第14話 美少女接近!ー安田の場合
どこの学校にもいるように、坂上高校にも”有名人”がいる。
2年生で言うと、まずは2年A組・我らが橘大和。一匹狼のヤンキー様。たいへんなイケメン。それから同じくA組に青木美玖。正統派美少女。多分2年男子の3分の1は青木教に入信してる。
あとはB組にギャル系美女と、爽やかバスケ部イケメン。C組に群れる系ヤンキー2年支部のボスと、モデル系美女。D組は知らん。E組も知らん。
その有名人達の中でも群を抜いて有名人なのが、こちら隣の席の大和君。彼は少し前の停学事件により、その名声(?)を手にすることになった。
だがそんな彼に可愛らしい一面があることを知っているのは、おそらくこの学校では俺だけだろう。
彼は――
恋をしている。それも……
「安田はさぁ、例えばの話だけど、サトコちゃんが誰かを抹殺しようとしてたらさ、どーやって止める?」
暗殺者に恋をしているーー!
「……レンさんってやっぱりその道の人なの?」
「なんでレンさんだってわかったんだよ。誰にも言うなよ、これには深い事情があるんだよ」
「いやこの前のレンさんの動き只者じゃなかったよね。完全にその道の人だったもんね」
サトウへの復讐決行の日。ひらりひらりと背後から近寄り、そっとハンカチを口に当て、無関係な人達を次々に気絶させていったレンさん。
最後にサトウに催眠をかけまくって錯乱させ、二度と聡子ちゃんや俺たちに近づかないと誓わせて、バカみたいにサトウを泣かせまくった、素敵な素敵なお姉さん。
あれは間違いなく、プロの仕事だったな。
「大和君。ちなみにあの晩、サトウの家が突然ツタと木の根に覆われたのって、さすがにレンさんとは関係ないよね?ただの怪奇現象だよね? ただの……怪奇現象だよね?」
「安田。安心しろ。怪奇現象だ」
「そうだよね。怪奇現象だよね」
「怪奇現象だ。それでだ。レンさん、かつて好きだった男の暴走を止めるために、仕方なくそいつを抹殺しようとしているんだけどよ……」
「そんなハードボイルドな事情があったの……」
「それで。どーすんだよ、安田は」
「えぇ、俺に聞かれても」
「俺はなんとかして止めたい。レンさんに罪を犯させたくない」
「今でもかなりギリギリのことやってない?」
大和君は遠い目をする。
そうだよね。
きっと色々ギリギリなんだろうね。あの人……
「だから俺がレンさんより先にその男を捕まえる。それで警察に引き渡す。だがヤツはかなり強敵だと思われる。普通に攻撃してもすぐに回復されるだろうし、まずそもそも近寄れるかもわからない。何よりポイズンパワーでデッドエンドの可能性が高い」
「大和君は何と戦おうとしてるの?魔王?魔王かな?あれ。いつのまにか俺たち異世界転生でもしてた?」
「してねーよ。これが現実だ!」
バッ!と両手を広げる大和君。
あぁ、昼休みの屋上、青空をバックにイケメンがなんか言ってるよ。青春だな。
「それで、レンさんの抹殺のターゲットってどんな人なの?」
でも青春の会話内容じゃないんだよなぁ。
「美形」
「イケメンに美形と言わせるとは相当なんだね。名前は?」
「駿河聖」
「ググってみよう……するがひじり。うーん、それらしき人は出てこないか」
「ヤバいやつらしいぞ。殺人犯。本物の犯罪者」
「えぇ……大和君、流石に関わらない方がいいよ」
「じゃないとレンさんが前科持ちになっちまうだろ」
「あの人もう持ってそうだけど……」
持ってそうだけど……
モッテソウダケドォ……
◇◇◇
放課後、大和君がさっさと帰ってしまったあと。2年A組の誇るもうひとりの有名人が……俺の前に現れた!
「安田君、最近大和君と仲良いよね。すごいよね!人とつるまない大和君と仲良くできるなんて。うらやましいな、私も大和君と話してみたいなぁ。不良な見た目だけど実は優しそうだよね。大和君ってなにが好きなの?」
美少女・青木美玖!
掃除当番の班が一緒なだけでありがたいことなのに、話しかけていただけるなんて……
大和君!きっかけをありがとう!
でもこれ、俺は単なる足掛かりですね!
知ってた……
「大和君が好きなのは……」
レンさん。近所の年上のお姉さん。
いかん、これを言ったらもう、青木さんは俺に話しかけてこなくなる気がする。たとえ単なる足掛かりでもそれは嫌だ。
「ボールペンはサラサが好きみたい。滑らかな書き心地がいいんだって」
「あはは。なにそれぇ」
青木さんは小さな手を口の前にやって、品よく笑う。かわいい。
あぁいいなぁ、こんなかわいい子と付き合えたら幸せなんだろうなぁ。
ま、俺には聡子ちゃんがいるけども。昨日は一緒に近所のコンビニまでデートしちまったしな。ごめんね青木さん。
「今度の花火大会、クラスの何人かで行くんだけどね、安田君もどう? 大和君も来てくれるかなぁ」
「あー、大和君は来れないんじゃないかな、多分」
「そうなの? 大和君、先客がいるのかな」
「そうだと思うよ」
「そっかぁ……なら、仕方ないね。……よし、掃除完了!帰ろ帰ろ」
俺の可否は聞かないの??