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恋は、だいぶ消耗しているらしい。
肩を上下させ、呼吸している。
その表情は、必死で、いまにも泣きそうである。
全身血だらけで、見たところ回復薬やらが切れているのだろう。
焦っているのも見て取れた。
《ここに潜伏してたんだ》
《そりゃ見つからんな》
《一週間以上の潜伏か?》
《よく無事だったな》
《(*´・ω・)(・ω・`*)ナ-》
《指名手配されてるとはいえ、凄腕の探索者でもあるからな》
《違うと思う》
《たしか街中で目撃されて逃げてる途中だったはず》
「潜伏?指名手配??逃走中??」
いったいなんの話だ、と雪華は不思議がる。
《ん?》
《おや?》
《雪華たん、知らないの??》
《ニュースを見ていなかったな(確信)》
《恋、指名手配されてたんだよ》
「え、なんで??」
意味がわからなさすぎて、雪華は首を傾げる。
歩は止めない。
《父親刺したの》
《お父さん殺したんだよ》
《マジか、ほんとに知らないんだ》
《ガチで知らんのか》
《嘘だろ、あんな大事件知らん人おったんか》
父親を刺しただの、父親を殺しただの、なかなか物騒な言葉が流れていく。
と、そこで思い出した。
そういえば、スレ主こと冬真が全裸男と配信している理由もそれだったような気がする。
しかし、雪華はちょっと引っかかった。
「訓練というか、修行中はニュース全然見せて貰えなかったから」
その引っかかりは、口に出さずそう言うだけにしておいた。
《マジかー》
《スパルタだな》
けれど、あの掲示板で世界の広さは知れたので、楽しかった。
修行中に使用していた掲示板は、特殊というか特別なものだからだ。
しかし、スレ民もニュースに興味がないのか、いちいち世間的に話題になっているニュースを書き込むことはしなかった。
だから、雪華はそのニュースを知らなかった。
「でも、なんでまたそんなことに?
この子、そんなことする子じゃなさそうだけど」
《それねー》
《なんか親子喧嘩だった、みたいなことはニュースで言ってた》
《元々親子仲は悪かったとも言ってたな》
コメントを拾って、読み上げる。
「親子仲は悪かったって、ニュースで言ってたの?」
《え、まぁうん》
《そうだね》
《ニュースっていうか、関係者への独自取材》
「あー、独自取材、あるあるね」
雪華はさすがに、嘲笑したくなった。
その関係者は、本当に関係者なのか?
自称()関係者ではないのだろうか。
《まぁ、ああいうニュースはそれっぽいことを流せばいいからな》
《実際、本当の関係者かどうかなんて視聴者にはわからないしな》
《ドラマ性を生み出して、それっぽい物語にみえるよう報道すれば視聴率はとれるらしいしな》
《刺激性がないと、ニュースすら見ない人は多いもん》
《そういえば、メシアの時は【関係者筋の情報】って出てこなかったよな》
《←出すと、連盟に連行されるからだろ》
《あの時点で、メシアは誰も攻略出来ていないダンジョンの探索者だったからなぁ》
《報道で関係者が出てきたら、放送局やらも徹底的に捜査&調査されただろうし》
《程よい娯楽にするには、メシアは危険だったんだろ》
動画上ではコメントが、流れていく。
動画内では、疲弊した恋がモンスターによってダルマにされていった。
まだ生きているようだ。
「ちょっと急ごう」
呟いて、駆けた。
すぐにドローンが雪華を映した。
《はやっ!》
《はやっ》
《はやい》
《めっちゃ速くなってる》
《これで、メシアより劣るんか》
《傍目には同じにみえる》
(んー、本当はもっと目立つシチュで使いたかったけど、まぁいっか。
お披露目だし)
雪華は眼帯を外す。
白目部分は黒く、黒目部分が金色になった瞳が現れる。
目の周囲には、ドラゴンの刺青が入っていた。
《!?》
《!?》
《!?》
《うお》
《刺青?》
《この刺青、術式か》
《?!》
《なに、この目?》
《カッケー!!》
刺青を雪華は指でなぞる。
「生命を狩りつくせ、【殲滅の死神】」
雪華の言葉に応えるかのように、金色の目が一瞬輝く。
その直後、恋を取り囲んで彼女をダルマ状態にしていた全てのモンスターの前に歪んだ魔法陣が現れた。
かと思うと、そのモンスター達が弾けとんだ。
動画上のコメントも、そのインパクトに書き込みが途絶えてしまう。
恋もなにが起きたのかわからず、目を丸くしていた。
その中で雪華だけが、楽しそうにニマニマしている。