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簡単に言ってしまえば、雪華が受けたのは尋問だった。
係長と主任、二人の許可を得て今回は壊されることなく、そして雪華と一緒に病院に運び込まれていたドローンでこの尋問の撮影をしつつ、雪華は2人からの向けられる問いかけに答える。
どうやって【レンフィールド】の結界を解いたのか。
それを係長と主任は知りたがっていた。
「わかりません」
雪華の返答は至極あっさりしたものだった。
「わからない?」
係長が首を傾げる。
「そんなわけは無いだろ?」
続いて、主任はイライラしながら聞き返した。
雪華は説明する。
「私達、私と恋さんが集合時間ぴったりに、あのダンジョンに行った時には既に、主催の二人がいたんです。
結界なんてものはなかった」
「つまり、すでに解かれていた後というわけか」
係長が顎に手を当て、思案する。
雪華の言葉に嘘がないか見ぬこうとしているのかもしれない。
「嘘をつくとタメにならないぞ」
主任の言葉に、
「嘘なんて言ってません!!」
さすがにムッとして言い返す。
しかし、係長は落ち着いていた。
とても丁寧に腰を低くして、
「……もしも、貴方にとって不利な発言をすることを警戒し、さらにそれによる資格剥奪について心配しているのなら無用と言っておきましょう。
たしかに今回の行動については褒められたものでは無いですが、貴方も、これから話をうかがう恋さんも、あの主催二人に利用されたのは明白ですから。
それに、今までの積み重ねてきた功績も考慮される。
貴方か、それとも恋さんだったか、どちらかが今回の配信で言っていたではないですか、結果を出せば探索者連盟はそれを考慮してくれる、と」
そう言ってきた。
そこでちらりと係長は、雪華の所有するドローンを見た。
この尋問を撮影し続ける、ドローンを見た。
「それにだからこそ、ドローンでの撮影も許可したんですよ?」
雪華のドローンでの撮影を許可したのは、威圧や脅しによる尋問ではないと証明するためだ、と係長は遠回しに説明した。
「…………」
「さらに言うなら、こちらは強制的に撮影データを貰い受けることだって出来る。
でも、それをしていない。
その意味を理解していただきたいのです。
本当のことを話してください」
「ダンジョンの結界については、本当になにも知らないんです」
雪華は同じ返答を繰り返した。
「では、質問を変えましょう。
あのふざけたマスクの二人、その連絡先はご存知ですか?」
係長がそう聞いてきた。
そんなのすでに調べてあるだろうに、わざわざ雪華に聞く意味がわからなかった。
その疑問が顔に出ていたのだろう。
主任が口を開いた。
「SNSアカウントからDMを送ったが返答無し。
動画のアカウントの方も同じ。
動画投稿サイトとSNS運営に、正式にこのアカウント情報の開示をさせようと裁判所に手続き申請しているが、こっちはこっちで時間がかかる」
「はぁ、それが??」
続きはまた係長が言ってくる。
「今の所、実際やり取りをしたのは雪華さんと恋さんの二人だけということです」
そこで言葉を切って、係長は雪華を見る。
そして、こう切り出した。
「貴方の携帯端末には、おそらくあのマスク連中の連絡先があるんじゃないかと思ってるんですよ」
「…………」
「ドローンの映像ではなく、携帯端末の方を確認させて頂きたいのです」
「没収する、ということですか?」
「いいえ、今、この場で、持ち主の貴方の立ち会いの上で連絡先を確認出来ればそれでいいのです」
ここで、雪華は了承した。
そして、その場の全員で雪華の携帯端末に残された履歴を確認しようとした。
その時だ。
携帯端末が震えた。
着信であった。
表示された文字は、【蛇】であった。
スネークの名前を知らなかったし、あのマスクからこれでいいだろう、と雪華が設定した名前である。
「……これは、本人からですか?」
係長に確認され、雪華は頷いた。
係長は、
「出てください」
そう雪華に指示を出す。
その様子を、雪華の姉が黙って見つめていた。
雪華は携帯端末を操作し、電話に出た。
「……はい」
『こちらスネーク、よぉ、久しぶりだな。お嬢さん?
それと、まるで刑事みたいな探索者連盟の中間管理職さん達』
携帯端末から、楽しそうな蛇の声が届いた。
係長と主任は、すぐに周囲を見た。
盗聴か盗撮されていると考えたのだ。
しかし、この部屋には生憎カメラやそういった機器は見つけられなかった。
『まぁ、話したいことがありそうだからな。
頃合を見てわざわざ電話してやったんだ。
どうだ?この気遣い?
褒めていいぜ。
むしろ褒めてくれ』
ただただ、楽しそうな蛇の声が携帯端末から流れてくる。
その声を聞いて、雪華の姉は嘆息した。