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今回の配信は、唐突な雪華の登場もあって盛り上がった。
とくに雪華の活動休止を受けて、彼女のファン達の盛り上がりようは物凄かった。
SNSのトレンドワード、その堂々一位を【雪華】が飾ることとなった。
二位は【これは良い放送事故】が続く。
三位に【夢幻絵巻】となった。
翌日、メディアはこぞってこの配信動画のことを取り上げていた。
「いやぁ、昨日は焦ったなぁ」
と、実に楽しそうにスネークことリオは言った。
その視線の先には、リオがこの部屋に持ち込んだ年代物の、所謂ブラウン管テレビがある、
いろいろ配線やら設定やらを弄ったため、今でも現役のそのテレビから、昨日の配信動画に関するニュースが流れている。
「腹吹っ飛ばされた時は、久々に死んだとおもったね」
等とリオはのたまっている。
さて、何故彼女が冬真の部屋にいるのかと言えば、配信後、帰るのがめんどくさくてそのまま泊まったのである。
「俺は、まさか雪華がいるとは思ってなくて驚いた」
冬真は言いつつ、賞味期限近いパンのトーストを齧った。
カルシウムは大事だ、という実況者の助言により、契約しているため届く牛乳。
それをマグカップに注いで飲み干す。
「あれなー、俺も驚いた。
見違えたよなー」
「……見違えたっていうか、彼女が使ってた技ってさ」
冬真が言おうとしているのは、【聖決壊】のことである。
彼には、あの技を使える知人というか師匠がいる。
「あ、あれな。
うん、想像の通りだと思うぞ」
「ということは、雪華を訓練というか鍛えてるのって……」
「十中八九、厨二病のやつだろ」
「あのスパルタに応えつつ、あの技覚えるとか。
雪華は化け物かな?」
冬真は覚えることが出来なかった。
技だけではない。
回復や治癒魔法も、冬真は使えないのだ。
「才能は元々あったんだろ。
で、頑張ったら覚えられた。
それだけだと思うぞ」
「才能、ねぇ」
異能、もしくは魔法と呼ばれるもの。
ダンジョンが出現してから、それらを発現したものには能力に対する適性、向き不向きがある。
覚えられるものは覚えられるし、覚えられないものはどうしたって覚えられない。
冬真には、回復や治癒魔法の才能はからきしだったのである。
「まぁ、逆を言えば頑張らないと才能があったところで、おぼえられないけどな」
と、リオはやっぱり楽しそうに言った。
「つーか、お前学校は?」
「もう行くよ」
朝食を食べ終わり、カバンを引っ掴んで部屋を出る。
その背中にリオの声が届く。
「いてらー。気をつけてなー。
部屋の鍵はいつものとこに片付けとく。
あ、天気予報で、夕方には雨降るっぽいって言ってるから傘もってけよー」
それに、冬真は手をヒラヒラさせて応えると、言われた通りに傘を持って部屋を出た。
その時に、
「行ってきます」
と口にした。
学校に着くと、クラスメイト達はザワついていた。
昨日の配信のことで、話題は持ち切りである。
そのざわつきの中、冬真は自分の席へ座る。
それから、なんとなく恋の席を見た。
彼女はまだ来ていなかった。
しばらくすると、担任がやってきた。
そうして、この日はスタートしたのだが、恋は欠席だった。
(雪華のこととか、バベルで死に続けたのもあって、ちょっとショックだったのかもなぁ)
恋のプライドというか、自信をへし折るには十分な出来事のように思えたのだ。
でも、気にするような性格でもない、ようにも思えた。
(まぁ、俺の気にすることじゃないな)
力をかせるだけの範囲内で、やれることをやったのだ。
欠席理由まで気にする必要はない。
そう、思っていたのに……。
その日の専門学校での授業を終え、冬真は帰路についた。
予報通りに、ポツポツと雨が降り出す。
濡れるのが嫌なので、近道をしようと普段はゴミだらけで不衛生なのもあって、あまり使わない路地裏へと入った時。
冬真は、それを見つけた。
それはボロボロの姿で倒れている、恋だった。




