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トレンドワードがまたも入れ替わる。
ブランデーケーキは不動の三位のままだったが、それ以外のワードが入れ替わった。
第一位となったのは【魔族】である。
そこから懐かしの【人跡未踏】が追い上げを見せてきた。
そして、何故か【サメ映画】、【B級映画】が追い上げてきた。
おそらく、床をすり抜けたスライムから連想された上、コメントで書かれたからだろう。
恋も、自分の携帯端末からコメント一覧を確認し、その見覚えのないワードがなんとなく目に付いた。
別にトレンドワードを知っていた訳では無い。
だから、純粋な疑問が口から滑りでた。
「サメ映画って、なんですか?
鮫の生態を研究する研究者のドキュメンタリー映画ですか?」
そこで、一旦動画コメントが消えた。
まさに、シーンとしたのだ。
「???」
恋は訳が分からず首を傾げる。
《え、恋たんサメ映画知らないの??》
《B級映画とかZ映画とか知らないの??》
《B級映画知らん人おるのか:( ;´꒳`;):》
《コアな部類だろ、サメ映画は》
《娯楽映画は見ないのかな、この子?》
「映画の種類、そういうジャンルということはなんとなくわかりました」
《恋は映画観ないの?》
「そう、ですね。
言われてみれば、あまりみたことないかもしれません。
子供の頃から訓練や鍛錬の日々だったので」
《はえー》
《厳しい家なんだな》
《え、え、じゃあ、マンガやアニメは?》
《まぁ、そうでもないと最年少でSランクダンジョン攻略なんてできないか》
《サメ映画は、いいぞ(*•̀ㅂ•́)و✧》
《この際だからと沼に引きずりいれようとすんなwww》
「あぁ、いえ全く見ないわけじゃないですよ。
休息も必要なので、そういった時に配信サイトで話題のオススメ映画を時々観るくらいで。
ただ、サメ映画というものは見たことがなくて。
漫画やアニメも、見ないですね。
クラスメイトの方が読んだり、話題にしているのは目にしてきましたけど」
《気が向いたら見てみなよー》
《くそ下らなくておもしろいよー、サメ映画》
《そうそうwww》
《くだらなくて、おもしろい、んで楽しいよな》
《まさに物理法則無視して、サメが襲いかかってくるからwww》
《でも、映画観るならやっぱり映画館で見た方がいいよ》
《アクション映画なんか、音が全身を震わせにくるから》
《わかる、ビリビリするんだよな》
《音響いいところだと見終わったあと、耳がちょっと変な感じになるけどなwww》
《マンガやアニメもおもしろいのたくさんあるよ(*•̀ㅂ•́)و✧》
実に楽しそうに視聴者たちが映画や娯楽作品をオススメしてくる。
恋はそれをとても不思議な気持ちで眺めていた。
休息による暇つぶしで映画を見ることはある。
でも、娯楽として楽しんでいるかというと違う。
広告動画のような、流し見がほとんどだ。
感情を揺さぶられることも無くはないが、そこまで感情移入して見たことはなかった。
だから、【くだらない】とか【おもしろい】とか【楽しい】と感じることはなかったのだ。
《でも、あれかー、恋さんの場合ダンジョン攻略の方が楽しいんだろうな》
《マンガ読んだり、映画やアニメ観てる暇なんてそうそうないか》
そんなコメントが流れていく。
恋は、心の中で呟いた。
(え??)
ダンジョン攻略を、楽しいと思ったことはなかった。
不思議なことに、今まで一度もおもしろいと思ったことも、楽しいと思ったこともなかった。
そのことに気づいた。
《どした?恋たん??》
《なんか、固まってるな?》
どしたどした?
と、コメントが流れていく。
それを見ながら、恋は小さく呆然と言葉を口にした。
「私、楽しそうに見えてるんですか?」
その視線は携帯端末の画面から、冬真へと移り、向けられる。
「え、違うのか??」
冬真が返した。
「え、あ、えぇ??
うーん、どうなんでしょう??」
楽しいとか面白いとか、攻略をしていて感じたことはない。
あるのは、ただの義務感だ。
もしくは、
「対抗心なら、あるかも??」
《なぜに疑問符www》
《対抗心って、誰に対しての??》
《あ!わかった!雪華だろ!》
「いいえ、違います」
《え、そうなの?》
《なんとなくライバル関係にあると思ってた》
《←それな( ´-ω-)σ》
《じゃあ、メシア??》
《スレ主=メシアへの対抗心?》
コメントを受けて、恋は冬真を見た。
もちろん正体なんて知らないので、メシアを見た、が正しいのだろう。
「この人の事も、スネークさんのことも凄いと思いますが、対抗心があるかと言うと……。
うーん、違いますね」
《じゃあ、誰への対抗心?》
「まぁ、身内、とだけ」
《案外親だったりしてwww》
これ以上、この話を掘られても面倒なので恋は話題を変えることにした。
「むしろ、なんで楽しそうだと思ったんですか?」
これは、動画視聴者と冬真へ向けられた質問だった。
「え、だって、こんな仕事してるなら、楽しいから続けてるとしか思えなくて」
冬真が答える。
それに続く形で、コメントが増え、流れていく。
《そうそう》
《(*´・д`)-д-)))ソゥソゥ》
《それな( ´-ω-)σ》
《脛に傷持ってるやつならともかく、恋たんいい所の家の出っぽいし》
《そうなんだよなぁ》
《仕事で仕方なくダンジョン攻略してる奴とは違うんだよなぁ、だからてっきり好きでやってるとばかり》
《そもそも、安定した職業とは真逆の仕事だからな》
《普通に死ぬしな、探索者なんて》
《死ぬ可能性があるのに、そんな危険な仕事を才能に恵まれたとはいえ、続けられるってことはどこかに楽しさや、やりがい、面白さを見つけてるからかなって思ってた》
《だってさ、恋たんの場合、普通にバイトでも就職でもできるんじゃないの??
でも、ダンジョン攻略してるわけで》
《普通に生きられそうなのに、わざわざ危険なことしてるってのが、火遊び好きなのかなって》
《何かしら理由があって、普通に働けないやつが続けてるってのはあるあるだし》
《他のやつがコメントしてるが、ぶっちゃけ恋たんは、異能力あってもなくても、普通に仕事できるし生きていける人生っぽいんだよな》
《雪華だって、好きでダンジョン配信者やってたわけだし》
《ダンジョン攻略をしなきゃいけない理由があったとしても、恋の場合、それを差し引いてもカタギの世界で生きていけそうだからさ》
《そうそう、見た目綺麗だし、女優とかモデルとかでも食べていけそうだもん》
《そんな人がダンジョン攻略やってるのは、やっぱり好きだからかなって》
《まぁ、家の事情もあるとは思うが》
《コラボ動画の時とか、恋、楽しそうだったし》
コメントに、ただただ恋は驚くばかりだった。
(そんなこと、考えたこともなかった)
だって昔から、生まれた時からそうだったから。
たしかに女の子らしくするように、そっちの教育も受けてきた。
けど、異能力を活かすための訓練や鍛錬もそれなりに受けてきたのだ。
でも、それは、家のためだ。
今だって、そうだ。
家のためだ。
腹違いの兄より、自分が上であることを見せつけるためだ。
そうしなければ、あの家は兄によって潰されかねない。
それをなんとしてでも阻止しなければならないのだ。
「……そういう見方もあるんですね」
気づくと、恋は無難な返答をしていた。
冬真は、ちょっと彼女を見ただけで何も返すことはなかった。




