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第21話 危険な快楽を求めて①ー大和の場合


 ドアを開けて家の中に入ると、タンクトップにショートパンツ姿のレンさんがうろうろしていた。


「?やまも……じゃない、大和くん?びっくりした。学校終わったの?」


「……山本と何してたの」


「え」


 レンさんは固まって、俺から目を逸らし、明後日の方向を見た。


「仕事の話を少々……」

「嘘つき」

「嘘じゃない!」

「嘘つき。レンさんの嘘つき」


 じりじりと近寄ると、レンさんは目を泳がせる。


「山本がいるときにシャワー浴びてたんでしょ? それから? こんな格好でアイツと二人でいたの?」


 タンクトップの心もとない肩ひもを引っ張ると、レンさんはますます目を泳がせた。


「いえ、あの、大和くんが想像しているようなことはございません」


「じゃあ言えるよね。何してたの」 


「仕事の話を少々……」


 はあぁ。深くため息をつくと、レンさんは慌てて、落ち着け少年となだめてくる。それが余計に俺を苛立たせた。


 レンさんの細い腰に腕を回して持ち上げて、ソファに強制連行。ごろんと寝転がせて、その上に覆いかぶさる。弱弱しく抵抗するその首元に顔をうずめると、いつもより強いシャンプーの香りがした。


 こんな状態で山本と二人で会ってたのか?ほんとにむかつくな。


「落ち着いて大和さん」


「俺は落ち着いてるよ。レンさんの方が落ち着いたら」


「はい、一回どいて!どいてくれたらいい話をしてあげよう」


「どんな話かによるなー」 


「高校生が一番喜ぶ話!」


「えろい話?」


「そっちじゃない!もう一つの方!」 


「……?」


「えろいことしか頭にないのか!」


「あ!痛エ!」


 レンさんの膝蹴りが横腹にヒット。地味に痛い。

 その隙をつかれ、レンさんが上半身を起こす。

 

「君はねぇ、昨日からどうしたの!発情期でもきたの!?」


「レンさんがいたら俺、年中発情期です」


「バ……バ……。んんん。とにかく、いい話があるけど、のってくれる?」


「……ものによる」


 レンさんはコホンとわざとらしく咳払いして、それからキリっと、改まった顔になった。

 

「高校生。金が欲しいか……?」


◇◇◇


 ということで、週末。山の中に来た。

 え?


 しかも安田と、サトコちゃんもいる。

 え?


 あとついでに山本もいる。

 は??

 


「ここら辺でいいかなぁ、今日の野営地は」


「レンちゃん、あっちの方がよさげじゃない? いい感じに使えそうな木が集まってる」


「ん? ほんとだ。あっちにしよう!」


 行軍でもするのかという勢いのどデカいリュックを背負ったサファリ度マシマシなレンさんと、

登山・ハイキング等野外アクティビティにも慣れてます俺的なカジュアルファッションに身を包んだ山本の後ろを、俺、安田、サトコちゃんが息を弾ませながらついていく。


 レンさんのいう「いい話」とは、要はアルバイトのことだった。なんでも、この山に泊まり込み大掛かりに植物採集をしたいのだという。


 知らんがな。でもレンさんはどうしてもそれがしたいそうで、金で俺たちを釣ったのだった。バイト代はレンさんの会社が出してくれるらしい。

 

 そう、俺たち。哀れ安田は突然家に現れたレンさんに誘われて、半ば強制的に連行されてきた。また遺書を書いてきたらしい。サトコちゃんは安田の遺書を見て面白そうだと思ってついてきたらしい。山本は……


「いやあ、山本くんも来てくれて助かったよ、私、車運転できないからさあ」


「おかしいなぁ。俺社長なのに、なんで運転係なんだろう」


 アッシーです。

 はッ!!!!ざまーみろ。


 一泊二日の林間合宿。レンさんお手製の「合宿のしおり」によると、今回のメインターゲットは「チューベローズ」という花。夜になると香りが強くなる白い花らしい。……が。


「レンさん、チューベローズ、花咲く時期、主に夏ってなってますよ。もう秋ですけど」 


「そう。主にはね。温暖な地域の花だしね。でもこの山ね、秋になると夜、甘くて官能的な香りが充満するんだって!近所のおじいちゃんが言ってた。めったにないけど、野生のチューベローズなんじゃないかと思って。気になっちゃって」


「甘くて官能的な香り? どんなかしら。気になります!」

 

 サトコちゃんは今回一番ノリノリだ。少しずつ外に出て人にも会えるようになってきているらしいが、それにしてもいきなりコレ。大丈夫か?


「あー、夜のバーベキュー、楽しみだなあー」


 安田は難しいことを考えるのをやめ、楽しいことだけを考えるようにしたらしい。

 誰も肉、持ってきてないと思うけど。


「ところで夜ってどうやって寝るの? 地面に寝袋で寝るの?」


 山本は頼りねぇコンパクトなリュックしか背負ってないし、俺たち金で雇われた3人は言われた通り各々の持ち物しかもってきていない。レンさんのリュックがデカいとはいえ、この人数が入れるテントやらが収まるとはとても思えない。

 

「レンちゃん、この子達はあのこと、知ってるの?」


「大和くんはね。安田くんと聡子ちゃんは今日が初お披露目」


 二人は顔を見合わせる。……ということは、アレか。


 レンさんはリュックをおろし、ひときわ大きな樹に両手を当て、ブツブツと何かをつぶやいた。

 それから一歩後ろに下がり、上を見上げ両腕をあげて――


「いでよ!汝の力を我に見せたまえ!」


 なんか叫んだ。


 するとミシミシ…と、その大きな樹の上の方にあった枝達が音を立てて動き始めた。安田とサトコちゃんがびびって後ずさりをしている間に、レンさん、今度は地面に手をついてまた、


「大地よ!我の呼びかけに応え、いい感じの寝床を作りたまえ!」


 なんか叫んだ。


 今度は周りの小さな木や、よくわからん葉っぱどもがメシメシと、大きな樹に集まるように動きだした。


 おー。山本が気の抜けた声を上げる中、目の前のでかい樹や植物たちは、あるものは巨大化し、あるものはツルをシュルシュルと伸ばし絡みつき、あるものは葉を集めて大きな屋根のようになり、何かをどんどん形作っていった。


 そう、それはまるで、あの雪の女王……妹と喧嘩して城を飛び出した某雪の女王……が、熱唱しながら一人雪山の中で氷の城を建設する映画の名シーンのように。


 目の前の植物たちは、まるで「生きている」かのように、動いて、動いて、何かを作りだす。

 

 レンさんはそれらを操る指揮者のように、腕を優雅に振っている。

 サトコちゃんは口を両手で押さえて、瞬き一つせず見入っている。

 安田はいつのまにか正座、敬礼していた。


 そして。


 俺たちの前に、巨大なツリーハウスが現れた!

 

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