第6章 もう好きにしてくれ(店長)
朝から、何かがおかしかった。
いや、正確には、昨日からずっとおかしかった。
閉店セールの告知を出した瞬間から、何かがズレ始めていた。
「店長、冷凍庫の前で誰かが“発進準備”って叫んでます」
「またですか」
店長は、ため息をついた。
「もう好きにしてくれ」
創業50年の銀河屋。
父の代から続くこのスーパーを、今日で閉める。
最後の日くらい、静かに終わらせたかった。
なのに、今の店内は——
・冷凍庫の前で宇宙船の発進を叫ぶ青年。
・その様子を撮影する女子高生。
・カートで突撃してレタスに沈む新人警備員。
・レジで“銀河通貨”を扱う女子。
・そして、すべてを受け入れる老婦人。
「…なんだこの店は」
店長は事務所の窓から、店内を見下ろした。
誰も彼もが勝手に“宇宙”を生きている。
だが、不思議と——楽しそうだった。
「店長、テレビ局から取材の電話です」
「え、なんで?」
「SNSでバズってるらしくて。“練馬の銀河スーパー”って」
店長はしばらく沈黙したあと、電話を取った。
「はい、銀河屋です。ええ、ええ…取材? ええ、どうぞ。
あ、でも、うちは今日で閉店なんで——」
電話を切ったあと、店長はレジのユウカに声をかけた。
「なあ、宇宙系スーパーって、どう思う?」
ユウカは真顔で答えた。
「この星の民度、観察の価値ありです」
「……うん、じゃあ、そういう方向でいこうか」
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SNS投稿まとめ
@nerima_jk2:銀河屋、閉店やめるって!今度は“宇宙系スーパー”になるらしいwww #銀河屋なう
@tokyo_trucker:銀河屋、看板変わってた。“ネリマ銀河ステーション”って書いてある。 #再起動
@localnews_nerima:銀河屋、宇宙テーマで再生へ。地域密着型の新業態に注目集まる #ネリマ銀河




