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第40話 レン先生①

「能力を明かしている君たちになら、そのうちレンちゃんが話すと思うから言っちゃうけど。眠っていたのは、駿河聖が開発した強力な毒薬のせい。それで長い間昏睡状態に陥っていたのを、うちの地下室で人目につかないよう保護していたんだ。

 

 目覚めたレンちゃんは身内がいなかったから、そのままうちに住んでもらうことになった。長いこと眠っていたからか、地上にあがってもしばらくはぼーっとしていたよ。


 でも次第にあの活発さが出てきてね。毒草に詳しいメイドさんに庭を案内してもらったり、一緒に屋敷を走り回ってメイド長に怒られたりしてさ。そのうちウチの会社の仕事をやってもらうようになったんだ。


 ……それで、なんでレンちゃんをまた地下室に閉じ込めたいの?」


「……今度の土曜日、駿河聖を毒殺するつもりらしい。だから身動き取れないようにしねーと」


「……レンちゃんがそう言ったの?」


「そう」


「土曜日?」


「うん。土曜日『あたり』」


 山本が黙り込み、眉をしかめている。

 

「……レンちゃんは何を考えているんだろう。わかった。監禁の件、考えてみる」


「字面が物騒すぎるんだよなぁ」


 悩ましい顔のまま、山本は東京に戻っていった。

 

 俺もそのままレンさんの家へ……


 行こうと思ったが、なんとなく。なんとなく、足が向かなかった。


 せっかく彼氏彼女の関係にまでこぎつけたのに!合法的にイチャイチャの階段を登れるというのに!我ながらどうかしている。


 でも今日は、俺の知らないレンさんが多すぎた。


「俺今日安田ん家泊まるわ」


「なんで??」


――


 翌朝、すべてをやりつくしたような顔をした安田と共に登校すると、担任の真島が妙に上機嫌だった。


「真島ちゃん、どうしたの? ついに逆ナンされたの?」


「よくぞ聞いてくれた!実は今日、お前たちのために素晴らしい授業を用意したんだ!昼休みが終わったら各自ジャージに着替えて、校門のところに集合するように!」


 クラス中がダラダラと集合すると、そこには嬉しくて仕方がないといった顔の真島がいて、その横に、見覚えのある……サファリな服を着た女が立っていた!


「師匠!」


 青木が馬鹿デカい声を出すと、レンさんは俺たちに気が付いて、嬉しそうに大きく手を振った。


「紹介しよう!今日の特別授業の先生・神野レン先生だ!レン先生はこのあたりの植物を研究していらっしゃる。みんな失礼のないように。今日は裏山を散策しながらいろんなことを教えていただこうと思う。レン先生、どうぞよろしくお願いします」


「神野レンです。今日はどうぞ、よろしくお願いします」


 レンさんが先生になっちまった!

 ぺこりと頭を下げるレンさん。

 はいかわいい。


「毒を克服し地下から目覚めた究極の生命体……!」

 

 安田はフリーザでも見るかのような目でレンさんを見ている。

 

 ……。


 レン、先生か……。


「大和くん。だめじゃない、こんな成績じゃ。特別授業、しなくちゃね」

 

 えろいな……。


「大和君。出てる。綺麗な顔にスケベが出ちゃってるよ」


 安田につつかれハッと顔を上げると、すでに一行は裏山に向かって歩き出していた。

 

 チラホラと紅葉した木が彩るその裏山は、山といっても緩やかで、どちらかというとちょっとした丘、と言った方が近い。

 レン先生が、話し出す。


「この近くに園芸好きな方がいるんでしょうね。ここには普段あまり見られないような、様ざまな園芸種が生えています。


 そこに生えている背の高い綺麗なピンク色のお花はジギタリスといって、イングリッシュ・ガーデンなんかによくみられる人気のお花です。が。特に葉っぱ!誤食すると最悪死にます。薬に使われることもありますが、素人が扱うのは危険です」


「へえ!すごい!さすがレン先生!」


「お、こちらはキョウチクトウ。竹のように細い葉に、夏には花が咲きますね。空気の悪いところでもよく育つので街路樹に使われたりもしていますが、葉などを誤食すると最悪死にます」


「これも死ぬのかあ!」


「まさか……これはトウゴマ?油を取るため戦時中日本各地で栽培されましたが…。これの種子は加熱しないと非常に危険です。死にます」


「みんな死ぬなあ!」


 レン先生の裏山散策授業は楽しかった。植物に興味のないやつも楽しんでいたと思う。時々俺と目があって、恥ずかしそうにふいっと逸らすのも可愛かったし、可愛くて可愛かった。


 青木は最前列を陣取り、熱心に話を聞いていた。ついこの前はレンさんを「植物オタク」と呼んでいたくせに、まったく変わり身の早いやつだ。


 あとレン先生に終始張り付く真島は本当にうるさかった。


「毒草ばかり紹介してしまいましたが、体にいい植物もありますね。これは八丈島などに自生しているアシタバという植物です。こんなところに珍しい。誰か種をまいたのかな。食べられます。


 葉を摘んでも明日には新しい葉が出ると言われるくらい丈夫な植物なので、アシタバ。みなさん、古代中国・秦の始皇帝はご存じですか?」


「キングダム!」


「前221年、中国統一!」


「素晴らしい!やま……金髪の君!よく覚えていますね」

 

 この前覚えた!


「……その始皇帝は死ぬのを恐れ、徐福という人物に命じて不老不死の薬を探させたそうです。その徐福が日本で見つけたのが、このアシタバだったという伝説があります。まあご存じの通り、始皇帝は死んでしまいましたので、所詮伝説です。ですが」


 レン先生はアシタバの茎をハサミで切り取った。

 その茎の断面から、黄色い液がにじみ出てくる。


「この黄色い液の正体は、ポリフェノールの一種であるカルコンという成分です。このカルコンには強力なアンチエイジング効果があるそうです。不老不死の伝説はあながち間違いではなかったのかもしれませんね」

 

 黄色い液に興味津々のクラスの連中を眺めながら、レン先生は話を続ける。


「始皇帝は不老不死を必死に求めたそうですが、でもそれってそんなにいいものでしょうか。人生って終わりがあるから、ゴールがあるとわかっているから、私たちは頑張って生きようという気になるものじゃないでしょうか。


 終わりのない人生なんて、恐ろしくないですか?」


「不死はとにかく、不老はよくないですか?年取ってシワシワになるのいやだもん」


「俺はタラタラ生きるより、ガツーンとデカいことをして、潔く死にたいですー!」


「なるほど」


 レン先生は穏やかな笑みを浮かべ、話を聞いている。後ろの方の男どもが、結構美人じゃね?胸も……なんて話しだしたので、睨みつける。

 黙る。


 そんなことをしていたら。


「ところで皆さんは将来、どんな大人になりますか?具体的に将来の夢が決まっている人はいますか?……いませんか?皆さんはただ漠然と生きているんですか?」

 

 ニコニコとそんなことを言い出すレン先生に、クラス中が黙り込む。

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