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第18話 隣の席の大和君②

 安田です。


 なにを間違えたのか、クラスの連中(学年一の美少女含む)と花火大会に行くというイベントに参戦してしまった俺は、普通に女の子たちの浴衣姿を堪能して、普通に花火を楽しんで、普通に幸せな気分でみんなと帰路に着いていた。

 

 ありがとう、大和君。こんな素敵な機会をくれた、きっかけは君だ。ありがとうイケメン。


 クラスの連中は、密かに大和君のことが気になっていたようだった。夏休み前はあまり学校に来なかったのに、最近は毎日登校している大和君。


 一匹狼型ヤンキー、おっかねえ奴かと思いきや意外と話してくれるとか、

 重いもの運んでたら代わってくれたとか、

 家庭科の調理実習でテキパキと作ってくれたとか。

 世界史のテストで81点!あれはすごかったよなとか。みんな色々と思うところがあったようだ。

 

 そうでしょう!そしてテストの件は!俺のおかげです!


「でも今日、大和君誘ったら断られたんでしょ? 先客がいるとか」


「えー。それ絶対彼女じゃん。大和君の彼女とか羨ましすぎる」


「でもいくらイケメンでも、大和ってまだ喧嘩ばっかりしてんだろ? 3年の先輩たちともさ……」


「でも最近アイツ怪我してなくね? 前はしょっちゅうアザ作ってたよな」


「俺もそう思った!毎日学校に来るようになってからアザの頻度減ったよな」


「そういえば安田君はこの前アザだらけだったよね」


「あぁ、あれはね。ちょっとね」


 あれはね、あれは……

 本当に謎。大和君も一緒にボコボコにされたのに、なぜ彼は月曜日、傷ひとつない体で爽やかに登校してきたのだ。


 その理由にもあのレンさんが絡んでるんじゃないかと、俺は睨んでいる。あの人、絶対超能力か何かを持っている。間違いない……


 そんな話で盛り上がっていた時だった。


「どっかの主よ。私をお救いください……」


 信仰心があるんだかないんだかわからない不気味な祈り声が後ろから聞こえてきた。

 

 思わず振り返ったら、大和君。

 と、乱れた浴衣で空を仰ぐ女の人。

 

 あ、やべ。これは見なかったことにすべきだ。そう思ったのに、人体の反射とは恐ろしい。思わず声が出てしまい、みんな一斉に振り返ったのだった。


 ――ひと通り質問を受け流した大和君は頷いて、それから、じゃ。といって、後ろに隠していたレンさんを肩に担ぎ上げて、颯爽と去っていった。

 

 俺たちはそれを見届けて、顔を合わせて頷き合った。


「やっぱりイケメンはちげーな」


◇◇◇


 翌日、学校。今日の大和君は堂々と遅刻。でも遅刻してきた奴とは思えないほど彼の顔は爽やかで眩くて、髪をかきあげる時に発生した輝かしいイオンクラスターに当てられて、クラスの女子が何人か逝った。


 授業の合間の休み。昨日あのあとどうなったの、と小声で聞いてみると、大和君は上機嫌に、ひーみーつ。と、人差し指をその端正な唇にあて、言った。

 

 離れた場所で聞き耳を立てていたと思われる女子が、あぁっ!と叫んで机に額を強打した。


 体育の時間。運動神経のいい大和君は、体育の授業が結構好きみたいだ。途中Tシャツの裾で額の汗を拭った時、お決まりの腹チラが炸裂し女子からの歓声が上がりブチ切れた男どものパフォーマンスが飛躍的に向上し担任の体育教師は大いに燃え上がった。


 体育のあと、国語の授業。大和君はおやすみタイムだった。秋の爽やかな風が教室のカーテンを揺らす中、腕を組み俯いてコクリコクリとするその天使のような寝顔は、見るもの全てを和ませた。

 

 日頃から早く孫がほしいと言っている国語の女教師は、スヤスヤと眠る赤子を愛でるように大和少年を眺めていた。いや仕事しろ。

 

 昼休み。学食に行く。昔から連んでいる仲のいいやつらと飯を食っていると。中庭をブラブラと歩いてどこかに行く大和君が見えた。それを見てB組の村上が心配そうに聞いてくる。


「安田、最近橘と仲良いんだろ?大丈夫なの?橘と敵対してる3年のやべー奴らに目つけられてない?」


「俺も正直危惧していたんだけど。今のところ大丈夫そうだ」


「ならいいけど、あんまり不良と関わらない方がいいよ」


「うーん。でも大和君、不良って感じはあまりしないけどなぁ」


「いやお前、橘が停学になったこと忘れたのかよ。先輩たちをひとりで病院送りにしまくったやつ。あいつ、怒らせたら相当やばいぜ」


「確かに、覚醒した大和君は強すぎるからなぁ……」


 そんな穏やかな(?)昼休みが終わり、教室に戻ろうとすると、廊下の端にあるA組から真っ黒なオーラが漏れ出てきていた。何事かと思って覗き込むと、大和君を中心にダークオーラが発生している。大和様は非常に険しい、憎々しげなお顔をされていらっしゃる。


「安田君、安田君」


 青木さんが小声で俺の名を呼ぶ。


「青木さん、どうしたのこの空気」


「大和君の機嫌がすごく悪いのよ。安田君、なにがあったか聞いてみて」


「えええ」


 恐る恐る自席に戻り、横を見る。午前中の爽やかイケメンはどこにいった?多分、夜の世界のボスって、こんな感じ。そんな顔をしていた。


「……大和君、どうしたの。何かあったの」


「あ〝ーー」


「ひっ」


「……さっきレンさんに電話したら、山本の野郎が出やがった。今レンちゃん、シャワー浴びてるから、って」


 バシン!と机を叩く大和氏。教室中が震え上がる。

 山本って誰。


「安田ァ」 


「はいッ」


「つーことで、放課後作戦会議な」


「あ、ごめんね。今日は聡子ちゃんに付き添ってお寺さんに写経の講座を受けにいって、そのあと一緒に買い物に行く予定なんだ」


「……そーかよ。気をつけてな」


「ありがとう。でも大和君、決して早まってはいけないよ」


「あー……」


 今にも山本(誰?)に噛みつきそうなこの男。

 ガルルル。きっと冥界を守っている番犬ってこんな感じなんだろうな、なんてくだらないことを思ってしまう。


 確かギリシャ神話によると、その番犬が垂らしたヨダレから有名な毒草が生まれたはずだ。

 なんだっけな、アレ。なんて名前だっけ。聞いたらすぐ、あー!ってなるやつ。


「トリカブトォオオ!」


 バシン!と、謎の叫びをあげて、大和君がまた机を叩く。

 教室中が再び肩を震わせる。


「あー!それそれ」


「アイツに盛ってやろうか」


「え? だめだよ大和君、人に毒を盛ってはいけないよ」

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