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突如として意味不明なトレンドワードが一位にランクインした。
その後も意味不明なトレンドワードが、続々とランキング上位にランクインしていく。
一位が【全裸の馬鹿】、二位が【全裸のRTA】、三位は【命知らずRTA】となっていた。
それ以降は、【馬鹿四天王】、【馬鹿十二神将】、【馬を継ぐもの】、【馬の後継者】、【前向き自殺志願者】、【明るい自殺志願者】といったワードが並んでいた。
当然、何事だとなった。
そして遅からず、このワードの震源地にたどり着く者が現れた。
《トレンドワードからきた》
《トレンドワードから》
《トレンドワードから》
《トレンドワードから》
《ここかwww》
《うわぁ、モザイクかかってるけどガチで全裸やwww》
《トレンドワードから》
《バカwww》
《なにこの馬鹿www》
《動画タイトルみろ》
《トレンドワードから》
《トレンドワードから》
ちなみに、生配信である。
動画タイトルは、
【全裸】樹海ダンジョン攻略してみる【RTA】
である。
その生配信に次々とコメントが書き込まれ、流れていく。
動画の中では、全裸の馬マスク男(大事な所はちゃんとモザイクがかかっている)が、お手製釘バットを手に無双していた。
モザイク処理をするしかない動画内容なので、最初から年齢制限がかかっていた。
にも関わらず、同接数はあっという間に1億を超えた。
世の中はバカに飢えているらしい。
ミノタウロスを撲殺、ラーミアを撲殺、その他様々なモンスターを撲殺していく。
全裸で、モザイクがかかっている大事なところをブラブラさせながら、撲殺していく。
《なんなん、こいつwww》
《汚いメシア》
《汚いメシアに吹いた》
《汚いメシアwww》
《wwwwwwww》
《クッソwww》
《やべえ、汚いメシアにツボったwww》
《Wwwwwwwwwwwwwwwwwww》
《大草原不可避》
草だらけの弾幕で画面が覆われる。
その時だった。
馬マスクを被った冬真が現れた。
邂逅。
沈黙。
お互いを見つめ合う、二頭の馬マスク野郎。
冬真は脱兎のごとく逃げ出した。
《待って待って待ってwww》
《メシアじゃん!》
《本物のメシアだwww》
《なという奇跡的な邂逅www》
「おい待てよーメシアー!!
一緒にダンジョン攻略しようぜ~!!」
《そんな野球に誘うかのようにwww》
《これ仕込み??》
《はて?》
《仕込みだったら逃げないのでは??》
《メシアも動画撮影する予定だったんかな?》
《活動内容は更新されてないけど》
《んー??》
《絵面がひでぇwww》
《なにこのカオスwww》
《あのメシアが逃げている、だと?!》
《いや逃げるだろwww》
《これはなぁwww逃げるよなwww》
《全裸の変態に追っかけられたらなぁ》
《二足歩行のモンスターですら、一応下半身は隠してるからな》
《あ、メシアに追いつきそう》
「なんなんだよあんたぁぁあああ!!??」
冬真もさすがに怯えた叫びを出す。
「スレで言っただろ?
