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全世界のダンジョンの攻略本こと、【夢幻絵巻】のことが動画で語られた途端、トレンドワードが一気に変わってしまった。
それまで堂々の1位に輝いていた【ブランデーケーキ】が三位に陥落し、【夢幻絵巻】と【攻略本】がトレンドワードランキングでデットヒートを繰り広げることとなった。
動画コメントもカオスと化していく。
《トレンドワード、ブランデーケーキが三位から動いてないwww》
《みんな食い物好きねwww》
《綺羅星屋のホムペ、繋がりにくいんだけど》
《店来たけど、行列出来てて草》
《あ、ブランデーケーキ完売しとる(´・ω・`)》
《マカロンもだ》
《店員さん頑張って!!》
《バタバタしてるのが店長さんかな?》
《待って待ってwwwなんで紙袋だけ買う人いるんwww》
《紙袋を買ってるやついて草》
《おまいらwww店に行ったんかwww》
《いや、ブランデーケーキがあちこちでオススメされてるから、つい》
《マカロンもオススメされてたから、つい》
《あ、ホムペ落ちた》
《なんでダンジョン実況で関係ない菓子屋のホムペおちるんだよwwwおかしいだろwww》
《やったー!ブランデーケーキ、最後の一個買えたーワァ───ヽ(*゜∀゜*)ノ───イ》
《戦争だ》
《つるし上げよう》
《ケーキ買えてよかったなぁ(*´ω`*)》
《店員さんが涙目で説明しとる》
《店員さん、頑張って、ほんと頑張って!!》
《あ、ここのアンパンうめぇ》
《そうそう、綺羅星屋ってアンパンも美味いんだよな(*´﹃`*)》
《ホットミルクも美味しいよ、おかわり自由だし》
《おいwwwやめろwww》
《食い物の情報出すと、店の人が大忙しになるw》
《おいwwwトレンドワード変わったwww》
《なんでトレンドワード【夢幻絵巻】から、【店員さん頑張れ】になってるのwww》
《トレンドワードが【店員さんがんばれ】になってて草》
《そして追い上げをみせる【アンパン】www》
《ホットミルクも追い上げて来てる件www》
《なんで、食べ物になるとトレンドワードの入れ替わり早くなるんだよwww》
《夢幻絵巻:解せぬ》
冬真はコメントのカオスさに苦笑しつつ、説明を続けた。
「で、この【夢幻絵巻】の入手方法なんだけどな」
《入手方法》
《そういや、激レアなんだよなこのアイテム》
《メシアですら、知らなかったアイテムだもんな》
《どうやって手に入れるんだろ??》
《入手方法、キタコレ》
「……魔族を倒すと稀に落とすらしい」
《魔族?》
《モンスターじゃないの?》
《魔物のこと?》
《魔族じゃなくて魔物だろ》
《ザワ……ザワ……》
《でも、わざわざこう言うってことは……》
《魔物≠魔族?》
《(((( ;`ω´)))(`ω´;((`ω´; )))ザワザワ》
《( ; ゜д)ザワ(;゜д゜;)ザワ(д゜; )》
《そもそも魔族ってなに?》
《ハイファンのラノベとか漫画、アニメだとよくいるよな》
《人間と敵対してて、魔法が得意、人間とよく似た見た目をしてたり、ツノ生えてたり、蝙蝠みたいな翼はえてたりする》
《精神生命体だったり、違う人種扱いだったり、作品によって設定はさまざま》
《えっと、魔族の定義はおいておくとして、ダンジョンには魔族が出るってこと??》
「まぁ、そういうことだ。
魔族自体は、バベルにしか出ないから存在を知ってる人は限られてるけどな」
《前から思ってたけど、もしかしてメシアやスネーク以外にもバベル攻略者がいる??》
「あ、気づかれた」
流れて行ったコメントに、つい冬真はそう呟いた。
《そうなの?》
《え、この反応、マジか》
《待て待て待て、ほかにもいるんか??》
《え、こんな化け物がほかにも??》
動画コメントがザワつく中、恋だけは冷静だった。
(夢幻絵巻のことを教えてくれた人のことかな??)
