ramhomeエッセーⅠ「名も知らぬ君に完敗!」
本好きの私は定期的に図書館へ向かいます。
移動手段はランニングか車。
本を背負って走るのは大変で辛いので、毎回ちょっと気が重たくて。
Billy Joelを口ずさみながら快調に足を飛ばしていると、横目に自転車が一台。
道の向かい側で並走状態になったそれを駆るのは少女……部活帰りの学生のようでした。
相手が自転車だって、まだ若い人には負けてられません。
ペースを落とさず並走のまま左折すると、向かいにいた自転車とは一気に差がつきました。
細い道に入り、ペースを落とすとチリンチリンと鈴の音。
もしかして、ついて来てる?
一気にギアを上げて走る、走る。
背中に追跡者の存在を感じながら全力で駆けます。
図書館の敷地まであと数歩。少女とはまだ数mほど余裕があるはず。
辿り着いて快哉を挙げたい気持ちでスパートをかけました。
バスにだって勝ったことがあるんだから、自転車くらい!
息も絶え絶えながら勝ちを確信した、その時。
「もうすぐですよ」
いつの間にか隣にいた少女に思わず吹き出してしまいます。
「はっやー! 完敗だ!!」
崩れるように地面に座り込む。
遠ざかる好敵手、もとい伴走者の背中に手を振ると、振り向いて微笑み返してくれました。
「ありがとう!!」
完全に手のひらの上でしたけど、不思議と悔しさはありませんでした。
新しい空気と爽やかな気持ちが胸いっぱいに広がります。
またね、なんて言いません。
どうして目的地を知っていたのか、なぜついて来てくれたのか、たしかに気になりますけど。
こういうのは偶々くらいがちょうどいいから。
頑張り過ぎて痛み出した足と、名前も知らない好敵手を思うと、なんだか少し前向きな気持ちになれる気がしました。
しばらくは走って通おうかな、図書館。