忌み子
久しぶりの更新になります!
今、全力進化中の「剣士は音を奏でる」もよろしくお願いします!
「――村長、彼女はなぜここに来ない」
自分の前で平伏する者たち、老人も子供も男女関係なく村人全員がいる。
領主として辺境の村であろうと村人の人数と税収などは事前に調べた。数える限り全員揃っている。
それなのに1人とはいえ申告漏れがいるのか?
あんな美しく目を惹かれる少女が?
……おっと脱線してしまった。
しかし、なぜ自分に質問された村長は何も言わず黙っているのか。
「村長、私はここに来て皆と同じように平伏しろと言っているのではない。ただ個人的興味として、彼女が"皆よりもみすぼらしい服装"で"子供がしないような重労働"を"大人に隠れるようにして"生活しているのかを聞きたいのだ」
「公爵様、我々には公爵様のおっしゃることに対してお答えすることが出来ないのです。ご容赦ください」
村長は何を言っているのだ。
今のはある種の最後通牒である。
村にいる大人たちが彼女に対して何かしらの差別的行為をしているのではないか。もし、子供に対してそう言った行為をしているのであれば処罰の対象になるぞと脅した。それなのに村長は「答えられない」と言ったのか?
何か法を犯している、だから答えられないのだろう。そう考え、もう一度問い質そうとすると後ろに控えていたはずのギルベルトが前へ立ち塞がる。
「――ギルベルト、何をしている?」
「レオンハルト様、これは辺境において重大な問題なのです。私から説明いたしますので、どうかここは引いていただけませんか?」
ギルベルトの出身はここのような辺境の村。自分以上に辺境の村についてのことは詳しい。
信頼のおける忠臣に止められ落ち着いて村長を見る。隠し事をしている風には見えない。どころか罰せられることも頭にないような表情をしている。
村長は彼女に対して自分が悪いことをしていると少しも考えていないようだった。
「村長、一度ギルベルトと話す。どこか良い場所は無いだろうか」
「それでしたら村人の集まる集会所をご利用ください」
ギルベルトを連れ村長の案内で村の中心部に建つ他の住居より少し大きめの建物へ入る。
全てが木材の簡素だが立派な建物の中でギルベルトと二人っきりになる。村長は案内をしたあと飲み物としてお茶を出し出ていった。
「――それでギルベルト。説明するべき重要な問題とはなんだ。なぜ、あの子は村人から疎外されているのだ」
「説明しましょう。長く続く”呪い”と”忌み子”の関係について」
ギルベルトは神妙な顔で話し出した。
「レオンハルト様は教会にいる治癒師と司祭については知っていますか?」
「もちろんだ。我が領内にも教会はあるからな」
この世界で最も有名な宗教『女神教』、その名の通り世界を創生したとされる女神を崇拝し信仰する宗教団体である。
各地に点在する教会を活動拠点とし、そこには『治癒師』と『司祭』が必ず仕えている。
治癒師の仕事は女神の力をその身に宿し献身的な祈りによって他者の傷を癒すことができる職業。そして司祭というのは女神への祈りと信仰心によって教会周囲の穢れを祓う仕事。
どうしてそんな仕事があるのかといえば。
「ご存じの通り、教会があり治癒師と司祭が存在するからこそ、その地は病魔や災害といったものから避けられています」
ウイルス感染的パンデミックや地震などの自然災害が科学的に解明されていない、この世界では全てが”呪い”や”災い”といった解釈になり、それを避けるために教会がある。
だが、それとどんな関係が……まさか。
「お察しの通り教会を建てることができず建てたとしてお布施も用意できない辺境の地では、教会が避けている”災い”を別の手段で避ける”術”がいるのです」
「それが”忌み子”というわけか?」
「――はい。『両親と髪色が違う』『両親と才能が違う』……ただそれだけの理由で、そう思うかもしれませんが。ただそれだけの理由で『女神から忌み嫌われて産まれてきた子供』という烙印を押されてしまうのです」
そんな程度の違いならどの地域でも普通にあることではないのだろうか。……いや、その意識を抑えているのも”教会”という存在なのだろう。
教会があるおかげで人は自分の子を愛することができる。
そういえば公爵家でも子供が生まれれば真っ先に教会へ連れて行っていたが、あれは生まれてきた子供の”穢れ”を祓うためにやっていた儀式なのだろう。
「忌み嫌われて産まれてきた子供つまり”忌み子”を村から排斥するのではなく、村に置きつつ”存在しない者として扱う”ことで女神への信仰を示そうとするのです」
そこまで聞いて良く分かった。
この問題はここだけの話ではないのだ。これは人の文化そのものに根付いている問題。