一肌ぬぐってさ」
ケラケラと笑いながら、全裸男はあっという間に冬真に追いついてしまう。
《スレでなんかあったんか??》
《んー??》
《探してみたけど、そんなスレ見当たらないぞ??》
《消したんじゃね?》
《一肌脱ぐって、そういう関係なのか?この二人は??》
《┌(┌^o^)┐》
《┌(┌^o^)┐》
《┌(┌^o^)┐》
《┌(┌^o^)┐》
《メシアの方は、動画撮影はしてないな》
《チャンネルの動画は更新されてないから、メシアの方は撮影してないっぽい》
《なにがどうなってんのよ、これ??》
「変態がァァ!!チ〇コ切り落とすぞゴラァァァ!!」
ついに冬真がキレた。
「まぁ落ち着けよ。
それより、撮影してんだぞ。
この動画の本来の目的を視聴者に説明しないと」
全裸男は呑気にそう言った。
《本来の目的?》
《全裸で実況じゃないの??》
《メシア、こんな声出せるのか》
ここでようやく追いかけっこが終わる。
しかし、冬真は全裸男から距離をとったままだ。
無理もないが。
「目的はな、こいつの友達を助けるために、とあるアイテムを探そうぜってことになってるんだ」
《友達?》
《友達??》
《メシアの友達??》
全裸男は楽しそうに告げる。
「そ、指名手配されてる超絶美人なお姫様」
《恋か》
《楫取恋のことか》
《あのニュースは衝撃的だったもんな》
《そういやまだ見つかってないんだっけ?》
《メシアが匿ってたりしてんじゃないの?》
《そんなことしたら犯罪だろ》
《凶悪犯匿うのも犯罪なんだっけ?》
《逮捕状は出てたはず》
視聴者がそれぞれ思い思い好きなコメントを書き込んで、流れていく。
《でも恋を救うアイテムって?》
ここで冬真がマスクの中からではあるが、口を開いた。
浄玻璃鏡のことを説明する。
《あー、あの使用制限がかかってるレアアイテムか》
《レア過ぎるってのもだけど、基本死人のことしか調べられないからなぁ》
《アレが大量にあると、ぶっちゃけ裁判も科学捜査もいらなくなるんだよねぇ》
《幸い、というべきか、迷宮入りしそうな凶悪犯罪にしか使われてないのと、浄玻璃鏡の数が少なすぎて使われる事件が限られてるらしいな、知らんけど》
《日本は幾つ所有してんだっけ?》
《裁判所で1つ、警察で1つだったはず》
《見つかると海外から圧力がかかって、外国に流れてるってきいたことあるぞ》
《でもさー、そんな便利アイテムの存在は恋も知ってるだろう?
自分で探すんじゃね?》
《だよねー》
《それな》
《ダンジョンの攻略本は恋が持ち逃げしたって話だし、それを使えば自力ですぐ見つけるんじゃないか?》
ここで冬真が口を挟んだ。
「それなんだけどな。
知り合いのスレ民から聞いたんだが、【夢幻絵巻】を手にしただけじゃダメらしい」
《?》
《ダメ?》
《ダメってなにが??》
「ゲームの攻略本にあるような記載がないんだよ」
《どゆこと??》
《( ;゜д)ザワ(;゜д゜;)ザワ(д゜; )》
《ざわ……ざわ……》
ここからは全裸男が説明した。
「あー、つまりな?
必要な情報は手に入る。
でも、ゲームの攻略本にあるような推奨レベルの記載がないらしいんだ。
Sランクオーバーのダンジョンなんてそうだけど、たとえ攻略本が手元にあったとしても、そのダンジョンを攻略できるだけの実力を伴ってなければ、意味が無いってこと」
《つまりプレイヤースキルが無いと、いくら攻略本があったところで、意味がない、と?》
「ぶっちゃけ死ぬだけだよ。
ゲームだってそうだろ?
ある程度と経験値を稼いでレベルを上げて、その他回復アイテムを駆使してクリアする。
けれど情報だけ手元にあっても実力、この場合はレベルが足りてなければ死ぬしかない」
全裸男はそう断言した。
《つーか、そもそも恋がそのアイテムを探してるかもわからんだろ》
このコメントに、冬真が答える。
もちろん、本当のことは隠す。
「だからだよ。
だからこその、お節介をしようってこと。
俺は、彼女との実況もそこそこ楽しめたから、またやりたいなと考えてる。
だからそのために、【浄玻璃鏡】を探そうと思ったんだ」
《メシアは恋が無実だと思ってるの?》
「まぁな」
《根拠は?》
ここで、冬真はスレ民にしたのと同じ説明を繰り返した。
視聴者の何割かは納得していたが、もう何割かは半信半疑といった反応だ。
「いずれにしろ、浄玻璃鏡で全てがわかるはずだ。
たとえ、火葬しようが肉片になるまで遺体をバラバラにしようが、それが死体であるなら生前のことを映し出す。
あのアイテムはそういうものだ」
そして、冬真は全裸男の使うドローンをまっすぐ見ると、
「お天道様はみてる、だから悪いことってのは出来ないものらしいぞ」
どこか煽るかのような口調でそう言ったのだった。
事実、彼は期待していた。
この動画が切り取られ、無断転載され、今回の件の黒幕まで届くのを。
そしてそれは、期待通りになる。
そう、恋の兄はこの動画の存在を知り、見ることとなる。
そして、すぐに樹海へ特別編成した部隊を送り出したのだった。
目的は恋の討伐。
メシアと協力関係にあるらしい全裸男、二人の討伐。
そして、この三人のうち誰かしらが【浄玻璃鏡】を入手するようなことがあったらその破壊。
そして、恋がもっている【夢幻絵巻】の奪取である。