<うわ、マジで陰陽師きたwww>
<顔が死んでるwww>
<本物っぽくて草>
<キツネ、かわいい!>
「えっ、こ、コメント流れるの早っ!?な、何これ!?」
<落ち着け、おっさんwww>
「おい、誰がおっさんだ!まだ24歳だ!!」
早速、視聴者から「おっさん」認定されるレン。足はガクガク、手はワキワキ。完全に動揺している。そんなレンを横目に、弥来が地下室の扉を開けた。
「ここが噂の……」
ゴォォォォ……!!!
「えっ!?ちょっ!?これ、絶対やばいやつ……!」
弥来には見えていないが、地下室から黒い瘴気が噴き出した。白狐の毛が逆立つ。
「レン、気を引き締めていけよ。」
「あぁ。」
レンたちは、奥へと進んでいく。
***
地下室の奥。黒い気配が渦巻き、見たことのない巨大な影が立ち上がる。
「うわっ……!」
弥来の悲鳴をかき消すように、影が喋った。
『……ハヅキ家の血……か……何年ぶりだ……?』
「ちょ、喋った!?これ字幕ないの!?何語!?日本語!?霊語!?えっ、私聞き取れてる!!?」
「落ち着け、嬢ちゃん。」と白狐。
『ハヅキィィィ!!出てきやがれぇぇ!!』
「レン、こいつは……」
「怨霊、黒哭だな。」
黒哭とは、葉月家が過去に封じた悪霊の一部であり、数々の陰陽師を葬ってきた強さがある。それが廃病院で再び覚醒しているようだ。
「きゃっ!!」
黒哭の手が伸び、弥来が吹き飛ぶ。
「弥来さん!!」
レンは即座に結界札を投げる――――
が、ペタッ。床にくっつき、なかなか剥がれない。
「あぁ、もう……クソがっ!!」
【LIVE】視聴者 5249人
(コメント欄)
<陰陽師不器用www>
<投げる角度www>
<がんばれ、おっさん~>
「だから、おっさんじゃねえって言ってるだろ!!!」
黒哭が凄まじい速度で迫る。
「白狐、結界!!」
「言われなくても!!」
白狐の結界が光り、黒哭の攻撃を弾いた。
【LIVE】視聴者 1万3974人
(コメント欄)
<おぉ~!>
<あのキツネ、すごw>
<やらせ?>
<特撮すぎるwww>
<スパチャしよ>
「レン、やるしかねぇぞ。」
「……あぁ。見せてやるよ、俺の本気。」
レンの目が変わる。逃げ腰だった男が、一瞬で陰陽師の顔になった。着物を翻し、懐から陰剣を抜く。
「俺をなめるなよ。」
炎の式札を叩きつけ、呪歌を唱える。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前ッ!!」
黒い影が悲鳴を上げる。
【LIVE】視聴者 2万653人
(コメント欄)
<うおおおおお!!!>
<ガチ陰陽術!!>
<かっこよすぎ!!>
<急にイケメンになるのやめろ!!>
<おっさんのままでいてくれ!>
レンは黒哭へ突進した。
ザンッ!!!
霊体を斬り裂く音が響く。黒哭の身体が炎の刃で歪む。
『小僧が、我を斬れると思うな……!』
「斬れるまで、斬るだけだ!!」
廃病院の廊下が崩れ、窓ガラスが割れる。視聴者は大興奮のようだ。
<廃病院壊してるwww>
<ガチ特撮!!!>
<スパチャしとこ(¥50,000)>
***
黒哭とレンの攻防が続いていたが、再び弥来が狙われた。
『先に、この娘の霊力を奪ってやる……!』
「おい、やめろぉぉぉ!!」
レンが飛び込み、弥来の前に立つ。黒哭の腕がレンの胸を貫いt―――
バキィィ!!!
「効かねぇよ。」
レンの額には、葉月家に伝わる秘伝の式符が貼られていた。「反転呪」である。反転呪は怨霊や妖怪特有の霊力を封じる式符であり、葉月家の人間しか扱うことができない。しかし、その発動条件は使用者の霊力をすべて使い切ることである。
「俺の霊力全部で、お前を封じる。」
『愚かな。それで、我を封じられなければ、霊力をすべて失った小僧は赤子同然であろう!』
「れ、レンさん……!」
弥来が泣きそうな目でレンを見つめる。
「大丈夫だ。」
レンは笑った。
「俺は、葉月家の陰陽師だからな。」
「黒哭、残念だな。こいつの霊力は、歴代でもトップクラスだぞ。」
白狐は憐れみの視線を送る。そして、神々しい光が黒哭を包み込む。結界は暴風のように渦巻く。
黒哭が絶叫する。
『ぐおおおおおお!!!!』
「これで終わりだ。」
最後の式札が黒哭を貫き、怨霊は断末魔をあげて霧散した。
***
霊力を使い果たしたレンは、その場に倒れた。
「レンさん!!」
弥来が泣きながら、駆け寄る。
「なんで……なんであんな危ないこと……!」
「陰陽師は祓うのが仕事じゃない。護るのが仕事だ。ただ、俺は陰陽師として正しい行動をしただけだよ。」
「……っ……!」
その瞬間、コメント欄が盛り上がった。
【LIVE】視聴者 6万5493人
(コメント欄)
<おっさん、惚れたよ>
<陰陽師、かっこいい>
<映画より熱いわ>
<配信史上、一番かも>
<これ使ってくれ(¥100,000)>
<ワイも(\150,000)>
「「「えっ!?!?」」」
レンと弥来と白狐の声が綺麗にハモった。
***
翌日。レンのSNSはフォロワー10万人を突破した。テレビ局から多くの取材依頼が入った。様々な配信者からもコラボ依頼がたくさん舞い込んだ。けれど、レンはそのすべてにお断りを入れた。ただ1つを除いて――――
【レンさん、また一緒に……配信してくれますか?】
「もちろん、現代の最強陰陽師として!」
「うわ、急にキメ顔した、気持ち悪っ!!」
「うるせぇ!!」
陰陽師兼配信者という謎の職業が誕生した瞬間だった。
そして、弥来とレンはその後、日本全体を揺るがす大きな事件へと巻き込まれていく……。
「面白い!」「続きが読みたい!」など思った方は、ぜひブックマークと評価をよろしくお願いします!
ブックマークや評価していただければ、作者のモチベーションが爆上がりします!




