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その一連の流れ、やりとりを見ながら冬真は、
(懐かしいなぁ)
なんて、しみじみと思った。
冬真がスネークや実況者に助けられたあと、ダンジョン探索をしたい、その方法を教えてほしいと懇願した時のことを思い出したのだ。
スネーク含めた他の仲間たちが面白がる中、実況者だけは難色を示した。
『探索者なんかになるな』
『子供がやるような活動じゃない』
『ほかにも魅力的で素晴らしい活動はたくさんある』
こう言って、実況者だけは反対したのだ。
当時は、なんて意地悪な人なんだ、と冬真は思ったが三年経過した今なら、彼の優しさがよくわかる。
彼は正しかった。
冬真だって、たとえば年端もいかない子供が探索者をやりたい、なんて言ったら、『やめておけ』と言うだろう。
こんな、人が蚊や蝿を殺すように、簡単に人がモンスターに殺されるような活動、もしくは仕事なんて子供のすることじゃない、と言うだろう。
ダンジョンが現れて百年。
科学技術諸々の進歩を経ての現代。
それによる動画配信という新しい映像ジャンルの出現。
これらによって、探索者はいまや子供達の憧れの職業のひとつとなっている。
別に冬真は、最初は探索者に憧れたわけじゃない。
最初は、助けてくれた人たちのように強くなりたい、自由になりたいと思っただけだった。
そうすれば、親に、大人に振り回されなくてよくなると考えたのだ。
結局、その考えは浅く甘いものだったけれど。
それでも、初めて出会った信用出来る大人達が、スネークや実況者達だった。
はじめて、親身になって寄り添って助けてくれたのが彼らだったから。
彼が憧れたのは、探索者にではなくスネーク達にであった。
でも、それは冬真のことだ。
恋のことでは無い。
恋は、立ち上がると血が出るんじゃないかと言うほど唇を悔しそうに噛んでいた。
「一応、お節介はここまでだ。
あとは自己責任だ」
実況者はそう言うと、その場から去ろうとする。
多分、もう帰宅するのだろう。
そんな雰囲気だ。
どちらも冬真と恋へ向けた言葉であった。
お節介、と彼が言った。
お節介であり、お説教だ。
動画で流れていたら、おそらく大炎上待ったナシだったことだろう。
「わかってますよ」
冬真は、実況者にそれだけ返した。
実況者は苦笑を浮かべる。
そして、冬真にだけ聞こえる声で、
「まぁ、頑張れ。
途中で投げ出すなよ」
そう言った。
その言葉に対して、もう一度冬真は同じ言葉を繰り返した。
「わかってますよ」
冬真の言葉を背中に受けながら、実況者はその場から立ち去った。
冬真は、恋に近づいた。
そしてこう声をかけた。
「どうする?
もう少し続けるか?
それとも、今日は帰るか??」
「……え」
「いや、よくよく考えたら【夢幻絵巻】が今日中に見つかるのは、望み薄だし。
今回は動画サイトのサーバーが落ちちゃったからさ、配信も出来ない。
だから、日を改めてもう一度、今度は企画として挑戦してみるのはどうかなって」
「……手伝ってくれるんですか?」
「実況者はああ言ってたけど、お手伝いでも仕事は仕事だし。
それに、俺から言い出したことだから」
ここで、ちょっとだけ恋の瞳が驚きで丸くなる。
結構、子供っぽい反応するんだよなぁ、なんて思いながらスレ主こと冬真は続けた。
「乗り掛かった船だ。
目的の物が見つかるまでは、責任を持って付き合うよ」