蒼聖の人生
前話の前書きに書き忘れましたが、20話を大幅修正してます。
見ないと話が繋がらないので、まだ見てない方は見てください
前話にも注意書きを追加しました。
ガタガタと、揺れる、揺れる。
馬車。初めて乗ったよ、オレ。
「……お尻が痛い」
「おいおいルリ、だらしないなぁ」
「何でアンタは平気なのよ……、初めてなんでしょ?」
「鍛えてあるからな」
戦車もね、なかなか揺れが酷かったよ。
「うぅ……どんな生活を送ってたのよアンタは……」
「秘密」
教えれるわけがない。
「はぁ、まあいいわ。それよりメル、火の神殿まではあとどれくらいで着く?」
「二時間ほどだよ」
御社台にいるメルにルリが声をかける。
ちなみに操舵してるのはメルだ。
本来は人を雇うらしいのだが、危険な場所に向かうわけだし、火の神殿には誰も近寄りたくないらしく、メルが仕方なく請け負っているのだ。
アイは猫バージョンで、オレの膝の上で気持ち良さげに眠っている。
「二時間……か」
結構長いな、どうやって暇を潰そう。
「二時間かぁ、じゃあさ、ヒロの故郷の話聴かせてよ」
「えー」
「聴かせろ!」
うーん、かなり血みどろな話になるな……。
「残念ながらオレの人生を語ると18歳未満閲覧禁止になっちまう、勘弁してくれ」
「どんな人生よ!」
そりゃあ……血みどろでスプラッタでグロテスクで心臓の弱いかたの閲覧はオススメできないような人生……だな。
「ま、オレからしたら他と大差のないような人生さ」
「……ヒロさんの世界は――戦時中なのですか?」
メルが突然話題に入ってきた。
てゆーか、
「……いい勘してるな、メル」
「……何人殺したんですか?」
「覚えちゃいないよ」
でも、たくさん殺した。殺した。ころした。
「……軽蔑するか?」
「いえ、むしろ凄いと思います。よくそんな人生を送って狂ってないのか、不思議です」
「狂ってるさ、色々と」
なんか、いきなりシリアスだな。
静かな雰囲気が流れる中、ルリがその口を開けた。
「さっきからさ、人生人生って……ヒロ、アンタまだ十代でしょ?」
「あ、ああ」
多分、18歳くらい。
「だったら、まだまだ人生これからじゃない」
「…………」
「今までが辛かったなら、これから楽しいことをすればいいじゃない」
「うんそうだね」
「ここでまさかの棒読み!?」
結構良いこと言ったじゃんかよ~、とむくれるルリをよそに、オレは思考する。
これから……か。
うん。ルリ、たまには良いこと言うじゃないか。
「ありがとう、ルリ」
「ん? 何?」
「いや、何でも」
呟いた言葉は、聞こえなかったようだ。
まあいいや。
「メル、此処って何て所だ?」
いつの間にか馬車は砂漠を走っていた。
「此処はサバラ砂漠というわりと有名な砂漠です。あ、魔物も出ますので、この馬車は魔除けの印が描かれているので中級レベルくらいなら大丈夫ですが一応注意しといてください」
「了解」
ガタガタと、揺れる。
次は、どんな話題を出そうか。
そんなことを考えていた直後――
――馬車が、轟音と共にひっくり返った。
「――……っ!?」
即座にルリを抱きかかえ、馬車の床を蹴り破り脱出。
ザザッと砂を踏む感触を感じつつ、地面に降り立つ。
メルとアイは……無事なようだ。
「敵襲!?」
「多分な」
辺りを警戒しつつルリとメルを守るように背面に立たせる。
しかし……一体誰が……。
「おやぁ? 一人も死んでないとは」
そんなオレの疑問を掻き消すように、三つの人影が砂原の向こうからやってきた。
「私の“魔”法も、“魔”だ“魔”だですかねぇ」
一人は、濁った青髪の、太って眼鏡をかけて、白衣を着た男。
「おデ、のパわーなら、一、撃で沈めて、やっ、たのニ、な」
一人は、筋骨隆々の体躯と、オレンジ色の髪を後ろで縛ってる非常に怖い顔をした大男。
「問題はない」
一人は、リーダー格らしき赤髪の美青年、黒衣に身を包み、薄い茶色のサングラスをしている。
それぞれ、かなり特徴的で、個性的で、共通点が無いように見えるが、一つだけ、共通点がある。
「これから殺せば、済むことだ」
耳が――長いのである。
「魔族!?」
メルが叫ぶ。
魔族。
古代より人間と敵対してきた魔物と人間の中間に位置する種族。
その力は人間を遥かに越えるが、知能と、繁殖能力の差で人間がわずかに勝っていた。
しかし、最近魔王と呼ばれる魔族の常識を越えた力と知能を持つ存在が生まれ、現在、人間にとって神と同じくらい敵視されている。
――そんな、種族。
「い、一体どうして此処に……」
ルリが顔を青ざめながら、恐怖の表情を浮かべる。
赤髪が、口を開いた。
「貴様等がここを通るという情報を手に入れたからだよ、金姫、銀姫、そして――異世界の勇者」
うわ、オレのこともバレてるよ。
つうか。
「勇者じゃねえよ、旅人だ」
「ああ、どこでこんな情報得たかを聞くのは無駄だぞ」
無視かよ。
「人間は魔族の敵、そして人間の中でも王位を持つ金姫銀姫は優先して殺すべき敵だ」
お前もな、勇者、と赤髪はこちらを見る。
だから、勇者じゃねえよ。
「さあ、お話はここまでだ」
赤髪が一歩後ろに下がる。
それと同時に、デブと、マッチョが前に出た。
「殺れ」
その言葉を合図に、魔族の二人は動き出した。
デブは双子に、マッチョはオレに。
「ヒロ」
鈴を転がしたような綺麗な声を聴き、振り向く。
そこにはいつの間にか人間化したアイがいた。
「赤髪は私が抑えるから、残りはお願い」
その言葉を聞いて、オレは頷いた。
「ああ……!」
マッチョが拳を振り上げ、こちらに突貫してくる。
オレは鉄甲を即座に填め、拳を作る。
真っ正面から、拳と拳がぶつかった。