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【キール・ロンド】は、知らぬ者はいない伝説の探索者である。
冬真たちの生きる現代から遡ること五十年前。
二十五歳の若さでSランクダンジョンに挑戦し、攻略に成功し、歴史に名を刻むこととなった。
一躍時の人となったキールは、その後、五年間探索者として活動する。
そして、三十歳で海外のSSSSSランクダンジョンに挑戦し、ほかの探索者と同じように姿を消した。
彼が行方不明となって十年後。
残された家族は彼の死亡手続きを行った。
彼の歩んだ人生は、冒険物語として語り継がれることとなった。
彼の歩んだ人生は、英雄物語として語り継がれることとなった。
世界各地に存在する、探索者を育成する学校では必ず彼の画像が載っている教科書を使用している。
最後こそ、行方不明という終わりであった。
それでも、彼は全世界の探索者たちの憧れであり、夢であり、ひとつの到達点というべき存在なのである。
ちなみに、普通の世界史の教科書等にも載っている顔なので、一般人も知っている。
もし、仮に彼のことを欠片も知らない現代人がいたら、こう説明すると分かりやすいかもしれない。
『条件さえ揃えばソシャゲで美少女キャラにされてたレベルの偉人である』
と。
さて、冬真が動画にて流した、彼の画像。
それは、教科書に載っている生前のモノとは違っていた。
魔族の特徴である角と、蝙蝠の翼がしっかりと映されているのだ。
同接数が、エグくなる。
初めて投稿した動画の視聴回数や、その後の実況動画の同接数を、この数秒であっという間に上回ってしまった。
《え、え??》
《ちょ、まじで、どゆことなん、これ??》
《ナニコレぇ》
《やべ、動画重たくなってきてる》
《?!》
《!?》
《!?》
《!?》
《!?》
《!?》
《待て待て待て、落ち着こうぜ》
《!!??》
《!!!!1》
《!!!???》
《!?》
《え、ちょっと待って、ほんとどゆことなん、これ??》
「なー、どーゆーことなんだろーなー??」
コメントを受けて冬真が呟くのと、
《多分、あれだろ》
《ダンジョンに取り込まれて、リデュースされてリユースされたんだろ?》
《んで、リサイクルされまくってる》
弾幕の中に消えてはいたが、考察厨が書いたコメントが流れていくのは同時だった。
しかし、考察厨のコメントが見えていた者もいたようで、
《嫌な3Rだな……》
なんてツッコミも流れていく。
「他の魔族の画像もあるけど、見るか??」
《ほか?!》
《他の魔族のも画像あるんか》
《((((;゜Д゜))))》
《!?》
《ほか、だと??》
《見たい!》
《有名な人??》
《見たいし、考察厨の考察を知りたい》
《ダンジョンも生ゴミ出さないよう必死なのかね》
《あ、考察厨がリサイクルがどうのこうの書き込んでる》
《←え、まじ??》
《コメント一覧見てこい》
《りょ(*`・ω・)ゞ》
「この人とかー、あ、これとか。
有名どころの顔だろ?」
冬真は、恋とドローンへ交互に画像を見せる。
ドローンが撮影したその画像の数々は、動画を通して視聴者の目に触れる。
《うそやろ》
《カール、エディ、こっちはノーディア女史……》
《野口大悟、高蔵喜多……日本人のSランクダンジョン攻略者もいるのか》
《世界各国の探索者が揃ってる》
《世界に名だたる探索者ばっかりじゃん》
「知らない顔の魔族もいるけどな。
とりあえず有名どころの画像だけ出してる。
で、説明するほどでもないが一応言っとく。
この顔全員、ダンジョンで行方不明になった奴らだ」
《それは、うん》
《キールの時に説明してもらってるから、わかる》
《つまり、ほんとにリサイクルされてるってこと??》
「行方不明者全員がリサイクルされてるわけじゃないけどな。
ただ、この画像の奴らは、出現率は低いけど何度か遭遇してる」
視聴者たちは、コメントを打ち込むことすら忘れてしまう。
それほど、衝撃的だったのだ。
結果的にそれによって流れる弾幕が消えた。
直後、恋が何かに気づいたのか冬真のもつ携帯端末から顔をあげた。
そして驚愕で固まってしまう。
その視線を追うように、ドローンもそちらへカメラを向けた。
《え?!》
《うそ?!》
視聴者が驚きをそのままコメントとして打ち込んだ。
「おや、おいでなすったか」
冬真が楽しそうに声をはずませた。
そこには画像の人物、魔族の姿をしたキール・ロンドが立っていた。