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【ダンジョン】人助けしたら、知らんとこでバズってた件【実況】  作者: アッサムてー
お人好し掲示板実況者と名家出身の女の子
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35

恋は、冬真のことを見た。

どこか不安そうに、疑心暗鬼になりながら見た。

冬真は、真っ直ぐに恋を見ている。

彼は、疑心暗鬼のような目は向けていなかった。

ただ、彼女から話を聞こうとしている。

それだけだ。

そうだとわかったので、恋は何があったのか説明するために口を開いたのだった。


※※※


世間がお祭り騒ぎの中、手に入れた【夢幻絵巻】。

恋は緊張した面持ちでそれを持ち帰った。

そして、父の書斎の前に立っていた。

扉を叩いて、声をかけながら中に入る。

まるで玉座のような革張りの椅子があった。

そこには父ではなく、狐のようなニマニマ顔をした兄が座っていた。

母親の違う、ずっと恋のことを目の敵にしている兄だ


「おかえり、恋。

ご苦労さま」


兄――(イクサ)は、そう労いの言葉をかけてくる。

形ばかりの言葉だ。


「さすが、天才はちがうなぁ」


今度はどこか嫌味ったらしく、ネチネチとした言い方だ。


「ただいま帰りました。

お父様への報告に来たのですが、どうして兄様が?」


恋は感情を消して、そう訊ねる。

嫌なニマニマ顔はそのままに、兄が返してくる。


「父様に頼まれたんだよ。

代わりに恋が持ち帰ったものを受け取ってくれってね」


途端に、恋は周囲の気配を探る。

囲まれている。

おそらく、兄の手の者に。


「まぁ、僕の提案したことでもあったからね。

さぁ、持ち帰ったものを渡してもらおうか」


「……っ」


ここから逃げるべきだ。

ダンジョンとはまた違う、危険な場所となってしまったこの場所から、すぐに逃げるべきだ。

でも、それを悟られてはいけない。


「どうした?恋??」


「父様から直接渡すように、と言われているので出来ません」


きっぱりと、恋は言ってジリジリと背後の扉へと後退する。

それに気づいて、ますます(いくさ)は笑みを深める。


「悪いけど、それこそできない事だよ、恋?」


軍が指をパチンと鳴らした。

瞬間、足元に魔法陣が現れる。


「チッ!」


恋は似合わない舌打ちをして、その魔法陣が発動する前に飛び退る。


「どういうつもりですか、兄様?」


恋は、軍を見た。

軍は恋を見返して、楽しそうに手を叩く。


「あははは、さすが天才は違うなぁ。

落ちこぼれで散々父様からバカにされてきた僕とは違う」


そうして一頻り、どこか頭のネジが外れたような笑いを続けたあと、ピタリと静かになる。

それから、濁ったような目に恋を映すと、口を開いた。


「あーあ、やっと死んでくれると思ってたのに、ほんと誤算だったよ。

でも、それもここまでだ」


瞬間。

恋の肩を何かが貫通した。

痛みがおそう。

肩に触れると、濡れていた。

血だった。

恋の手が、自分の血で真っ赤に染まっていた。


「どんなに強い異能があろうと、どんな天才だろうと。

無力化すればただの人でしかない」


見れば、兄の手には拳銃があった。

そこから一筋の煙が上がっている。で

恋には拳銃の知識は皆無と言っていいほどない。

けれど、兄の手にあるのが、たまにテレビドラマ等でみるリボルバーと呼ばれている拳銃だということはわかった。

その銃口が恋に向けられている。


「身体強化してるつもりだったんだろ?

でも残念。

いまのお前は、ただの人間だ。

この銃で、頭を撃ち抜けばすぐに死ぬ人間だ」


なんて、どこか楽しそうに言ってくる。

痛みに顔を歪ませる恋を見て、さらに兄の声が弾んでいく。


「お前のそのスマした面が昔から気に入らなかった。

でも、ようやくだ。

ようやく、僕はお前を、天才を屈服させることが出来る」


少しだけ間をおいて、さらに兄は言葉を続けた。


「殺すことができる」


静かに言われた言葉。

兄は本気だった。

恋は逃げ出した。

生きるために、逃げ出した。

愚策とわかっていながら、肩の痛みに耐え、兄に背を向ける。

その背中にも衝撃と痛みが走った。

撃たれたのだ。

体は、長年の訓練のお陰なのか銃弾に倒れることはなく、動いてくれた。


「へぇ、まるで化け物だね。

これだけ撃たれても死なないなんて」


そんな兄の声が聞こえてきた。

しかし、構わず逃げた。

その際、兄が手配したもの達にも殺されかけた。

そうして、逃げて逃げて、がむしゃらに逃げた。

やがて、体が動かなくなって視界も暗転したのだ。


※※※


「これが、顛末よ」


恋は、くらい声で語り終えた。

語り終えて思った。

話すんじゃなかった、と。

いくらなんでも、一般人にここまで話して良かったのか、と今更過ぎることをおもった。


一方、冬真はと言えば少々引きながら、


「うわぁ、親子喧嘩じゃなくて兄妹喧嘩だったかぁ」


なんて言った。

すっとぼけたような言い方は、そのままである。


「え、それだけ?」


思わず恋の口からそんな言葉がもれる。

もっとこう、他にも言い方や言葉があると思うのだが。


「ん?」


冬真がキョトンとして恋を見返す。


「あ、その、もっとこう、疑われると思ったから」


「なんで?」


「え?」


「なんで疑わないといけないんだ?」


「だ、だって」


ちらり、と恋はさっきまでついていたテレビをみる。


「一応、あんたの怪我治したの俺なんだけど。

怪我した場所とかまんまだったし。

なにより、あんたには俺に嘘をつく理由がないだろ。

今は完全に回復してるし、なんなら俺を組み伏せてさっと出ていくことも出来た。

ニュースで言ってたような、凶悪なことをする可能性を全然感じなかったし。

実際、それをせずに肉じゃが丼食べてるだろ?」


冬真は言いつつ、綺麗に空っぽとなった恋の丼を指さした。


「さて、と。

とりあえず、アンタは外には出ない方がいいだろうな。

ちょっとコンビニ行ってくるから、留守よろしく」


言いつつ自分がつかった食器をシンクへ置く。


「え、こ、コンビニ??」


この状況で?

と恋は戸惑う。


「そ、デザート買ってくるの忘れてた。

最新作のコンビニスイーツ買ってくるから。

じゃ、留守番よろしく。

話の続きは甘いもの食べながらにしようか。

あ、冷蔵庫に麦茶あるから喉乾いてるなら飲んでいいよ」


なんて言って、本当に冬真は出ていってしまった。



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