第29話 真島の婚活大作戦①
「ということで、俺、高校の球技祭でバスケやるんで、レンさん応援に来てください」
「うん!ドーピングどれ使う?この前の短期決戦型?少しだけど持続時間改善したの。でもバスケするには足りないか」
「いやなんで使う前提で話してくるの。普通球技祭でドーピングはしないから。使わないから。大丈夫だから」
「そ、そう……」
レンさんは残念そうにソファ下の薬置き場を眺める。
「そのままでも俺、結構強いから。ちゃんと見ててね」
レンさんはまだ残念そうに自作の薬たちを眺めている。
使いたいんだね、それ……
「というか大和くん、球技祭とか参加するんだね。ちょっと意外。普通ヤンキーってそういうの出ないじゃない。なんなら荒らしにいくじゃない」
「体動かすのは好き」
「そもそも大和くんってなんでヤンキーになったの?」
「ヤンキーになんでヤンキーになったのかって、普通聞きますかね」
「ヤンキーはヤンキーでしょ。こんな綺麗な髪の毛金髪にしちゃって、絡まれたらすぐ喧嘩しちゃって、平気で学校はサボって。安田くんから聞いたけど、大和くん、1年生のときは普通の男子高校生だったんでしょ。何かあったの?」
「レンさん。俺のこともっと知りたくなった?」
「うん、知りたい。……あ、ちょっ、そうじゃない。そういう意味じゃない。普通に、普通に知りたい。すぐ抱かない!耳を噛まない!舐めないの!」
レンさんを後ろから抱きしめてスキンシップ。
「でも無理して話さなくていいよ。もし話したくなったら教えてね」
「別に隠すことでもないけど。……1年のころ、俺とお袋を捨てた父親に、新しい家族ができてること、偶然知っちまって。なにもかもいやになった時期があった」
「そうだったんだ」
「レンさんは? 両親仲いいの?」
「私の親は二人ともとっくの昔に死んじゃったの」
「ごめん」
「ううん。大丈夫」
レンさんは俺の腕をやさしくほどいて、振り返って俺の顔を覗き込んできた。
優しく、にっこりと笑うその顔に、思わず胸が高鳴る。
「大和くん。話してくれてありがとね」
「たいしたことじゃないから」
「私、大和くんの父親代わりになれるよう頑張るね」
「それは無理」
◇◇◇
真島が球技祭婚活宣言をしてから、放課後、毎日怒涛の練習が始まった。
真島は体育教師の権限をフル活用し、自身の率いるA組に練習場所の便宜を図りまくった。他のクラスからブーイングを受ける中、俺たちは日々練習に取り組んでいる。
もちろん俺は当初、そんなのに付き合うつもりはなかった。しかしあの日、いつものように引っこ抜いた葉っぱを持って家を訪れた俺に、レンさんは、何食わぬ顔で、こう言い放ったのだ。
「薬使わなくて、練習もしないで、球技祭勝てるの? 大和くん、体力はあるけどテクニックはなさそうじゃない」
なんと非情な!俺はその言葉にカチンと来た。絶対に優勝して見返すことを心に誓い、男どもを引っ立て練習に励んだ。
「大和君燃えてるね。またレンさんから条件でも出されたの? 俺、バスケなんて無理なんだけど」
「安田。これは男のプライドをかけた戦いだ。さっさとシュート練習するぞ」
俺は!
体力もあるし、テクニックだってある!
「橘!いい感じだ!その調子でいけば、あのクラス強すぎない?先生がすごいんだわ!うわ見て、筋肉すごーい!ちょっと触ってみてもいいですかお姉さんの登場も、より確実性を増す!そう!それだ!左手はそえるだけ!」
左手をそえるだけなんて!
物足りなさすぎんだよ……!
「真島ちゃんさぁ、なんでそんなに婚活したいの?29なんてまだまだ結婚しなくていーじゃん」
激しすぎる練習に、床に倒れこんだクラスの女子が聞く。
何人かが手を止め、真島を見る。
「お前らもなぁ、気づいたらあっという間に年取ってるぞ。いつの間にか結婚適齢期を過ぎちまうぞ」
「でも結婚は墓場だって、誰か有名な人が言ってたよ。無理してしなくてもいいんじゃない」
「俺は……ただただ、家に帰ったときに、ゆうちゃんお帰りって出迎えてくれる、可愛い嫁が欲しいだけなんだ……!」
「今の時代共働きが普通だよ。真島ちゃん専業主婦養えるだけの金稼いでんの?」
「なかなか痛いところをついてくるな」
「結婚かぁ。うちらもいつか結婚するのかなぁ?想像もつかないんだけど」
「法律的には来年結婚できるよ~」
「で、真島ちゃんは年上のおねーちゃんがいいの?ピチピチの若い女子が目の前にいるけど」
「バカ言え、年下なんぞに興味はない。年上の色気あふれるセクシーなねーちゃんがいい」
「真島ってさ、顔はいいし、体育教師なだけあってガタイもいいのに、だいぶ変態だよね。残念なイケメンの代表って感じ。喋らなければモテそうだけどね、喋らなければ」
「ひよっこに何言われても痛くも痒くもないね!」
結婚かぁ。
結婚。
父親がいなかったから、お袋が一人で苦労する姿をずっと見てきたから、正直結婚に対していいイメージはないんだが。
結婚。
あの人は……結婚したいとか、思うのだろうか。思ったことはあるのだろうか。
駿河聖のお嫁さんになりたい、とか。思ったりしたことはあるのだろうか。
というか。レンさんは自分の片思いだったって言ってたけど、そんなことありえるか?あんな可愛い女が慕ってくれて、手、出さないなんてこと……ありえるか?
「駿河は体力もあって、テクニックもあったから……」
そう言って恥じらう、サファリな女の姿が脳裏に浮かんだ。
「あーーーーーー!」
「わ、大和君が雄たけびをあげている」
「どうした橘。お前も年上派か」
「当たり前だろ、年上上等……!」
クラスの女子たちから悲鳴が上がる。
安田に肩をポン、と叩かれる。




