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第30話 真島の婚活大作戦②

 球技祭に向けて、担任・真島裕也率いる2年A組は、それはそれは……頑張った。


 熱意というものは恐ろしい。伝染力がある。最初は乗り気でなかった一部の男子も、青木さんがいるなら!と熱心に練習した。女子はなぜか、「若さで勝つ」を合言葉に、序盤から張り切っていた。


 週末は、レンさんからの園芸店に行こうというお誘いを断腸の思いでお断りし、クラスの連中と共に朝から晩まで練習した。

 その晩、お袋は赤飯を炊いた。


 そして、球技祭、前日の夜。

 俺はレンさんの家を久々に訪れていた。といっても、家にあがるとイチャイチャしたくなっちまうから、玄関前で。

 

「毎日練習頑張ってるんだね。明日の大会、優勝できるといいね!大和くんの雄姿楽しみにしてるよ」


「ありがとう。クラスみんなで頑張ってる。優勝したらご褒美ちょーだいね」


「君はすぐ欲しがるね。そうだ、もうすぐ庭のバラが満開になるから一緒にみない?バラは人類に最も愛されてきた植物のひとつで、歴史あり、薬効あり。バラを知らずして植物は語れない!うん、バラパーティー!これ以上のご褒美はないでしょう!」


「え?バラパ、え?」


「頑張ってね!」


 バラパーティーだってさ。

 楽しいのそれ??


 ――

 

 球技祭当日。

 絶好の運動日和だ。

 

 真島の言っていた通り、球技祭にはそれはそれは大勢の、いろんなタイプの人間がやって来た。保護者、知らん人、近所の散歩ついでにきたようなじっちゃんばあちゃん、明らかにナンパ目的の野郎、明らかにナンパ待ちの女、サファリ服を着た女、と、

 その横で黒いUVカットグッズで身を包みまくり、サングラス・マスクを着用し、「将ちゃん」とでっかく書かれたうちわを持つ女子大生らしき女。


「これだけ人がいると、顔を出すのはまだ不安で……」


「いいんだよ、聡子ちゃん。来てくれただけで、その気持ちだけで俺、うれしい」

 

 安田は感動して泣いていた。

 安田に彼女(?)がいることを知り、クラスの男どもは泣いていた。


 競技の合間の休憩時間。2年A組の教室内には、興奮と喜びと悔し泣きが入り交じり、溢れていた。


 「中間発表!卓球女子、決勝進出!サッカー男子、決勝進出!バレー女子、決勝進出!バスケ男子、決勝進出!すごいなお前ら!残念ながら敗退したお前らも!最後の最後まで……本当によく頑張った!お前たち!こんな頑張ってくれて……!もういい!総合優勝はできなくたっていい!俺はもう、十分幸せだ……!ありがとうな……!」


 黒板に書かれた結果を見つめ、涙をこらえて、真島は俺たちをたたえた。

 

「真島!まだ終わってねーぞ!」

「最後まであきらめんな―!」

「セクシーなねーちゃんに逆ナンされたのかー!」

「まだ」


 真島は突然、真顔になる。

 

 そうだ。まだ、終わってない。

 俺たちは優勝しなければならない。

 あの人に、俺が体力だけの男ではないことを!見せつけなければいけない。


 バスケの決勝戦までにはまだ時間があった。さっきの試合でぴょんぴょん跳ねて応援してくれた、かわいいサファリ姿の人に絡みに行こうと廊下を歩いていると、向こうから小さなバッグを抱えた青木が走ってきた。


「青木、バレーの試合終わったの?」


「うん!残念ながら負けちゃって。2位になったよ」


「惜しかったな。でもすげーじゃん。おめでとう」


「ありがとう!……あのね大和君、決勝前に申し訳ないんだけど、体育倉庫に得点板取りに行くの手伝ってくれない? 真島先生が応援に熱を入れすぎて、跳ねて突っ込んで壊しちゃったの」


「大丈夫かあいつ……」


 倉庫につき、青木が鍵をあける。重い引き戸を開けて入る。中はムワっと熱く、埃っぽくて暗い。照明はついていないのか。天井近くにある、横に細長い窓が唯一の光源らしい。

  

「得点板?どこら辺だろうな」

「うーん。このマットの後ろとかかな?ん、重くて動かないや」 

「どいて。やる」


 分厚いマットを動かして奥の棚を見るが、それらしきものはない。額にじんわり汗が浮かぶ。


「にしてもあちーな」 


「大和君、飲み物、よかったら飲んで。こっちのスポドリはまだ口付けてないから」


 青木がバッグから冷えたドリンクを取り出し、どうぞと手を伸ばす。

 

「いや、まだだいじょーぶ」


「そう?ここに置いておくからいつでも飲んで」

「おー」


 あーだこーだと言いながらガサゴソと倉庫内を探していると、バタバタと騒がしい音を立てて元凶の真島がやってきた。

 

「青木!すまなかったな!予備の得点板あったか? あれ、橘もいたのか」


「全然見つかんねーよ。真島、はしゃぎすぎなんだよ」  


「いやぁ……実は観覧者の中に、大変タイプなおねーさんがいたもんで」


「先生……私たちの応援をしてくれてたんじゃないんですか?」


「いや!もちろん応援はしてた!いやぁ、応援頑張りすぎちゃったな!青木たちがいい試合をするものだから、先生も熱くなりすぎた。最後のシュート、綺麗に決まってよかったよな!」


「最後にシュート打ったの相手チームだよ?」


「それにしても声を張りすぎたな!喉が渇いて死にそうだ!……お?いいところに!橘、あとで新しいのおごってやるから、この飲み物もらうな!」


「ん?……あ!それ!私の……」


「え?……青木のだったか?あ……すまん!ま、まだ口はつけてなかったよな……?」


「……」


 きっと今真島の頭の中には、「セクハラ」の4文字が浮かんでいるのだろう。

 このご時世厳しいからな。かわいそうに。

 

「青木、許してやってくんね?」


 あまりにも哀れな真島の顔に思わず助け舟を出すと、青木は目をパチクリさせ、ハッと気づいたように、俺の腕をつかんだ。


「大和君!時間、バスケ、決勝の時間だよ!行かなきゃ!」 


「まじか。ほんとだやべ、真島あとは頼んだ」


「先生、別に私、怒ってないから!」 


「あ、ありがとう青木!橘、頑張ってな!先生も見つけたらすぐに行く!」


 倉庫を出てバスケのコートへ向かって走り出すと、突然、青木が立ち止まった。


「青木?」 


「大和君、先に行ってて!すぐ応援に行くから!」


「?りょーかい」


 俺がまた走り出したのを見届けた後、青木がくるりとターンして、再び体育倉庫のもとへ向かったことに、俺はちっとも気づかなかった。

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