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陰陽師ではもう食べていけないので、ライブ配信者になります

作者: あっつん
掲載日:2026/02/28

東京都杉並区。祖父の代から続く由緒正しい陰陽師の家系、葉月家。

その末裔として生まれた葉月レン(24)は、今日も畳の上でため息をついていた。

「依頼……ゼロ件っと。はい、今日も安定の無職陰陽師ですわ~。」

傍らのスマートフォンに映るのは、最新の「AI除霊アプリ」がランキング1位に輝くニュース。

「……これ、明らかに俺の仕事奪ってんだろ……?」

「今どき、人間に除霊頼むやつなんていねぇよ。」

座布団の上で丸くなった白い狐が、耳だけ動かして嘲笑した。式神の白狐。葉月家に伝わる小さな守り狐……のはずだが、性格は捻くれている。

「お前の霊力は、歴代の中でもかなり高い方だ。実力も十分ある。でも、お前の時代はもう終わったんだよ」

「やめろその言い方!!陰陽師って、本当に絶滅危惧種になってんだな……。」

家計は火の車。陰陽事務所は、半分崩壊気味。家賃すらまともに払えていない。もちろん、光熱費も払えず、照明は蝋燭を使っている。

「なあ白狐……俺、もう普通にコンビニで働くわ……。」

「お前、昨日クビになったろ。『レジ横の招き猫と毎日霊的な喧嘩するな』って。」

「あれは、あのクソ妖怪が悪かったんだよ!ずっと煽ってくるし……!」

 そこへ、スマホがピコンと鳴った。DMのようだ。

「……なんだ?客か?」


【初めまして! 心霊系配信者をしている、「天海弥来あまみ みくる」と申します。ぜひ、陰陽師である葉月レンさんにコラボしていただきたいです!】


「……心霊系配信者……?」

レンがスマホで検索すると、白狐がひょいっと覗き込んだ。

「お、人気配信者じゃねぇか。登録者50万人だと?」

「ご、50万!?うちの事務所の公式Xフォロワー、たったの14人だぞ!?」

「半分は親戚だしな。」

 レンの胸に、久々に光が灯る。

「これ……ワンチャン、俺……バズるんじゃ……?」

「ワンチャンというか、これ逃したら一生バズらねぇよ。」

「おい、もっと言い方あるだろ!!」


***


DMが来てから1週間後の夜。弥来と合流したレンは、廃病院の前に立っていた。

「ここが……ライブ配信する場所ですか……?」

「はいっ!『ガチで霊が出る』って噂なんですよ!リアル陰陽師さんとなら、超盛り上がりそうです!」

満面の笑みを浮かべる弥来。金髪ツインテールに明るい笑顔がはじける。けれど、手が震えている。

「……もしかして、霊、苦手なんですか?」

「だ、だだだだいじょうぶですっ!こ、怖いわけじゃ……!」

「めちゃくちゃ、怖がってるじゃねーか。」

白狐がすかさずツッコむ。

「そ、それでは配信を始めますね……!」

「ちょ、ちょっと待って!俺、配信初めてで……!」

スマホを前に、レンはガチガチに固まった。弥来が「配信開始」のボタンを押した瞬間――――


【LIVE】視聴者 1120人

(コメント欄)

<うわ、マジで陰陽師きたwww>

<顔が死んでるwww>

<本物っぽくて草>

<キツネ、かわいい!>


「えっ、こ、コメント流れるの早っ!?な、何これ!?」

<落ち着け、おっさんwww>

「おい、誰がおっさんだ!まだ24歳だ!!」

早速、視聴者から「おっさん」認定されるレン。足はガクガク、手はワキワキ。完全に動揺している。そんなレンを横目に、弥来が地下室の扉を開けた。

「ここが噂の……」

ゴォォォォ……!!!

「えっ!?ちょっ!?これ、絶対やばいやつ……!」

弥来には見えていないが、地下室から黒い瘴気が噴き出した。白狐の毛が逆立つ。

「レン、気を引き締めていけよ。」

「あぁ。」

レンたちは、奥へと進んでいく。


***


地下室の奥。黒い気配が渦巻き、見たことのない巨大な影が立ち上がる。

「うわっ……!」

弥来の悲鳴をかき消すように、影が喋った。

『……ハヅキ家の血……か……何年ぶりだ……?』

「ちょ、喋った!?これ字幕ないの!?何語!?日本語!?霊語!?えっ、私聞き取れてる!!?」

「落ち着け、嬢ちゃん。」と白狐。

『ハヅキィィィ!!出てきやがれぇぇ!!』

「レン、こいつは……」

「怨霊、黒哭こっこくだな。」

黒哭とは、葉月家が過去に封じた悪霊の一部であり、数々の陰陽師を葬ってきた強さがある。それが廃病院で再び覚醒しているようだ。

「きゃっ!!」

黒哭の手が伸び、弥来が吹き飛ぶ。

「弥来さん!!」

レンは即座に結界札を投げる――――

が、ペタッ。床にくっつき、なかなか剥がれない。

「あぁ、もう……クソがっ!!」


【LIVE】視聴者 5249人

(コメント欄)