そうとしか考えられない。
《あー、スレ民のことか》
《そういえば、ほかの動画でそれっぽい人達がコメントしてたな》
《あれ、メシアの仲間か》
動画視聴者も慣れてきたのかザワつく者と、だろうなぁという反応をする者とわかれた。
《スネークじゃない人から教えてもらったって言ってたもんな》
《あ、たしかに》
《なるほどなるほど》
「仲間、仲間かぁ………」
呟いてみる。
なんとなく違和感があった。
(あの人たちが、俺の事を仲間扱いしてくれてるのかどうか)
おもちゃ扱いはしてるが。
「どうなんだろうな」
よく考えたがわからなかったので、そう言うだけにとどめておいた。
《そんなことより、魔族について教えてくれ!》
《そうだそうだ(ノシ´・ω・)ノシ バンバン》
そんなコメントが流れていく。
同時に、冬真は足を止めた。
それに続いて、恋も足を止める。
冬真は剣を抜き、構えた。
恋もそれにつづく。
「話を戻そう。
魔族が出てくるのは、900階層から999階層だ。
いま、俺たちが散歩してるのは900階層だ」
途端に、恋の目がちょっと暗くなる。
「まさかエレベーターがあるなんて知らなかったです」
そんな恋の呟きをドローンが拾った。
《エレベーターwww》
《エレベーターあるんかwww》
冬真が補足する。
「隠しエレベーターだから、見つけるまでが大変だけどなぁ。
でも、今にして思えばスネーク達がエレベーターの存在知ってたの、夢幻絵巻があったからかぁ、ってなってる」
《お、おうwww》
《なにも説明が無ければ、攻略中に見つけたと思うわなwww》
《いっきに900階層にまでとんでて草》
《900階層って、塔系のダンジョンと同じ内装なんだな》
《この場合は、1階層と同じというべきか??》
《レンガ造りの壁と床?》
《しかし、警戒態勢とるとは》
《もしや、早速魔族がでたのか??》
「……いいや、魔族ってのは滅多に出ない。
でも、よく出るモンスターで厄介なのがいるんだ」
《厄介?》
《厄介なモンスター??》
《ニンジャゴブリンとか?》
ザワつくコメントは無視して、冬真は気配を探る。
そして、恋へ叫んだ。
「跳べ!!」
二人がジャンプする。
同時に今まで二人が立っていた場所に、物理法則を無視してスライムが現れる。
その光景を見て、今度は恋が珍しく驚きの声をあげた。
「スライムが、床をすり抜けた?!」
それは、文字通りの意味だった。
床が盛り上がることも破壊されることもなく、すうっと、そのスライムは床をすり抜けて現れたのである。
途端に動画コメントも盛り上がる。
《なんだあれ?!》
《スライム?》
《なんだ、スライムか》
《違う、あれ、普通のスライムじゃない!》
《物理法則無視するスライムなんて、聞いたことないぞ》
《( ;゜д)ザワ(;゜д゜;)ザワ(д゜; )》
《ザワ……ザワ……》
《さすが、最高ランクのダンジョン》
《すり抜けるスライムなんていないよ!!》
《サメなら出来るけどな》
《←B級映画か》
《サメ映画の話はやめいwww》
視聴者たちの中にも、探索者がいる。
そのため、今しがた出現したスライムが、ほかのダンジョンに出るそれとは違うことに気づく者が多かった。
あと、コアな映画ファンも混じっているらしかった。
「おい、油断するなよ」
静かに、冬真は恋へ言った。
直後、空中で身動きできないその状態の恋目掛けて、スライムが跳ね、かすった。
最初は、かるく叩かれたような衝撃が腹にあった。
けど、次の瞬間に赤くまう液体と、肉塊のようなものが目に入る。
恋は腹を見た。
腹を食い破られていた。
今日だけで、二度も恋は自分の腸を見ることとなったのだった。




