7
学校を終えて、冬真は一人暮らしの安アパートへ帰宅する。
それから今度は、初の四日連続掲示板ダンジョン実況のための準備を整える。
スポーツ用品店があるように、ダンジョン探索者攻略者専門の用品店がある。
そこで購入した探索者用の戦闘服に着替え、必要なものを突っ込んであるバックパックを背負い部屋を出る。
電車に揺られ、さらに歩き、片道一時間かけて向かった先はSSランクダンジョンである。
某県某市の山中の中にある洞窟。
ダンジョン名【ヘルヘブン】。
(昨日は配信者のやつに巻き込まれちゃったからなぁ)
Sランク以上のダンジョンは、その難易度故、今の所配信者の中で配信する者がいない。
配信者の中に、Sランクを攻略できるレベルの者がいないというべきか。
そのうち現れそうだが。
とにかく、現時点ではSランク以上のダンジョンは全くといっていいほど配信されていなかった。
配信していたら、大騒ぎになっているところだ。
おそらく、同時接続数はぶっちぎりの数値を叩き出すに違いない。
冬真は、キョロキョロと周囲を確認する。
他の探索者、もしくは攻略者の姿は無かった。
気配もない。
ここまでの道こそ整備されているが、山の中ということもあるしすでに日が落ちているので暗い。
都会のど真ん中にある、ダンジョンなら別なのだがそこはランクはCからAランクのものがほとんどだ。
そのため人も多いし、配信者も多い。
偶然、配信者の動画に映りこむのも冬真は嫌った。
そうなってくると、こうしてあまり人のいないハイランクのダンジョンを選ぶことになるのは必然だった。
「さて、と」
冬真は携帯を取り出して、新しく掲示板を立てた。
そして、書き込む。
《怒涛の実況四日目、やってくぜ!!》
《あ、スレ主だ》
《おwwwまえwww学校大丈夫だったんか?www》
《前スレで、めっちゃ見られてるって書き込んでただろ?》
《バレなかったん??》
《今だ!2ゲットォーーー!!》
《今だ!2ゲットォォォォ!!》
《茶番乙》
《しかし、スレ主よ。借金はとうに返済終わってるだろ?》
《なんでここ数日、連チャンで実況してるの??》
AAを使った茶番のあとに続いたスレ民の質問。
これに冬真は答える。
《なんていうか、どこまで出来るか自分を試してみたくて》
《体が資本だから、無理はすんなよー》
《初っ端で玩具にした俺たちが言えることでもないけどなー》
《( ´-ω-)σMAJISORENA★HAHAHA》
《それはともかく、学校の方はあれからどうなったん??》
反応はやはりそれぞれだ。
さらなる質問に答える。
《とくになにか聞かれることも無く、終わった》
そう書き込んで、すぐに恋とのやり取りを思い出し、訂正した。
《あ、Sランクダンジョン攻略者さんにはちょっと問い詰められたけど》
《問い詰められたんかいwww》
《問い詰められてどうなったん??》
《wktk》
《+(0゜・ω・) + wktk!!》
「どうなったって言われてもなぁ……」
《似てるって噂になってるって言われたけど、すっとぼけた》
《すっとぼけが通じたんかwww》
「まぁ、通じたというかなんというか」
《前髪の偉大さを知った》
《前髪?》
《なんで前髪?》
《いや、俺ふだん学校だと前髪下ろしてて、自分で言うのもなんだけどかなりダルそうな見た目なんさ》
《怠そう?》
《ダンジョンだと、あんなにスタイリッシュなのに??》
《ぶっちゃけ、スレ主イケメンの部類に入るから、配信した方がいいと思うんだけどなぁ》
《眼鏡とると美少年美少女は古臭いけど、あるあるだし》
《スレ主の場合、その亜種の前髪かき上げるとイケメンだった、だからなぁ》
《それはそうと、スレ主、今日はどこのダンジョンに潜るんだ?》
「ヘルヘブンに潜る、っと」
《あそこかwww》
《潜ってなにするの?》
《討伐?》
《素材orアイテム探し?》
《そもそも、今回の連続チャレンジ、依頼は受けてるん?》
依頼、というのは探索者連盟に世界各国から寄せられる仕事だ。
どこそこのダンジョンに出現するモンスターを倒して、そのモンスターの一部である素材が欲しいとか。
もしくはそのダンジョンで手に入るアイテムが欲しいとか。
あるいは、コレコレここのダンジョンにとあるモンスターが大量に出ているから、スタンピードになる前に倒してくれとか。
そういったものだ。
「この連続チャレンジでは受けてないよ、と」
完全なる、趣味。
遊びである。
なぜなら仕事になったらやる気が起きないからだ。
三年前ならいざ知らず、現在、冬真は金に困っていない。
なぜなら、この趣味で稼げているからだ。
普通にアルバイトするよりも稼げる
なにより、楽しく稼げるのが冬真の性に合っていた。
もちろんこんなこと、スレ民の前でしか言えないが。
《受けりゃいいのに》
《(*´・д`)-д-)))ソゥソゥ》
仮免でも、Aランクのダンジョンまでは挑戦できる。
そしてAランクダンジョンまでの依頼なら仮免、つまりは専門学生でも受けられるのである。
Sランク以上のダンジョンには、レア素材となるモンスターやアイテムがゴロゴロしている。
が、同じくらい低ランクダンジョンで手に入る素材となるモンスターやアイテムもゴロゴロしているのだ。
そのため、Sランクダンジョンで手に入れたアイテムを、ほかのランクのダンジョンで手に入れたことにも出来るのである。
冬真はかれこれ三年間、これで生計を立てていた。
仮免の今でも、それは続いている。
「今回は、受けてないだけだよっと」
そう書き込むと、冬真はダンジョンの中へと足を踏み入れた。
このままでは、いつまで経っても実況できそうになかったから。
だから、この書き込みを一瞬だが見落とすこととなった。
《でも、そのダンジョン。
昨日助けた子が配信してるぞ?》