蒼聖の命名
拳が、ぶつかった。
オレの一般高校生と同じくらいの大きさの拳と、拳だけでオレの身長くらいある大きさの拳がぶつかった結果は……。
……互角だった。
「ぬぅうううううううん!」
「はぁああああああ!」
均衡した状態から、さらに地を蹴り威力を上げる。
しかし相手も身長が高いことを利用して、全体重をかけてくる。
純粋な力はオレのほうが上、でも体格差が大きすぎる!
ていうか異世界補正すごいな……こんな大男と均衡する腕力とか……。
「っ……はぁ!」
「ぬ!」
このままじゃ埒が開かないと考えたオレは、身体をずらし、大男の力を受け流す。
突然均衡が破れたことに驚いたのか、大男は前のめりに倒れた。
そんな隙を見逃すはずがなく、ケツに跳び蹴りを喰らわした。
吹き飛んだのは、オレのほうだった。
「な……!?」
空中で身体を捻り、着地。
大男を見ると、何事もなかったかのように普通に立っていた。
「オで、は【金剛骨断】の、オルゴー・ビウニウ、防ぎょ力は魔、族、一!」
聞き取りずらい声だが、なんとか内容はわかった。
ようするに防御力が高いんだな。
「なら、遠慮はいらないな」
遠慮なく、殺してやろう。
「ハッピーチルドレン流殺人術、魔族に通用するのか試させてもらおう」
構える。
異常なほどの前体勢、前へ進むこと以外考えないほどの、前のめり。
一気に駆ける。補正もあってか、自分でも驚くほど早く大男――オルゴーの懐に飛び込んだ。
「これならっどうだぁ!」
前屈みの体勢から戻る反動で思いっきり蹴り上げる。
狙いは金的、男性型だから効果はあるだろ、と見てたが、
「う、おおおおおお!」
全く聞いてないとこを見ると、金的は無意味か。
オルゴーが振り上げた拳を間一髪避けると、今度は脳を揺らすべく顎を狙う。
顎、鼻っつら、ミゾ打ち、弁慶の泣きどころ、と人間にとっての急所に打ち込んでいくが、そこまで痛みは無いようだ。
「ぐっ、痛いと、思っ、たのは久しぶ、りだ」
ダメージは一応通ってるが、致命傷には程遠い。
目潰ししたら、流石に避けられた。
「ぬぅおらあ!」
「ぐっ……」
オルゴーの蹴りを喰らい、吹き飛ぶ。
……あんまし痛くないな、やっぱ強いのは防御力だけってことか?
それなら、イケる。
殺せる。
「な、何デ、オでの攻撃を、受けて立っていラれ――」
「ハッピーチルドレン流殺人術、技名、無名……」
オルゴーの言葉を遮るように駆ける。
「……よって今命名! 壱の型、“衝拳”!」
さっき殴ってみてわかったことだが、オルゴーの防御力の秘密は異常なほどの皮の硬さだ。
しかも硬さの先に柔らかさもあるせいで、衝撃が通じない。
なら、皮を無視して内部に衝撃を与えるしかないだろう。
ハッピーチルドレン流殺人術壱の型“衝拳”。
所謂鎧通しである。
「おぇ……」
オルゴーは、呻き声を上げて倒れた。
トドメを刺しておきたいが、ナイフとかが無い今、なんだか億劫だ。
まあいいや、ほっとこう。
一息吐き、姫二人の方を見るとちょうど戦闘が終わったようだ。
次にアイを見る。
しかし、オレの視界は遮られた。
白髪の男――クレットがいつの間にかそこにいた。
「クレット!」
思わず叫ぶ。こいつには訊きたいこと、言いたいことがたくさんあるんだ。
「やあヒロ君、そして銀色の姫……久しぶり……ってほどじゃないか」
「アタシは!?」
おい、ルリのこと忘れんなよ。
いや、この場合わざとっぽいな。
「アイはどこだ?」
「あちらです」
クレットの質問にメルが答える。
クレットは後ろを振り向いた。
それとほぼ同時に十字架の火柱があがる。
――あの技は……。
そして火柱からアイが出てきた。
あの赤髪の魔族も出てくる。
無傷か……オレ、あれ一撃で落ちたんだけどなぁ……。
さて、ここからはクレットが戦うらしい、オレの出番は終了かな?
次回はメル、もしくはルリ視点で書こうと思います