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終わった感をだした所で、サーバーが落ちてしまった。
その事に冬真が気づいたのは、魔族のキールがなにかアイテムを落としていないか確認したあとである。
自分の携帯端末で動画とコメントを確認したら、サーバーが落ちている事に気づいたのだ。
録画はされ続けているので、あとで改めて投稿することも出来るはずである。
ここにスネークが居たなら、バックアップサーバーに繋ぎ直して再開することも出来るだろう。
しかし、スネークはいない。
そして、冬真はバックアップサーバーへの繋ぎ直しやら設定のやり直しの方法を知らなかった。
「どうするかなぁ」
とりあえず、目的の【夢幻絵巻】なるアイテムは手に入れることが出来なかった。
ドバドバと死んでいる恋へ、【タナトスの秘薬】と【万能薬】を惜しげも無く使う。
彼女が意識を取り戻すまで、少し休憩しようと決める。
バックパックに入れておいた、コンビニ菓子を取り出して食べる。
糖分の摂取は大事だ。
持ってきていた水筒から麦茶をカップに注いで、被っている紙袋を、口の部分だけ上げてだしゴクゴク飲む。
そうして一息吐いた時だった。
「あっれ?冬真じゃん!
って、どうしたその紙袋?」
そう声を掛けられた。
見ると、そこには携帯端末片手にこちらに向かってくる男性がいた。
二十歳ほどの男性だ。
男性は、持っていた携帯端末をなにやら操作する。
その画面に表示されているのは、掲示板だった。
実況掲示板である。
《噂のメシア、もといスレ主と遭遇したー》
男性の書き込みを見て、スレ民達がざわつき出す。
《え、メシア?》
《スレ主??》
《あ、そういや、ゲリラ配信やってたな》
《実況者、スレ主と遭遇したんか》
【実況者】というのが、この男性の掲示板でのコテハンである。
つまり、名前のひとつだ。
《配信してた動画サイトが鯖落ちしたんよ》
《え、そうなの??》
《動画はあんまり見ないからなあ》
《猫動画はいいぞ( *˙ω˙*)و グッ!》
スレ民の中に、動画配信を視聴していた者がいたらしい。
だいたいの経緯を、他のスレ民や実況者へ説明する。
それを確認して、実況者と呼称されている男性は冬真にもう一度声をかけた。
「動画サイトのサーバー落ちたのかー。
あ、あのドローンで撮影してる感じ??
いえーい、ピースピース」
実況者は両手でピースを作り、ドローンへニコニコとその姿を映す。
微妙に行動が古いが、そのことにツッコミを入れるものは、ここにはいない。
(……俺の名前言っちゃってるから、あとでスネークに頼んで編集してもらお)
「配信されてないとはいえ、顔出しで映っちゃってますよ?」
「?」
冬真にそんなことを言われたが、実況者はきょとんとしている。
「いいんですか?
俺やスネークがこのままこの動画使ったら、世間に顔バレと身バレしますよ?」
「あ、あー、そういうことね。
でも、スネークが編集してんだろ?
なら適当にモザイクかけてくれるって」
物凄い信用である。
「まぁ、その通りですけど。
とりあえず、俺の事名前で呼ぶのやめてもらっていいですか?
スレ主呼びでお願いします。
さっき名前で呼んだとこは、カットかピー音入れてもらうんで」
「了解了解。
で、さっきまでここでドンパチやってたのお前??」
「えぇ、まぁ」
「と、おお?
スゲェ、美人。
え、この子と実況してたん??」
「はい、そうです」
「……なんかこの子、水で濡れてる??」
「死んだんで、【タナトスの秘薬】と【万能薬】使った所です」
「あー、そういうことね、理解した」
それから、改めて実況者はジロジロと眠っている恋を見た。
そして、首を傾げる。
冬真を振り返り、疑問を投げる。
「実力に見合ってないのに、なんでこの子をここに連れてきたん?
そういう企画??」
企画にしては悪趣味だろ、と言いたげである。
冬真を育てた者の中では、おそらく実況者が一番常識がある。
だからこそのこの言い方だった。
「いえ、なんというか、たまたまというか」
経緯を話そうかどうしようか迷っていると、恋が目を覚ました。
「おや、眠り姫のお目覚めだ」
そう揶揄したのは実況者だった。