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推しは他人だから良い

「美味しそう〜料理上手いね〜」楊世の味噌汁は本格的だった。

出汁から取り出して、合間に片づけもして手際が良い。

「祖母が亡くなってから自炊してたからね。父は会食が多いし滅多に家には帰って来ないから。」楊世が淡々と話す。

夏希などご飯も掃除も父任せで、推し活とバイトしかした事ない。

炊飯器で、ご飯は辛うじて炊けるけど。

「2人で先に食べて良いって言われたし食べようか?」

2人で頂きますと言いながら食べる。

月子さんのおばんざいも凄く美味しい。

父はまずこの料理に惚れて店に通い出しただけある。

月島は、通好みの店が多いらしい。

銀座ではなく、本当に酒と肴を愛する人が集まるとか。

そこで店を続けられてる月子さんの料理は凄いと言う事だ。

「僕も感動したよ、初めて食べた時!」楊世が嬉しそうに言う。

「自炊しながら、料理の道に進みたいなと思ったのは母の血だったんだなって。」高校生になるまで、祖母が生きてる間は会えなかったらしい。

死後やっと月子さんの店を教えて貰えて会えたのだと。

「父の元に居たら絶対料理の道に進めないからね。

だから母の所へ来たんだ。」楊世が基本の豆腐とワカメの味噌汁を飲みながら話す。

「じゃ、料理人になりたいの?」夏希が聞く。

「うん、だから高校卒業したら調理師学校行きたいんだ。

父が聞いたら許さないだろうけど。」楊世がニコッと微笑む。

推し活に明け暮れ、バイトに明け暮れた日々は楽しかったし充実してたけど…

楊世の料理の道に進みたい!って気持ちは、まるでレオンのようにキラキラして見える。

そう、レオンの芸能人になるんだ!って夢に夏希は魅了されてたのだ。


でも、それは他人だから遠い存在だから憧れられた。

身近な同級生がそんなにキラキラされたら…

自分がみじめになるんだ…と知った。

私は?私の夢は?未来は?

レオンを失った夏希は、バイトばっかりやって部活も趣味もないただの高校生だ。

「キラキラって遠い誰かだから良いんだね…」食後の後片付けを一緒にやってたが、思わず下を向いてしまった。

楊世の部屋は2階の夏希の隣で、すでに段ボールが運び込まれてた。

手伝うつもりだったが、もう料理の本だけ先に並べられた棚を見てすごすごと自室に戻った。

知らなかった。

身近な友達や姉弟がキラキラしてたら凹むなんて!

他人で遠い誰かだから、応援してワクワクできた。

友達や姉弟だと自分が比較対象に入ってしまうんだ!

部屋の中の無数のレオンを見回す。

確かレオンにも妹がいた。

同じ事務所だった気がする。

でも彼女は無名で活動も何してるか知らない…

楊世と今日から姉弟になった自分はレオンの無名の妹と同じなんだ。

何だか気持ちが悪くなってきた。

吐き気がする。

この部屋に居ることが、ツラくなってきた。


ジッとしてられなくてレオンを片していく。

片しながら、レオンが消えた部屋に何が残るのか?

考える。

クローゼットの中を物色したら、山ほどの本が出てきた。『ムー』だ。

不思議な出来事や未解決事件、とんでもヨタ話が楽しいのだ。

レオンを好きになる前、中学生の時はミステリー特集ばかり見ていた自分を思い出す。

鍵っ子のクセに恐いの好きだから布団カブって見てた。

図書室でお化けとか怪奇特集とか言う字を見るとすぐ手にとって読んでしまう。

レオンの代わりに『ムー』を並べる。

将来の夢も考えてみたが…何も無い。

これは昔から一貫してて学校でもこの課題が出ると悩んでた。

妙に現実主義で醒めた部分があって、それが自分に対してだった。

夢のキラキラよりそこに至る努力の量に気持ちが引く。

犠牲にするものも恐い。

確かレオンももっと早く結婚したかったけど、10年我慢したとか言ってた。

そのせいで初恋の人は遠くに行ってしまったと。

小さい頃の思い出にその子が居ない記憶が無いとか。

そんな大事な物を失って夢を追うのにも、他人だから綺麗で悲しいレオン!って浸れてた。

身近だったら、腹立てて夢捨てろよ!とか言ってた気がする…

夏希は失踪した母の事があるから、身近な人を大事にしないのは許せないのだ。

もしかしたら夢が無いのも、夢ばかり見てた母を見てたからかも知れない。


自分が夢や希望の無いスーパー現実主義なのは仕方ない。

だが、高校生活!あと1年は2度とない時間だ。

ココは、ココくらいは何とかしなきゃイカン!

とだけは思った。


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