プロローグ(本屋店主)
ねえ、ちょっとだけ聞いてくれる?
この話、最初に言っておきたいんだけど——もちろんフィクションなんだけど、練馬区をバカにしてるわけじゃないんだ。むしろ、僕は練馬で生まれて、練馬で育って、練馬で人生初のバイトもした。
練馬には、ちゃんとした人がいて、ちゃんとした日常があって、ちゃんとした…いや、ちょっと変わった事件も、たまに起きる。
でもそれは、どこにだってあることでしょ?
だからこの物語も、練馬を舞台にしてるけど、笑いのネタにしてるんじゃなくて、むしろ“練馬の底力”を描きたいと思ってる。
でね、その“事件”の始まりを、いちばん最初に目撃したのが——向かいの本屋の店主だったんだ。
彼は、いつも通り文庫棚を整えながら、銀河屋の方をちらっと見て、こう言ったんだよ。
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「銀河屋?ああ、向かいのスーパーね。うちが文庫フェアやってる頃には、もう“閉店セール”の準備してたよ。
なんでも、創業50年で、店長さんが“宇宙をテーマにした再生案”を出したらしいんだけど、誰も本気にしなくてね。
でも、あの日の午後だよ。店の前に人だかりができて、警備員が走って、カメラ持った若者が叫んでて。
うちの常連さんが『銀河屋、宇宙人に乗っ取られたってよ』って言い出してさ。
いやいや、ただの閉店セールだって。……たぶんね。」
(店主は文庫棚を整えながら、銀河屋の方をちらりと見る。店の看板はまだ“閉店セール”のままだった。
その奥で、冷凍庫の前に立つ青年が、何かを叫んでいた。聞き取れたのは「推進エンジン、点火準備!」)
「……まあ、練馬って、時々、銀河になるんだよな。」




