トリトン
「あの人が犯人なのかな〜?」サキがハンバーガーを食べながら呟く。
「誰か顔見てないのに?」ヒロが笑う。
今日は晴海トリトンでマックにチャレンジしてみた。
楊世もだんだんマスコミに追われなくなった。
学校でも特別扱いも減ってきた。
東京なんか人が毎日殺されてるような街だ。
どんどん人の記憶は、塗り変えられる。
「あの図書室居た人達、皆同じ感じだったじゃん。
暗くて悲壮でさ。
皆都立大学卒業してるくらい頭良いのにさ。
なんで就職してないんだろ?」サキが呟く。
「コロナで就職失敗したからだよ。」楊世が淡々と話す。
「あの人達は、企業に選ばれなかった。
または、希望の企業に袖にされたんだよ。」楊世が目を閉じてる。
「そして一度歯車から落ちた者は、日本では敬遠される。
起死回生の国家資格を手に入れようと本人か、
または親が躍起になってあそこに送り込まれてるのさ。」楊世が寂しそうに語る。
「なんだよ!お前、そういうの詳しいのか?」ヒロが驚く。
「うん、大学までの一貫校で、小さい時からお受験生活してたから。」楊世が悲しそうな顔する。
「え〜エスカレーター式で楽なんじゃないの?」サキがポテトを食べながら聞く。
「ううん、勉強向いてる奴ばかりじゃなかったしね。
でも学内テストで100位からこぼれたら、他校へ出されるんだよ。
だから、ギリギリの奴は山ほど家庭教師つけられてた。
親なんか幼稚園から金積んで積んできたのに、ここで離脱させられるなんて!
恥ずかしいやら、金持ちの世界も狭いからね。笑われ者だよ。子供のせいで。」
「でも、消えていくんだよな、毎年ね。」遠い目をした。
ネットで法科大学院を検索するとAIが即座に残酷な結果を出した。
「一時コロナで就職がうまくいかない学生の受け皿としてどの大学も法科大学院を作ったけど、
就職戦線から離脱した人が入りすぎてパンパンになったらしい。
でも、法曹界はそんなに弁護士要らないんだよね。
そして授業料稼ぎで各大学が増やすから質が下がると問題視された。
そこで一発試験の予備試験が出てきた。」楊世がネットを淡々と読む。
「おい!高い授業料払って法科大学院入った人は?」ヒロが驚く。
AIの無情な話は続く。
「司法試験の合格率は、予備試験合格者の方が高いと結果が出た。」
楊世が話し終わる。
「あの暗い雰囲気はそのせいかあ〜」サキもグッタリする。
法科大学院で2.3年授業料払って勉強してる内に年も取って司法試験も後から来たのに横取りされて…
「大学出るまでは、頭の良い坊っちゃんとご近所で言われて親も鼻高々だったんだろね〜
就職つまづいて、大学院で金払って勉強してる内に、予備試験なんて出来て…法科大学院の意味は?」
夏希も思わずツッコむ。
「私達、戦争のない平和な国に生まれてラッキーだと思ってたけど、人生には落とし穴ばっかりだね〜」サキが、おばあさんみたいにコーラを吸う。
「司法試験は受けれる回数限られるからね。
あの人達は、まさに金も時間も瀬戸際なんだよ。」楊世まで暗い顔になってる。
「俺等はコロナ明けて就職100%時代に大学生なって就職していくんだよなあ〜
コロナのせいで、数年違うだけでヒドい差だよなあ〜」ヒロもため息ついてる。