第46話 聖人②
真実に辿り着きショックを受けているようで、本当はよくわかっていないだろう顔をしている安田に改めて説明する。
「つまりだ、駿河とレンさんは100年以上前に生まれた。二人は植物を操り効果を引き出すという特集能力を持ち、毒も効かない不老不死の体。でも駿河はなんらかの毒薬を作り、自殺した。レンさんは一人この世に残された。レンさんは不老不死を恐れてる。だから駿河が作ったような強力な毒薬を作り、死のうとしている。たぶん。わかった?」
「わかったけどわかんなぁい」
アホ面の安田なんてどうでもいい。とにかくレンさんの元へ行かねーと!と思ったその時。
墓地の入り口から、杖をつきゆっくりとこちらに歩いてくる爺ちゃんと、それを支えるように歩く、花束を持つ無駄に端正な顔をした男が現れた。
「……真島?」
「お!橘に安田じゃないか。なんだ、どうしたこんなところで!」
「真島先生こそ、どうしたんですか?」
「俺は爺ちゃんの付き添いだ。お前たちの目の前の、そちらのお墓にご挨拶だ」
真島がビシッ!と、駿河の墓を指さす。
「聖さんのお知り合いかな?」
墓の前についた真島の爺さんは、真島から花束を受け取り、墓に供える。
「いや。爺さんは駿河聖のこと知ってんすか」
「知ってるもなにも。聖さんは命の恩人。戦後死にかけていたわしを助けてくれた。親も亡くし、金も何も持っていなかった見すぼらしい子供を聖さんは助けてくれた。聖人のような人だ。もう70年以上も前のことだ」
「俺は子供の頃からこの聖さんの話をさんざん爺ちゃんから聞かされてな。最近も、わしがくたばる前にさっさと子供を作れ、聖さんの話を未来に繋げなくてはって、うるさくてな」
「まさか真島先生の婚活の本当の理由って……それ?」
「実のところな」
バツが悪そうに、真島がこめかみを掻く。
サトコちゃんが、墓に手を合わせる爺さんの横にぴょこんと立ち、その顔を覗き込む。
「おじいさん。聖さんが不思議な力を持っていたというのは、本当ですか?」
「ああ。聖さんは薬草を巧みに使って、貧乏人に治療を施し薬をくれた。あれは今でも理屈がわからない。不思議な人だった」
「毒薬を飲んで亡くなった、というのは?」
「そう言われていた。聖さんは何か事情があってこの町にきたらしく、よく罪悪感に苛まれているようだった」
爺さんの背中をさすりながら、真島は聡子ちゃんを見て、安田を見る。
「ところで、こちらのお嬢さんは……」
「聡子ちゃん。俺の幼なじみのお姉さんです」
「そうか。なぜお前たちは聖さんの墓に?」
「レンさんが……」
「レンさん?もしかして神野レン?レンさんの知り合いか?」
食い気味にレンさんの名前を出す爺さんを、真島が驚いて振り返る。
「爺ちゃん、レンさんのこと知ってるの?」
「時々薬を作ってもらってる」
「し、知らなかった」
「気立てのいいお嬢さんだ。わしらの青春ソングにも詳しいし、あれはいい嫁になる。今度裕也にも紹介したる」
「だめです。レンさん、俺の彼女なんで」
「橘!?いつの間に……!」
「そうか……それは残念だ。そういえばレンさんと初めて会ったのもこの聖さんの墓の前だった」
「まじか。爺さん、その時の話、詳しく」
「……1年前だったか、今日みたいに月命日の墓参りに来た時に、この墓の前でひとり泣いているお嬢さんがいた。それがレンさん。なぜ泣いていたのかは聞いとらん。
ただわしが聖さんに助けてもらったことを話したら泣き止んで、嬉しそうに笑って、今度は私がお薬作りますよ、と言ってくれた。それからレンさんはこの町に引っ越してきて、薬を作ってくれたり、いろいろと話すようになった」
「……爺さん。レンさん、毒の話とかしてた?毒薬作るとかそんなこと。言ってた?」
「いや、わしらが話していたのは主に投資の話」
「投資」
「聖さんに命を救われたわしは、戦後の混乱の中で働き始めた。そして貯めた金を、最低限必要なだけとっておいて、残りを少しずつ投資に回した。最初は国債、次に株、そして不動産。金が金を呼び、気づけば総資産がすごいことになっていた」
「俺の爺ちゃんはとんでもない資産家なんだ」
「真島先生!一生ついてきます!」
安田が真島を、今まで見たこともないようなキラキラした目で見つめている。
「爺さん……もしかして、あそこの山、持ってる?秋の夜に甘い香りが充満する山」
「持っとる」
「坂上高校に古い桜の木があること、レンさんに教えた?」
「教えた」
「『初めての投資信託』って本、レンさんにあげた?」
「あげた」
「あー。うん。おーけーおーけー」
「橘、なにがおーけーなんだ。レンさんとの交際の話、先生は全然おーけーじゃないぞ」
――
西の空が真っ赤に染まっていく。
俺は墓地を出て、レンさんの家へ向かって走り出した。
サトコちゃんも勢いよく走り出したが、数秒でダウンした。安田はそんなサトコちゃんを背負い、再び走り出したが数秒でダウンした。
「大和君!俺のことは置いて行って!君はなんとしてもレンさんを食い止めるんだ!」
「言われなくても置いてくわ!」
駅を抜けて、商店街を抜けて、住宅街……青い屋根の、レンさんの家。
荒くなった息のまま、玄関のチャイムを鳴らす。が、出ない。もう一度鳴らす。出ない。もちろん鍵はかかっていてドアは開かない。
嫌な予感がして庭に回る。柵を飛び越え着地すると、庭の奥からガサゴソと物音が聞こえる。リビングへ続く掃き出し窓のカーテンが大きく揺れている。
……何かがあった。直感した。




