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【夢幻絵巻】というのが、アイテムの呼称だった。
しかし、それはスレ民の中での呼称である。
《むげんえまき?》
《どんな字??》
《どんな字書くの??》
コメントに、冬真は答える。
「夢と幻の絵巻物って書いて、夢幻絵巻らしい。
俺もついさっき存在を知ったばかりだ」
冬真の探し物、という意味では嘘だが、その存在をついさっき知ったというのは本当だった。
冬真は、バベルを何度となく攻略してきた。
でも、そんなアイテムを手に入れたことなどなかったのだ。
ましてや、スネークや特定班達からもそんなアイテムの話を聞いたことなどなかった。
さきほど、スレで考察厨に聞いたのが初である。
《ついさっき?》
《どうやって知ったん??》
《あの蛇から聞いたの??》
《そういや、蛇いないな》
《蛇は今回無し??》
《メシアでも知らないことあるのか》
『メシアでも知らないことがある』、このコメントには恋も同意した。
何度も最高ランクの、それも人跡未踏ばかりのエリアだらけである【バベル】に挑戦、攻略しているのに。
彼にも知らないことがある、というのが意外だったのだ。
その当たり前と言えば当たり前なことに、冬真は呆れながら答えた。
「あのなー、俺は神や仏様じゃないんだから。
そんななんでもかんでも知ってるわけないだろ」
《そりゃそーか》
《えー、だって最初の動画でめっちゃバベルのこと解説してたじゃん》
《そーそー》
《なんだ、意外と物を知らないんだな》
好き勝手なコメントが流れていく。
しかし、動画視聴者達の興味は冬真の蓄えたダンジョンに関する情報よりも、【夢幻絵巻】なるアイテムのほうにあった。
《夢幻絵巻ってどんなアイテムなの?》
《わかる》
《めっちゃ気になる》
《メシアも知らなかったアイテムか……》
《それを知っていた、メシアの知り合いって何者なんだ??》
《←たしかに!!》
《メシアが知らないことを知ってる奴のことも気になる!》
《アイテム【夢幻絵巻】の詳細はよ(ノシ 'ω')ノシ バンバン》
《【夢幻絵巻】についてkwsk(ノシ´・ω・)ノシ バンバン》
《そうだぞ!!ヾノ。ÒдÓ)ノシ バンバン!!》
《かなりのレアアイテムと見た(。・`ω・´)キラン》
この、アイテムの詳細を求めるコメントにも、恋は同意だった。
恋が求めているのは、実家が把握していない未知の技術だ。
主に【迷いの結界】を破ることのできる技術。
それが、【夢幻絵巻】には記されているらしいと恋は彼から説明を受けていた。
「まぁ、そりゃ気になるよなぁ」
冬真の呟きをドローンが拾う。
《当たり前だろ》
《詳細はよ(ノシ 'ω')ノシ バンバン》
《勿体ぶるなよ》
早くアイテムの詳細を説明しろ、というコメントが弾幕になってしまった。
「おまいらの好奇心で、画面が見えねぇよ」
さすがに冬真はツッコミを入れた。
《いいかはよせい!》
「わかったって。
あのな、このアイテムにはダンジョン内で手に入る別のアイテムや、モンスターが使う魔法や技諸々が解説付きで載ってるらしい。
アイテムの作り方や対策なんかもな。
あぁ、あと全世界にあるほぼ全てのダンジョンの地図だったり攻略方法もな」
この説明に、今度は感嘆符が弾幕となって画面を覆ってしまう。
《?!》
《はい??》
《!!??》
《!!》
《!!!!》
《??!!》
《!?》
《!?》
《?!》
《え、嘘だろ……!!??》
《つまり、それって……》
《!!》
《!?》
《!!??》
《!!!!》
《待って待って待って??》
「そう、お察しの通り。
もっとわかりやすい言葉を使おう。
【夢幻絵巻】ってのは、ダンジョンの攻略本なんだよ」
絵巻物なのに本とは、口にして妙な感覚だったが。
でも、ほかに良い言い方が無かったのだ。