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結局、肉じゃがになった。
提示された選択肢のどれでもなかった。
豚肉を使った、肉じゃが。
炊いた白米と、味噌汁も用意された。
それを恋はジーッと見て、さらに改めて冬真が住んでる部屋の中を見回した。
一人暮らしにしては、違和感だけしかない。
本人は一人暮らしだと言っていたが、純粋な一人暮らしではないのかもしれない。
恋は一人暮らしをしたことがない。
しかし、家族とは共に住んでいるのだ。
この部屋には、そんな同居人らしき気配があちこちに感じられた。
たとえば、自分が寝かされていた予備の布団。
しっかり干され、フカフカだった。
今まさに、食事をするために用意された食器類。
食器棚にも、明らかに一人で使うには多すぎる食器が収納されている。
ほかにも細々としたそういった物が散見される。
(家族か、もしくは……)
訊ねる気にはならなかった。
なぜなら彼も、恋が何故倒れていたのか聞かなかったから。
彼が聞いてこないのに、こちらから土足で踏み荒らすように何かしら質問をするのは憚られた。
「あの、助けてくれてありがとう。
回復薬を使ってくれたでしょ?
金額を教えて欲しい、返すから。
それに食事も用意してもらって、ごめんなさい」
質問の代わりに、恋は助けてくれたことへの礼を口にした。
冬真は、目を丸くして恋を見返す。
「どうかした?」
「いや、アンタはちゃんとありがとうを言える人だったんだなって思ってさ」
言いつつ、冬真は携帯端末をいじり始める。
料理を作っている時も、よく弄っていた。
「?」
「あ~、うん、こっちの話。
回復薬のことは気にしなくていいよ、その辺の薬局でも買えるやつだからさ」
会話が終わる。
続かない。
別に和気あいあいと、ご飯を食べるほど親しい仲でもないが。
それでも、やはりいろいろ気になったので、
「何故、なにも聞かないの?」
冬真は、携帯端末弄りを一時中断して、丼に山盛りにした白米へ肉じゃがを乗せて、肉じゃが丼にしているところだった。
「なにが?」
「私が、なんで倒れてたのかとか」
「聞いて欲しいの?」
逆に聞かれ、言葉に詰まる。
「聞いて欲しいなら聞くけどさー。
聞いて欲しいの??」
意志の確認は大事だ。
冬真だって、リオ達と出会った時、蘇生させられたあと、助けて欲しいか否かを確認された。
そうして、自分の意思をちゃんと伝えたからこそ今がある。
「どうなんだろう?」
ぽつり、と本音のようなものが恋から漏れ出た。
「よくわからない」
「そっか」
なんて言って、冬真は肉じゃが丼の撮影を始める。
そして、なにやら携帯端末を操作する。
操作を終えると、携帯端末は脇においてガツガツと肉じゃが丼を食べ始めた。
やはり会話が終わる。
続かない。
それにしても、食が細そうなのに、よく食べるなぁと恋は思った。
「……冷めるぞ?」
いまだ食事に手をつけない恋へ、冬真は言葉をかける。
続けて、
「なんかトラブルがあった時は、ご飯たっぷり食べてぐっすり寝るのが一番なんだよ。
疲れてると、ろくなこと考えないしな」
やけに実感がこもっている。
恋は、言葉に甘えて出された食事に手をつけた。
ゆっくりと、上品に食べ進める。
そんな彼女を見ながら、また携帯端末へ手を伸ばす。
そこには、現状をリアルタイムで報告するために立ち上げた鍵付き掲示板が表示されていた。
スレタイは、
【緊急】クラスメイトで名家のメチャ強お嬢様保護した件【事態】
である。