第22話 危険な快楽を求めて②ー大和の場合
太い木の枝が螺旋状に並ぶ「階段」を上ると、枝やツルが複雑に絡まってできた「床」と「壁」と「天井」ができていて、6畳くらいの「部屋」のようになっていた。
「天井」からはツルでできたハンモックが吊り下がっている。「壁」はところどころ「窓」のように空いていて、そこに葉っぱが連なりカーテンのように付いていた。
安田がそーっと、「床」に足を伸ばす。それがびくともしないことを確認し、ゆっくりと「床」を歩き出す。それを見たサトコちゃんも楽しそうに「床」を歩き回る。
さらに階段を上ると、下の階よりは少し小さい同じような空間。
「上が女子の部屋、下の階を男子の部屋にしたいと思います。お手洗いは男子は右の樹に、女子は左の樹に作りましたので、そちらをご利用ください」
えっへん、といった感じで腰に手をあてるレンさん。俺は素直に拍手した。こんなの、すごいと思わない方がどうかしている!
「レンさん、レンさんは超能力者なんですか?」
大興奮のサトコちゃんが、レンさんをキラキラした目で見つめる。
「そうなの、ちょっとした超能力者なの。触れた植物を操ったり、秘めた力を引き出すことができます!ここだけの秘密ね」
「きゃー!すごいすごい!魔法みたいです!ほんとに……信じられない!夢でもみてるみたい!」
「いやあ、それほどでも」
「何度見ても感動するなぁコレ。レンちゃん、ほんとにすごいよ」
俺はとっくによく知ってます感を出してくる山本は、隙を見て落としてやりたい。
「大和君、これは怪奇現象の一種かな」
安田はとっても爽やかな笑顔を浮かべている。
「そうだよ。これは怪奇現象。不思議なことは全部怪奇現象だ」
「だよね。あーよかった。俺、まさか、あんなことやあんなこと、全部レンさんのせいなんじゃないかと疑っちゃうところだったよ。やっぱり怪奇現象だよね。よかったよかった」
世の中には知らない方が幸せなこともある。
ツリーハウスに各々の荷物を置き、俺たちは早速採集を始めた。
レンさんはチューベローズ以外にも探している植物があるらしく、君たちはチューベを頼む!と言い残し、ターザンみたいにツルでアイヤーして一人山奥へ行ってしまった。
残された俺たちは距離を保ちつつも、チューベを探す。
「ひざ丈くらいの……まっすぐ伸びた茎の先に、白い花がたくさんついている……」
「お、安田君。真面目だね」
「最初に見つけた人には追加で1万円ボーナスが出るって、レンさんが言っていたので」
「あの人勝手にボーナス作ってんの?」
山本は驚いて苦笑いする。
大人の余裕ってやつか?ほんとにむかつくな。
「チューベじゃないけど、将ちゃんこれ見て!ブルーベリーみたいなかわいい実がなってるよ!」
「どれどれ? ほんとだ!食べれるかなぁこれ。お腹すいたなぁ」
「安田君、それヨウシュヤマゴボウだよ。食べたらだめだよ」
「有毒植物ですか?」
「うん。食中毒になっちゃうからね。果汁に触れても皮膚炎を起こしかねないし」
「えー。危険!山本さん、植物に詳しいんですね」
「昔とある詳しい人にイロイロと教えてもらってね」
山本がニヤリとして俺の方を見る。
「……俺も教えてもらったし。エンジェルストランペット、でけートランペットみたいな花がぶら下がるように咲くやつ。甘いいい香りがするけど、幻覚作用とか、呼吸困難になったりする成分が含まれてる、なかなかヤバい花」
「お。レンさん仕込みの植物ネタだね。そしてそれはもしかしてこの花のことかな?」
振り返って安田を見ると、頭にトランペットを被っていた。
「それ、チョウセンアサガオの仲間だよね。曼陀羅華」って聞いたことある?昔から薬としても使われていた有名な植物の仲間だ」
「あ!この前みてたアニメに『蘇りの薬』が出てきたんですけど、その材料に曼陀羅華、使われてました!」
「そうそう!聡子ちゃんよく覚えてるね。あのアニメ面白いよね」
「わかります!あの宦官がカッコよくて!」
サトコちゃんはすっかり山本にほだされている。
だめだめ、ちょろすぎ!これだから悪い男に引っかかるんだよ。
「でもチューベ、どこに生えてるんですかね。このあたりにあるはずだってレンさんは言ってたけど」
「見つからないわねー」
「レンちゃんもテキトーなとこあるからなー」
「……」
「それで、チューベをゲットして、レンさんは何に使うのかな?」
「レンちゃん、媚薬を作るって言ってたよ」
「あ???」
思わず山本を睨む。山本は勝ち誇ったような顔をする。
「あれ? 大和君はレンちゃんから聞いてなかったんだ?」
「てめー……」
「おおおおお落ち着いて、お二人さん。びびび媚薬かぁ、それはすごいなぁ」
謎にテンパる安田と、うつ向いたまま同じ場所を行ったり来たりするサトコちゃん。
ほら!そういうデリケートな話!女の子の前でするもんじゃねーんだよ!
「チューベローズの官能的な香り。俺も香水で嗅いだことはあるけど、生の花で嗅いだことはないんだよな。レンちゃんがうまく使ったら、効果、すごいんだろうなぁ」
心底楽しそうな顔をする山本。
の頭を、ひっつかんできたエンジェルストランペットの花で、後ろから思いっきり殴ってやった。




