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そこに、とあるコテハンが書き込みをおこなった。
《なんかおもしろいことになってんな》
書き込み自体は普通である。
しかし、そのコテハンに冬真は驚きを隠せなかった。
目を見開き、そのまま表情が固まってしまった冬真に、恋が恐る恐る声をかけた。
「あの、どうかしましたか?」
その声は、やはりどこか暗さがあった。
しかし、冬真はその声に返答することはない。
携帯端末の画面を凝視し、それからフラップ入力で書き込みをした。
(このタイミングで、なんでコイツが。
いや、アイツじゃないかもしれないし)
冬真が凝視する画面には、【考察厨】というコテハンが表示されている。
冬真をダンジョン実況として育てた中でも、かなりの変人というか狂人の部類に入る人間だ。
しかし、他のコテハンにも言えることだが、【考察厨】というコテハンを使っている者は他にもいる。
だから、まだこの【考察厨】が冬真の知る【考察厨】だとは限らない。
そんな淡い期待は、秒で消えた。
なぜなら、
《久しぶりだなぁ、スレ主?
俺だよ、俺。
お前の愛する師匠だwww》
そんな書き込みがされたからだ。
「……はぁぁぁぁあああ」
冬真は盛大なため息を吐き出した。
アイツかー、そっかー、なんで出てくるんだよ、と言いたそうなため息である。
「あ、あの?」
恋がどう声をかけたものかと、困っている。
冬真は、ようやくそこで恋へと返す。
「あぁ、悪い。
ちょっと、うん、育ての親の1人が書き込みに来てて」
「育て、の親?」
他にもいたんだ、と言外に含んで恋は返した。
「……師匠とか恩人みたいなもの」
「えと、それはスネークさんみたいな存在ということで良いですか?」
「同類」
短い返しに、恋は反応に困ってしまう。
あのスネークと同類、ということは……。
「……えと、やっぱり動物のマスクを被ってる人なんですか??」
彼女にとって、スネークはハイテンションの蛇のマスクの人である。
「……いや、考察厨は、配信はしてなかったはずだから。
それはないかな」
冬真はもう一度、携帯端末の画面へと視線を落とす。
そして、
《愛してねーよ》
淡々とそれだけ書き込んだ。
すると、考察厨が返してくる。
《じゃあ、恋してるだろ?》
《してねぇ》
《でも、俺はお前のこと大好きだぜ?》
《玩具としてだろ》
《スネークより大事にしてただろ》
《なにしろ、スネークより俺はお前のことが好きだからな》
《だから、それは玩具としてだろ》
《ご挨拶だなぁ。お前がホームレスにならないよう、凍死しないように、NPO法人を紹介してやっただろ。
まぁ、親にかぎつけられて住んでる所バレたっぽいけどな》
その書き込みに、憎まれ口をさらに返そうとしていた冬真の手が止まった。
「…………」
事実として、身寄りのない子供が住む場所を探すのはとても難しく、厳しい現実があった。
役所に頼っても、受付ガチャに外れて門前払いされ、なんなら適当な孤児院へやられるところだった。
孤児院に入所できても、18歳だか二十歳だかで出なければならず。
出てしまえば、やはり身寄りのない人間が生きていくには、中々厳しい世の中なのだ。
なにせ、保証人がいないから部屋を借りられない。
部屋がない、つまり住所が無いから安定した仕事先も見つからない。
それでもいいからと雇ってくれるところは、問題がある企業が多い。
その中で当たりを引くのは、至難の業だろう。
《それについては、感謝してる》
けれど、世の中にはなんらかの理由で冬真のように身寄りのない者を保護し、サポートする組織が存在した。
それが考察厨の言うNPO法人である。
端的に言えば、このNPO法人が借りている部屋に住まわせてくれるし、場合によっては契約時の保証人になってくれるのだ。
考察厨はこのNPO法人と繋がりがあるらしく、冬真をこの組織に繋げてくれた恩人でもあった。
《ほらほら!感謝してるってことは、やっぱり俺の事好きなんじゃん》
《好きでも無い相手に感謝はしないだろ?》
考察厨が怒涛の書き込みを行う。
それを見ていたスレ民が、
《感謝の押し売り》
《愛の押し売り》
《Loveの押し売り》
《押し売りのバーゲンセール》
《気持ち悪いな、なんだよこの考察厨?》
《いろんな考察厨見てきたけど、こんなドストレートに愛だの恋だのいう考察厨初めて見た》
《正直いって、キモイ》
《考察厨って、もうちょい、こう、ダウナー系が多い印象だったんだけど》
《あと、昼行灯な》
《それな》
《わかる》
スレ民たちの書き込みが流れていく。
その反応を受けて、考察厨が、
《<(*¯꒳¯*)>》
《o(`・ω´・+o(`・ω´・+o(`・ω´・+o)ジェットストリーム ドヤァ…!》
と、書き込んでいた。
「はぁぁぁぁあああ」
冬真はまた、ため息を吐き出した。