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動画に恋の姿が映し出されると、これまた彼女への声援が弾幕となって流れていく。
《恋たん、かぁいいよー、(´Д`三´Д`*)hshs》
《前回はコテンパンにされたもんな》
《剣技見れるかな?》
《あの桜の花びらがぶわっとなるやつな》
流れていくコメントを見ていたスレ主が、首を傾げる。
「桜がぶわっと??」
スレ主の横で、恋が肩をすくめる。
説明する気は無いようだ。
《スレ主、ニュース観ないの??》
《ニュースもだけど、探索者がゲストで出てるバラエティ番組とか観ないの??》
「そういう系は観ないなー。
ニュースは時々観るけど」
《切り抜き動画としてもメディアのやつ上がってるんだけどな》
《じゃあ、ニュース観るタイミングが悪かったのかね》
《恋って、Sランクダンジョン攻略したじゃん?》
ちらり、とスレ主は恋を見た。
すぐに視線をコメントが流れる動画へ戻す。
《あの後、いくつかの番組に出てたんだよ》
《その時に、剣技を披露したわけ、その子》
「指ぱっちんじゃなくて?」
《違う(ヾノ・∀・` )》
《桜の花がぶわぁってなる技》
《めっちゃ綺麗なんよ》
「ふぅん?」
スレ主はもう一度、恋を見た。
そして、
「なんで、前回はその技使わなかったんだ??」
疑問を投げた。
恋が答える。
「……実戦では使うな、と言われてるので」
《ふーん?》
《どっちかっていうと、目くらましとかに近いよね》
《幻術系だよな、あれ》
《言われてる、って誰に?》
《←察しろ》
《たぶん、オトンだろ》
「違います」
コメントに、恋は即答した。
その様子を眺めつつ、スレ主は学校での恋について記憶をほじくり返していた。
スレ主、つまり冬真は恋とは専門学校での同級生でもある。
なので、実技授業等で彼女の剣技もいくつか見て知っている。
しかし【桜の花がぶわぁ】っとなる技は、見たことがなかった。
どんなものかは想像するしかない。
《違うんだ(´・ω・`)》
《違うのか》
《パフォーマンス用なら納得》
《映えるし、綺麗だもんな》
(綺麗、ね)
しかし、ガチの幻術とは違うらしい。
恋はテレビ、画面の向こう側でそれを披露した。
ということは、画面越しに見ていた者にも影響がある、ということだ。
「…………」
途端に実況者の顔を思い出す。
どんな技であれ、彼に見せないのは正解だった。
指ぱっちんのやつは、あの流れでは仕方なかったと思うしかない。
(まぁ、あの人がニュースや動画で見てたら手遅れだけど)
しかし、わざわざそれを言う義理も無いので黙っておいた。
そんなことを考えている冬真を他所に、恋はコメントへ答える。
「母に、言われてるんですよ」
《お母さんかぁ》
《じゃあ、あの技はお母さんも使えるんだね》
「えぇ、アレは母から教わった技なので」
恋の父と母の話題が出る。
恋にとって、両親は自慢の親なのだろう。
両親について語る、恋の顔はどこか誇らしげで、自慢げだ。
その表情をドローンが余すことなく撮影する。
様々なコメントが、また弾幕となって流れていく。
だから、誰も気づかない。
恋も、視聴者も気づかない。
その様子を見ていた冬真の目が、マスク越しでも分かるほど冷えきっていたことに、誰も気づかない。
《そういえば、今日はスネークいないの??》
弾幕が落ち着くと、頃合を見計らっていたのだろう、そんな質問が流れていった。
すると、
「いるぞー」
スネークが声だけで応じた。
けれど、動画には映らない。
「今回は、俺は動画に映らない予定だから、よろしくな」
《了解》
《(`・ω・)ゞ》
《りょ》
《おk》
《了解》
《まぁ、企画として面白くなくなるもんな》
《強いの2人いるとなー》
《恋も強いけど、数に入ってないの草》
そんなコメントが、またも弾幕になって流れていく。
スネークこと、リオは冷えきった目をした冬真を見る。
そして、苦笑した。
(中々に、グロテスクな光景だよなー)
と、リオは内心で呟いた。
でも、生配信には全く関係ないことなので、口には出さなかった。
こうして、生配信は始まったのだった。