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第44話 聖人①

 すでに日が傾き始めたころ。サトコちゃんの背中を追い墓地の中へ。何度か角を曲がると他の墓石から少し離れた場所に、その小さな墓はポツンとあった。



 駿河 聖

 1918年ー1946年



「……別人じゃね? 死んでるやつ毒殺できねーじゃん」

 

「住職さんが教えてくれたんだけど、この人、終戦後どこからかワケありな様子でひとり来て、このお寺の近くに住みついて、町の人たちを薬草で治療してあげてたんですって。

 なんでも、薬草を患部に当てるだけで治療ができたそうよ。レンさんと同じ能力じゃない?」

 

「……」

 

「とんでもなく美形な色男で、常に周りに女の人がいたみたい。でもある日、女の人たちに来ないよういい付けて……それからしばらく姿を見せなくて、心配した住職が見に行ったらひとり部屋で亡くなっていたんですって。


 そばには湯呑みが転がってて、服毒自殺じゃないかって。でも身元もよくわからない人だからちゃんとした葬儀もあげられず、お世話になった町の有志でこのお墓を建てたそうよ。生まれた年は本人が話していたみたい」


「名前も一緒、美形なのも一緒、なによりチートスキルが一緒。大和君、やっぱりこれは例の駿河の墓だよね。でもどういうこと?とっくの昔に死んだ人間を、レンさんは毒殺しようとしている? 意味わかんない」

 

「でもレンさん、確かにあの時言ったんだ。()()()()()()()()()駿()()()()……」

 

「レンさん、嘘をついているのかな?……大和君?」


 …………

 …………あ。


「……言ってないな、レンさん。レンさんは、『最強の毒薬を作って駿河聖を殺す』とは言ってなかった、一度も」

 

「え? どういうこと? 大和君、レンさんがそう言ったのを聞いたんじゃないの?」

 

「……俺が、最強の毒薬作って誰に使うの? って聞いたとき、レンさんはこう、答えたんだ。

『そこの写真に写ってる人』って」

 

「もしかして、例の古そうな写真?」

 

「そう。『そこの写真』に写っていたのは、駿河聖と、にっこり笑ってるサファリな女だった」 

 

「……それってつまり、毒薬を盛るのは駿河じゃなくて……いや、いやいやいや。そんな誤魔化し方するかな……?いやでも、レンさんだからなあ」


ーー私に効かなければ使えないからーー


「……レンさん、自分に効かない毒は使えない、って言ってた。自分と同じ特殊体質の人間に使うためだからと思ってたけど……()()()()()()だったのか……?」


――駿河は……ただ私が来ることを、ひとりで待っているんだと思う――


「それで、死んだ駿河の後を追うつもりなのか?毒殺するのは……自分自身?」


「な、なんで……いやでも待って、そもそもおかしいじゃない。聡子ちゃんが聞いた話が本当だとすると……駿河は今から100年以上も前に生まれた人間なんだよ? レンさんは駿河と幼馴染だから、つまり今100歳を超えてるはずだよね……?……まさか、俺たちが見ていたレンさんって……いいいい生き霊……?あれ、生き霊って自殺できる……?」

 

「いや、レンさんは霊なんかじゃない。ちゃんと生きてる」


キスしたし。

おっぱいやらけぇし。


「でもレンさん、どう見たって20代だよね?!若返りの薬でも使ってるのか? ()()()()()()。意味がわからない。どういうこと」


 安田とサトコちゃんは混乱している。


 ……そういえば。あの時も……


 ずっとつかえていた違和感のかけらたちが、突然ぶわっと、巻き上がり始める。


「……レンさん、酒を買う時、本人確認できるものが社員証しかなかった。免許証もパスポートもマイナンバーカードも、保険証すら持ってなかった。あれ、持ってなかったんじゃなくて、持てなかったのか。

 それにケータイも会社のだし、家も銀行口座も、株や証券だって自分の名義じゃない。あれも持てなかったからなのか」

 

「なに、なんの話?」

 

「普通の大人ならみんな持っているものを、レンさんは持つことができない。レンさんは自分のことを――『治外法権みたいな存在』だって、言ってた」 


「……法の及ばない例外的な存在ってこと?……まぁ確かにあの能力はチートで例外中の例外だけどさ。ほんと()()()()()()ものだけど」


「そーだ、()()()()()()。……レンさんは駿河の幼なじみ。間違いなく駿河と同じ時代の人間だ。でもそんなのありえないから、社会に認められる存在じゃねーから、レンさんは身分を証明できるものがないんだ。あの人は、()()()()()()んだ」


「???」


……ありえない。

 頭に浮かんだこの考えは、本当にありえない。

 でも、あの人の特殊能力。それがもうすでにありえないのに、ありえている。

 だからこのありえない考えは、ありえるのかもしれない。


 いつになく、真面目な顔をしていたレン先生を思い出す。


――始皇帝は不老不死を必死に求めたそうですが、でもそれってそんなにいいものでしょうか。……終わりのない人生なんて、恐ろしくないですか?……終わりなく動き続けなければならないとしたら、それはとても残酷なことだと思いませんか?――


「……もしかしてさ。レンさん……

不老不死なんじゃね? 100歳超えてんのに若いのはそのためで、毒薬を作っているのは、それを終わらせるためで……」


「……はは、まさかぁ……」


 ありえないよな、こんな話。

 レンさんに言ったら大爆笑されそうだ。

 でも、ありえなくもない。

 だってあの、レンさんだから……

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