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第24話 危険な快楽を求めて④ー大和の場合

 ターザン女、もといレンさんを追って森の中を走っていく。顔に体にビシバシ葉っぱが当たって鬱陶しい。甘い濃厚な香りはどんどん強さを増していく。


「レンさーん」


「あれ?大和くん!いつのまに追ってきてたの」


「それずるい。俺もターザンしたい!」


「え? 炭酸飲みたい??……あ!見えてきた!すごいすごい!いっぱい咲いてる!」


 突然、開けた場所に出た。満月に近い丸い月の光を浴びて、膝丈くらいの高さの白い花達がブワッと咲き狂っている。夜風に乗ったむせ返るような甘ったるい香り、すぐにでも酔っちまいそうだ。

 

 これが……媚薬効果のあるらしい花……チューべ(ローズ)か!


「ほんとに……ほんとにあったねチューべローズ。すごい香り。これだけ咲いてると圧巻だ。うん、すごい!最高!」

 

 シュタッとツルから飛び降りて、チューべ畑の中を楽しそうに歩いていくレンさん。見守っていると、レンさんはその中でしゃがみ込んでチューべを掘り起こし始めた。


「レンさーん。持って帰るんすかそれ」


「うん!おじいちゃんに、山の中好き勝手して良いって言ってもらえたから!ひとつもらっちゃうー」 


「この山おじいちゃんの山だったんすか」


「そ!あっちの山も、そっちの山も、駅前の高層マンションも!全部おじいちゃんのもの!」


 いつのまにかとんでもなく金持ちのおじいちゃんと仲良くなってるじゃねえかこの人……


 掘り起こしたチューベを袋にしまうレンさんのそばに、鼻を覆いながら向かう。

 すると来た森の方からガサガサと音がして、振り返ると山本が出てきたところだった。


「レンちゃん!やっと追いついた……わぁ……すごい、たくさん咲いてる」


「山本くん!ついにゲットしたよチューベローズ!」


「よかったね!それにしても白い花がいっせいに咲いて、月の光を浴びて、官能的な香りの立ち込める光景で……幻想的だな。でもこの花、日本に自生している植物ではないんだよね?普通の開花時期ともズレてるし。こんなこと普通ありえる?」


「山本くん!これはフィクションだから!なんでもありなの!」 


「え??なんだって??」


 離れた距離から仲良く会話を始める2人。ムカつくのでレンさんの後ろから抱きついて、少し汗ばんだ首元に鼻をうずめる。

 

「レンさん、この花の匂い甘すぎ。俺酔いそう。早く2人でどっか行こ」


「え!大和くん大丈夫? コレで鼻塞いで」



 レンさんはポケットから白いハンカチを取り出した。

 ……大丈夫だろうな、コレ。催眠薬とかなにも付いてないだろうな。


 レンさんと一緒に居るとあるある

 薬が盛られてないか気になる


「……大和くん。今失礼なこと考えてたでしょ」


「え? いや別に?」


「とりあえず一株頂けたから帰ろ帰ろ。確かにずっと嗅いでると酔いそうね」


「レンさん、このチューべ使って媚薬作るって本当?」


「なんで大和くんが知ってるの。山本くん?大和くんに話したの山本くん? あぁやまもととやまと、名前が似ててめんどくさいな。やまもとやまと、やまやまと」


 急にめんどくさがって意味不明なことを口走るレンさん。


「じゃあ俺のこと、拓人って呼んでよ」


「今さら呼び方変えるのは照れくさいなぁ」


「そうだよレンさんが照れくさいだろ!引っ込め」


「……君と違って俺はいっぱい稼いでるの。一銭も稼げない男に何言われても響かないなぁ」

「んだと……」 


「じゃあ昔みたいに”坊ちゃん”呼びかなぁ」


「レンちゃんそれは勘弁して」


 そういって苦笑いした山本は、ふと思い出したようにニヤリとして、チューべ畑の中に入りこっちに近づいてきやがった。

 

 レンさんを背中から思いっきり抱きしめ直して、頭の上にアゴをのせヤツを威嚇。


「レンちゃんレンちゃん」


「ん?」


「このチューベローズ、本当に媚薬効果があるか、ちゃんと試してみた方がいいんじゃない?」


「もちろん、納品前に試験はするよ」


「今、試験してみようよ」 


「今?!ノートとか持ってきてないよ」 


「大丈夫。何もいらないよ、レンちゃんさえいれば」


「おい山本、それ以上近づくな」


「ね、大和君も。いい案だと思わない?今、効果を確かめてみるの」


「何企んでんだ」


 山本は無駄に整った顔で、レンさんをジっとり見つめやがる。俺は片手でレンさんを抱きながら片手でしっし、と山本を手で払う。だが、その手を山本に掴まれた。……その力が結構強くて腹が立つ。


「レンちゃん、いつものように能力でこの花の力を引き出して、自分に使ってみて。はい、社長命令」


「え!でも、媚薬って、その、」


「それでレンちゃんが俺か、そこの大和君を欲しいと思わなければ、媚薬としての効果はないことになるよね」


「は、はぁ〜なるほど?? でもほら、私厄年だから(?)。山本君が試せばいいじゃない」


「いいけど、俺、理性飛んだら速攻レンちゃんのこと食べちゃうよ」


「おいコラ」


 レンさんは山本をブン殴ろうとする俺の腕を押さえ込みながらも、口をはわはわさせて目を泳がせている。


 背中に俺、前には山本。

 

「大和君も気になるよね? 理性を失ったレンちゃんが、本能で俺と君、どっちを欲しがるか」 


「俺に決まってんじゃん。おっさんは引っ込んでろよ」


「私そのおっさんより年上なんだけど」


「……大好き。レンさん大好き」


 山本の野郎はレンさんの手をとって、切なそうに、その手を自分の頬に寄せた。


「レンちゃんが大和君のこと気になってるのはわかるけど、俺と過ごした時間のほうがはるかに長いでしょ。でもね、いい加減俺、『年下の坊ちゃん』は卒業したいんだよね」


「ダメ!一生卒業すんな!」


 チューベローズの中心で、愛を叫ぶ男たち。

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