今ここで村人たちに「忌み子なんてやめるべき」と言うだけなら簡単だ。
だが公爵から言われても権力による圧力でしかなく、そんなもので民が納得しないというのも分かる。
前世でも偉そうに講釈を垂れる政治家たちに国民は苛立っていたからな。
「――そういうことか」
「ですので村人を罰するのはおやめください」
「あぁ、おかげで落ち着いたよ。――俺のやるべきことも見えた」
「――え?」と一瞬呆けた表情をするギルベルトを立たせ集会所を出る。
すでに村人たちは各々日常へ戻っており、集会所の扉が開いたとき寄ってきたのは村長だけだった。
「お話は出来ましたか?」
「村長、現状この村で本日行うはずだった公務は出来ない。そうだな?」
「……はい。先ほども申し上げた通り、水が汚れ用意されていた樽も壊れてしまっていますので……」
村長は再度申し訳なさそうに頭を下げる。
「いや、叱責したのではない。確認したかっただけだ。ギルベルト、帰る前に寄る場所がある着いてこい」
「承知いたしました」
恭しく後ろをついてくるギルベルト。村長には仕事ではないからついてこなくていい、と言い自宅に戻す。
用件を済ませるためにしばらく村を歩き回る。
そこで見つけた。
さっきは一瞬だったが目の前ではっきりと見ると分かる。
汚れで霞んでいるが日光を受けて輝くような銀髪が風に靡き。
少女は何も映さないガラスのような瞳で、近寄っていくこちらを見つめる。
俺が何をしようとしているのか気づいたギルベルトが腕を掴んで止めようとするが、もう遅い。
歩みを進めた足は少女の前まで行き手前で止まる。
地に膝をつけ少女と目線を合わせて話しかける。
「――きみ、名前はなんていうんだい?」
「……?」
少女はコテンと首を傾げ自分の背後を見る。
どうやら自分ではなく後ろにいる村人に話しかけたと思っているらしい。
しかし後ろに村人は1人もおらず少女は更に不思議そうに周囲を見渡す。
その姿を見て村人たちが憎くなった。
この幼い少女は”自分が話しかけられるわけがない”と心の底から思っているのだ。
そこまで追い込んだ世界が憎くて仕方がない。
力が入りそうになる拳を深呼吸でゆっくりと解し、再度話しかける。
「君に話しかけているんだ。僕は君のことが知りたい」
なるべく優しく怖がらせないように。
貴族として生まれ公爵家の当主になるまで、こんなにも丁寧に話したことがあっただろうか。
それでも、この子に対しては”嫌われたくない”という気持ちが先行し聞きやすいようゆっくりとした言葉で話す。
俺の言葉を理解したのか、少女はゆっくり小さな口を開く。
「……ぁ……ぁたし……ゴホッ!ゴホッ!」
久しぶりに声を出したのだろう。
声帯と気管が上手く動かず咳き込む少女の背中をさする。
「大丈夫。ゆっくりでいい。話してくれないか?」
ギルベルトへ馬車の中にある飲み水を取りに行かせ少女を近くの切り株へ座らせる。
「……ごめんなさい。……あなたは……?」
水を口に含み目線を合わせた彼女の問い。
俺は彼女の隣から答える。
「僕はここを治める領主だ。1つだけ聞きたいんだけれど……君はこの村から出たいかい?」
「レオンハルト様!?それは――」
珍しく狼狽するギルベルトを視線だけで黙らせる。
この子が望むなら村から解放し屋敷へ使用人として迎えることも出来る。
別に『村にいなくてはならない』なんて風習では無いのだから。
少女はしばらく手に持つ水の入った革袋を見てから視線を上げる。
何も映らないように見えていた少女の瞳には、自分を切り捨て無視している村人たちが確かに映っていた。
「わたしは……村から出ない。……ここは……わたしの家だから」
痩せ細った細い身体から出ているとは思えないほどに強い言葉だった。
「分かった。――ありがとう。せっかくだから君の話を聞かせてくれ」
「……?……わたしの、話?」
「なんでもいい。これまで過ごしてきた話でも、最初はそうだな。君の名前は?」
「……わたしの名前は、ミレイア。――」
ミレイアは話し出した。
村で過ごしてきた日々の楽しかったことも苦労したことも。
その話の中には必ず誰かしら村人が入ってきていて。
あぁ、村人は彼女を見ていなかったけれど、ミレイアは皆を見ていたのだと、そう思えた。
その日はミレイアの時間がある限り村に滞在し続けた。
話を聞いて彼女が「仕事があるから」と離れていった背中を見送った俺は帰りの馬車でギルベルトに告げた。
「俺は始めるぞ」
異世界で、貴族を国家を人類の意識そのものを変革させる”異世界推し活”を俺は今日このときより始めるのだ。
「――世界を巻き込む。改革の時間だ」
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