好きを作れば良い
「あのさ、さっき自分には好きなモノが無いって言ってたじゃん。
だったら、作れば良くないか?」楊世らしくない事を言う。
「そんな簡単な問題じゃないんだよ!」夏希は、言いながら立場が逆な気がする。
推し活時代は楽しかった。
自分の空洞が埋まってて充実してた。
が、推し活やめたらデカいデカい自分の空洞から目が逸らせない!
サキみたいに箱推しだとダンスの道とかスムーズに繋がるが、
ガチ恋勢だった自分は、何も残らないのだ。
思わず布団に突っ伏して凹む。
スーパー現実主義だからこそ、内面的な問題に弱いのだ。
状況に合わせて内面を変化対応させて生きてきた。
内面に合わせて現実と向き合い世界に変化を促すなんて!
「私一人じゃ何も前に進まないの!
レオンがいたから、スターになりたい!ってレオンの夢があるからバイトに精出せてたの!」
ダメだ!感情的になってしまう!
人の為なら怒ったり泣いたり平気だけど、自分の為はイヤだ!見られたくない!
「出て行って!早く!すぐ!」手当たり次第投げて追い出した。
楊世はふすまを閉めて出て行った。
「…難しいな。告白って簡単な気がしたのに。
空洞があるなら僕で埋めたら良いのに」ゲームなら簡単なのに。
「女って難しいなあ〜男子校育ちはハンデだよ。」首を振って自室に戻った。
来栖舞の事件は、犯人は教職員か?と思われたが皆アリバイが成立してしまった。
凶器はやはり制服のリボンでシルク製ものでかなり丈夫な作りだったようだ。
指紋を残さないようゴム状手袋で絞めてから、また結び直されていた。
その事から几帳面で女子高生に拘りがある人物像までは絞れたが、携帯も遺体と共にあり追跡が出来なかった。
外部説も浮上したが、防犯カメラに塀や門からの侵入者は無かった。
そんなある日、自宅に刑事が来た。
「父さんの後輩で今、月島署で事件担当してるんだよ。」と耕三に紹介される。
「月島署の長谷川です。」と名刺を渡された。
「放課後、非常階段で遺体発見した時、誰か見かけなかった?
すれ違ったり遠くから君等を見てたとか、そんな人物いない?」長谷川が聞く。
「あっ、けっ!痛い!」楊世が携帯と言いそうになって思いっきり夏希に正座してる太ももをつねられた。
「私もすぐ思い返したんですが、体育系の部室の並びを過ぎた後は用務員室とゴミ焼却炉の間を抜けて非常階段まで誰も居なかったんです。」具体的に夏希が説明する。
長く使われていないので非常階段手前も草ぼうぼうだった。
「そうだよね。君らが通った所だけ草が踏まれて跡が残ってたくらいだし。
ゴミ焼却炉や用務員室も調べさせてもらったが、あの時間はゴミの整理で用務員さんは出払ってたし。
焼却炉は、もう何年も使われてなかったしねえ〜」
月島署の長谷川も首をひねる。
「5階まで登るとかなり遠くまで見えると思うけど、どこからか君等を覗いてる人とかいなかった?」長谷川がダメ押しで聞く。
教室の窓が眼下に沢山あった。
学校の廊下は下校の生徒があふれていたが…
「う〜ん…」2人は首をひねる。
「犯人は必ず現場に戻るんだよ。
人間の習性だね。
君等があの時間非常階段に来るようにしたのは犯人だ。
なら、絶対どこからか君等を観察してたはずなんだ。」
そう言い残して長谷川は帰った。