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(さて、と)
部屋を出て、コンビニへ向かう道すがら冬真は携帯端末を操作した。
スレ民に報告するためだ。
さすがに恋の兄貴の手下が、そんな場所まで監視してるとは考えにくい。
普通の匿名掲示板だったなら、それも有り得ただろう。
鍵付きだろうが、普通の匿名掲示板だったなら情報が漏れる可能性は高かった。
けれど、冬真が利用しているのは少し特殊な掲示板だ。
どこがどう特殊なのかを説明するのは簡単だ。
でも、きっと誰も信じない。
ダンジョンが出現したため、異常が普通となった現代でもそれは変わらない。
だからこそ、この匿名掲示板は特別であり、そこを覗き、あるいは利用し繋がっているスレ民もまた、ある意味では特別な存在なのだ。
中には冬真のような一般人もいるが、その匿名性もあり奇特なもの達ばかりだ。
(自分が奇特な人間だとは思いたくないけど)
冬真は、スレ民へ今しがた恋から聞いたことを書き込んだ。
本来なら恋からの許可を得るべきなのだろう。
彼女も妙なところに情報を勝手に流されてはたまったものではないだろう。
しかし、冬真としてはお節介で関わってしまった以上、あとでどんなにこの事をなじられようが構わなかった。
手を差し伸べたのだから、途中で投げ出さずに、彼なりの方法で彼女を助けるだけのことだ。
問題は、彼女に自分のことを秘密にしなければならないということだ。
動画投稿者であるスレ主、もしくは一部でメシアと呼ばれている存在であることは隠しておきたかった。
雪華については仕方ないので、それはそれである。
《なんか、壮絶な兄妹喧嘩に父親が巻き込まれた感じなのか?》
《おとんが不憫》
《おとん死んどるやんけ》
《親父さん、殺すとかヤバすぎわろた》
《……スレ主、気づいてるけどわざわざ書き込んだのかね?》
《気づいてる?》
《気づいてるって、なにに?》
《おまいらは、違和感ないのか?》
《なにが?》
《なんか違和感あるのか?》
頭の回転が変な方向で早い【考察厨】や【迷探偵】はいないが、どうやらスレ民の中にも冬真と同じ考えの者がいるようだ。
と、そこでコンビニにたどり着く。
常連となっているので、店員とも顔馴染みである。
商品を物色しつつ、掲示板を見れば冬真が答えを書き込むより先に、他のスレ民が説明していた。
《少なくとも、このダンジョンが現れた世界には、蘇生系のアイテムがあるだろ?》
《つまり、だ》
《恋の父親は表舞台には出てこないけど、それなりの大物なわけで》
《まぁ、恋の父親だけじゃなくて権威者とか大物政治家とか、どっかの国の王様とか、そういう重要人物で金持ってる人ってのは蘇生アイテムを備蓄してんのよ》
《表向きには秘密にされてるけどな、知ってるやつは知ってる情報な、これ》
《めっちゃ希少だし、中々庶民の間では出回らないけどな》
《値段がつけられないほど貴重で希少なものを所持してるヤツはいるとこにはいるんだ》
《でも、逆を言えばこれは途方もない金さえあれば手に入れられるわけ》
《それこそ、豊かな国の王様レベルの金持ちならバベル級、SSSSSランクのダンジョンを攻略できる探索者を秘密裏に抱えてるやつだっているんだぞ》
《つまり?》
《つまり、恋の父親はその立場諸々から絶対蘇生アイテムを所持してたはずなんだ》
《でも、使用されず死んだ》
《あれれー?おかしぃぞー》
《まさにそれだ、おかしいだろ》
《ここから考えられるのは、蘇生アイテムを意図的に使用されなかった可能性だ》
《つまり、見殺しにされた?》
《少なくとも、ニュースでやってる通り恋が犯人で、父親を殺したのなら、側近ないしそれこそ恋の兄貴が蘇生アイテムを使って蘇生させるだろ》
《でも、それをしてないわけだ》
《これだけで、近くにいたヤツは少なくとも恋の父親に生き返られたら困るから、そうしなかったとも考えられるわけ》
《さて、そうなってくるとニュースで報道されてるの内容もどこまで信じていいかわからなくなるだろ?》
ここで、冬真が書き込んだ。
《さらに、もう一つ付け加えると》
《ニュースでやっていた、おそらく恋が犯行に及んだ時間もなかなか怪しいけどな》
これにスレ民達が戸惑う。
《え、なんで??》
《時間?》
《時間がなんか関係あるの?》
冬真はスイスイっと携帯端末を操作して書き込む。
《たぶん伝達ミスか、そういうのがあったんだろうが》
《その時間な、俺がちょうど倒れてた恋を発見した時間なんだわwww》
《oh(´・ω・`)...》
《おぅふwww》
《もしかしたら、アリバイ工作とかしてたのかもな、スレ主の行動で無駄になってるがwww》