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(さて、どうしたものか)
携帯端末の画面から視線を外し、また恋を見た。
今、知り得た情報を彼女に伝えたら、彼女はこのまま攻略を続けるだろう。
そして、きっと死ぬ。
出来ることなら、それは避けてほしいというのが冬真の考えだ。
そうは思うものの、コラボ企画の時のことが冬真の頭を過ぎった。
雪華もなかなか気が強いタイプだったが、恋もかなり気が強いというか我が強いタイプらしい。
もしもここで、一度帰った方がいいなどと言ったところで素直に聞くことは無いだろう。
ましてや、一人で探してこいと言われているのだ。
手伝いを申し出たところで拒否られそうだ。
(いや、でも……)
恋の言葉を、彼女の家族とのやりとりを信じるなら、一人で探すというのは兄の提案だ。
彼女の父親自ら提案したわけではない。
そして、保守的な考えの父親でありながら女は家庭に入る、家を守れ、外で働くな、ということを言われている節がない。
もしそう言われているのなら、今回のことを冬真に説明する時にそう言ってもいいはずだ。
(実況者がそれで実家と縁を切ったっていってたからなぁ)
ここにこうして恋がいるということが、そこまで保守的な考えを持った父親ではない事の証明になっているように思えた。
なにしろ、冬真を育てた一人である実況者の父親は、実況者が家を出ていくことに反対して、あの手この手で実況者を貶めて閉じ込めようとしたらしいのだから。
(……まぁ、断られたら、その時はその時だ)
そう考えて、冬真が口を開こうとした瞬間。
《スレ主、お前さ首突っ込もうとしてるだろ》
考察厨がそんな書き込みをした。
その書き込みをみて、スレ民達がおどろく。
《え、そうなの??》
《雪華の時みたいに逃げないの??》
《そうなんだ》
《スレ主、首突っ込みたいの??》
《というか、ここまで来てスネークに結界解く技術聞こうぜってならないの草》
《本人に聞けばイッパツだよな、たしかに》
《いや、聞けないだろ》
《つーか、教えてくれないだろ》
《それが広まると、ヤバいもんな》
《なんで、スレ主は首をツッコミたいんだ??》
《そもそもスレ主は、迷いの結界を解くやつ使えないの??》
ザワザワと書き込みがざわつき出す。
冬真は簡単に返答しようとしたが、それより先に考察厨が書き込んだ。
《お前は優しい、良い奴だからなぁ》
再度、考察厨のニヤついた顔が浮かぶ。
《困ってるやつ、そして、なによりもダンジョンで自分と同じ目にあったやつは基本放っておけない》
「よくお分かりで」
《だから、スレ主は恋に手を貸そうとしてる》
どこか確信を持った書き込みだった。
無意識に冬真の口の端が笑みの形に釣り上がる。
さらに考察厨の書き込みは続く。
《自分がそうされたように、助けようとしてる》
《たとえそれがエゴ丸出しの、傲慢な考え故の優しさからくる行動だったとしても、な》
本当に、考察厨は自分のことをよく理解している。
気持ち悪いくらいに。
ほかのスレ民がツッコム。
いや、この場合は呆れも混じった書き込みだった。
《よくわかるな》
その書き込みに考察厨が返す。
《俺はスレ主が好きだからな。愛してるからな》
《愛してるやつのことはなんでも知ってるんだ》
スレ民はドン引きした。
《うわぁ、やっぱり気持ち悪かった》
そこで冬真は携帯端末の画面から、また恋へと視線をやった。
そして、今度こそ自分の考えを伝えた。
その数時間後のことだ。
メシアによる、緊急生配信が始まった。
それに伴って、SNSのトレンドワードが一気に塗り替えられた。
その第一位は、【救世主キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!】であった。