表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/55

第10話 大和の恩返し④


 ピンポーン。


『はい……え?どちら様……将太くん?』


 扉がガチャっと開く。おばさんはびっくりした顔をしながらもすぐに入れてくれた。ボロボロになった大和君と俺は、玄関に腰掛けて一息つく。

 

 将太くんどうしたの、こんなに怪我して!何か冷やすもの、絆創膏もいるわね、なんて言って、おばさんは奥に取りに行った。


「今のがサトコちゃん?」

「ちがうよ。聡子ちゃんのお母さん」

「はは。ちげーか」


 ボロボロの顔で笑う大和君。イケメンってボロボロでもイケメンなんだな……


 おばさんは保冷剤やガーゼをたくさん持ってすぐに戻ってきた。そして大和君のことをまじまじと見て、こちらは……?と聞くから、同級生の大和君です、と答えた。大和君は、どーも。と軽く会釈した。どうも、と言って、おばさんは大和君にも保冷剤を渡す。


「おばさん、聡子ちゃんに伝えてほしいんだけど」


「聡子に? なあに?」


「もうアイツは二度と聡子ちゃんに近づくことはないから。安心して外に出ていいよ、って」


「アイツって……将太くん、もしかして」


「すごかったですよ、安田。サトウの腕に必死にしがみついて、殴られても振り払われてもずっとしがみついてて。あのサトウ相手に闘ってました。謝れ!聡子ちゃんに謝れ!って叫びながら、必死にやってました」


「将太くん……聡子のために?」


「聡子ちゃん、なんにも悪くないのに。許せなくて、アイツ、あんなに優しい聡子ちゃんのことを傷つけて……」


 おばさんは目に涙を溜めて、俺の頬にガーゼで巻いた保冷剤を優しく当てた。

 

「将太くん、こんなに沢山怪我までして。聡子のためにたたかってくれたのね。ありがとう」


「俺も頑張りましたよ」


「ありがとう、大和君もありがとう」


 おばさんは笑って、大和君の口元にも保冷剤を当てた。


 階段からミシッと音がした。

 見上げるとパジャマ姿の聡子ちゃんが2階から降りてきていた。驚いたような、悲しそうな顔をしている。


「聡子ちゃん!」


「将ちゃん、ひどい怪我……」 


「ごめんね聡子ちゃん、遅くなって」


「え?」


「本当はもっと早くアイツを懲らしめたかったんだけど、遅くなってごめんね。でももう大丈夫だよ、聡子ちゃんに代わって俺がアイツを懲らしめといた!アイツ、歯も折れて、顔もボロボロで、ひっでえもんだったよ。もうすっかり気落ちして、二度と女の子を傷つけるようなことはしません、今まで関わった女の子にも絶対近づきません、って。言わせたから!


 ちゃんと証拠の動画だって撮ったからね!だから聡子ちゃんはもう何も怖がなくていいよ。外に出て大丈夫。アイツはもう二度と聡子ちゃんのそばに来ないから」


「どうして、将ちゃん、喧嘩は嫌いって言ってたじゃない、どうしてこんな怪我までして、そんな無茶するの……」


「だって……聡子ちゃんの笑った顔が見たくて……」


 小声でゴニョゴニョという俺の前に、聡子ちゃんはぺたんと座った。そして湿ったガーゼで俺の顔をそっと拭きはじめた。ガーゼに赤黒いシミが増えていく。


「それでこんな無茶したの?」


「う、うん……強力な味方ができたからさ」


 聡子ちゃんは俺の横にいる大和君を見た。そしてまた俺の顔をまじまじと見た。

 

「将ちゃんよりイケメンね」


「え?!今そういうこと言う?!」


 すると聡子ちゃんは、大きな口でアッハッハと笑いだした。それはもうジブリ映画のように豪快だったので、俺もおばさんも多分大和君も、目を丸くした。


 笑い終わって、聡子ちゃんは今度は床に突っ伏して、うわああんと泣きはじめた。


「さ、聡子ちゃん………?」


 ゆっくり手を伸ばして、その背中に触れる。じんわりと温かい背中をゆっくりさする。少しずつ、泣き声が落ち着いてくる。

 

 横からイケメンが首を出す。


「サトコさん、安田がガリ勉してる理由、知ってます? 東京のいい大学行って、いい就職先を見つけて、サトコさんをこの町から連れ出すためらしいですよ。どんだけ時間かかるんだよってね」


「うわ、ちょっと!言わないでよ!……あれ?大和君にその話したっけ?」


「おー、本当だった。適当に言ったんだけど」


「えええ」


 大和君はケラケラ笑い出す。おばさんはニッコリしながらもまた目に涙を溜める。聡子ちゃんは……

 

 ゆっくり顔を上げて、目を赤くして、まだヒック、ヒックしながら、でもきっと今の聡子ちゃんができる精一杯の笑顔を、俺に見せてくれた。


「将ちゃん、ありがとう。ありがとう、将ちゃん」


 そう言って聡子ちゃんはまた、ガーゼで俺の顔についた乾いた血を拭ってくれた。


「将ちゃんカッコいい。こんなカッコいい男の子がそばに居たなんてね、私なんで気づかなかったのかな」


「へ、へへ……」


 照れくさくて、目の前にある可愛い女の子の顔が見れない。

 

「将ちゃんが悪いやつをやっつけてくれた」 


「え、へへ。……正確には俺たちが、だけど」


「でも無様なアイツの姿、見てやりたかったな」


「動画見る?」


「いや、やっぱりまだいいわ」


 聡子ちゃんは肩をすくめて小さく微笑む。

 今は小さくてもいい。これから大きな笑顔を見せてくれたらいい。

 

 飲み物とってくるわ、とおばさんがいうと、大和君は立ち上がって、俺の分はいいです、もう行くんで。と言った。でもその傷じゃ歩くのも辛いでしょう、と聡子ちゃんが言うと、大和君は笑って、俺だけのお医者さんが待ってるんで。じゃあな安田、また明日。と言って玄関から出ていった。


 おばさんは、イケメンねぇ。とため息をついた。

 

 はぁ。イケメンってどこまでもムカつくな。

 あと明日は学校、休みな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