<陰陽師不器用www>

<投げる角度www>

<がんばれ、おっさん~>


「だから、おっさんじゃねえって言ってるだろ!!!」

黒哭が凄まじい速度で迫る。

「白狐、結界!!」

「言われなくても!!」

白狐の結界が光り、黒哭の攻撃を弾いた。


【LIVE】視聴者 1万3974人

(コメント欄)

<おぉ~!>

<あのキツネ、すごw>

<やらせ?>

<特撮すぎるwww>

<スパチャしよ>


「レン、やるしかねぇぞ。」

「……あぁ。見せてやるよ、俺の本気。」

レンの目が変わる。逃げ腰だった男が、一瞬で陰陽師の顔になった。着物を翻し、懐から陰剣を抜く。

「俺をなめるなよ。」

炎の式札を叩きつけ、呪歌を唱える。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前ッ!!」

黒い影が悲鳴を上げる。


【LIVE】視聴者 2万653人

(コメント欄)

<うおおおおお!!!>

<ガチ陰陽術!!>

<かっこよすぎ!!>

<急にイケメンになるのやめろ!!>

<おっさんのままでいてくれ!>


レンは黒哭へ突進した。

ザンッ!!!

霊体を斬り裂く音が響く。黒哭の身体が炎の刃で歪む。

『小僧が、我を斬れると思うな……!』

「斬れるまで、斬るだけだ!!」

廃病院の廊下が崩れ、窓ガラスが割れる。視聴者は大興奮のようだ。


<廃病院壊してるwww>

<ガチ特撮!!!>

<スパチャしとこ(¥50,000)>


***


黒哭とレンの攻防が続いていたが、再び弥来が狙われた。

『先に、この娘の霊力を奪ってやる……!』

「おい、やめろぉぉぉ!!」

レンが飛び込み、弥来の前に立つ。黒哭の腕がレンの胸を貫いt―――

バキィィ!!!

「効かねぇよ。」

レンの額には、葉月家に伝わる秘伝の式符が貼られていた。「反転呪」である。反転呪は怨霊や妖怪特有の霊力を封じる式符であり、葉月家の人間しか扱うことができない。しかし、その発動条件は使用者の霊力をすべて使い切ることである。

「俺の霊力全部で、お前を封じる。」

『愚かな。それで、我を封じられなければ、霊力をすべて失った小僧は赤子同然であろう!』

「れ、レンさん……!」

弥来が泣きそうな目でレンを見つめる。

「大丈夫だ。」

レンは笑った。

「俺は、葉月家の陰陽師だからな。」

「黒哭、残念だな。こいつの霊力は、歴代でもトップクラスだぞ。」

白狐は憐れみの視線を送る。そして、神々しい光が黒哭を包み込む。結界は暴風のように渦巻く。

黒哭が絶叫する。

『ぐおおおおおお!!!!』

「これで終わりだ。」

最後の式札が黒哭を貫き、怨霊は断末魔をあげて霧散した。


***


霊力を使い果たしたレンは、その場に倒れた。

「レンさん!!」

弥来が泣きながら、駆け寄る。

「なんで……なんであんな危ないこと……!」

「陰陽師は祓うのが仕事じゃない。護るのが仕事だ。ただ、俺は陰陽師として正しい行動をしただけだよ。」

「……っ……!」

その瞬間、コメント欄が盛り上がった。


【LIVE】視聴者 6万5493人

(コメント欄)

<おっさん、惚れたよ>

<陰陽師、かっこいい>

<映画より熱いわ>

<配信史上、一番かも>

<これ使ってくれ(¥100,000)>

<ワイも(\150,000)>


「「「えっ!?!?」」」


レンと弥来と白狐の声が綺麗にハモった。


***


翌日。レンのSNSはフォロワー10万人を突破した。テレビ局から多くの取材依頼が入った。様々な配信者からもコラボ依頼がたくさん舞い込んだ。けれど、レンはそのすべてにお断りを入れた。ただ1つを除いて――――

【レンさん、また一緒に……配信してくれますか?】

「もちろん、現代の最強陰陽師として!」

「うわ、急にキメ顔した、気持ち悪っ!!」

「うるせぇ!!」


陰陽師兼配信者という謎の職業が誕生した瞬間だった。

そして、弥来とレンはその後、日本全体を揺るがす大きな事件へと巻き込まれていく……。

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