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配信を終了させた直後。
「まさか刺されるとはなぁ。
久々過ぎて驚いた」
冬真の口からそんな言葉が漏れた。
それから隣に立つ蛇を見た。
「それで、さっきの話は本当なのか?」
「嘘言っても仕方ないだろー」
冬真に返しつつ、蛇は蛇でいまだ鎖を千切ろうと暴れる影のモンスターと、それに寄生された雪華と恋を見た。
「まぁ、それより先にこっちの方を片そう。
まず、説明な」
そう前置きをして、蛇は二人の寄生された状態について解説を始めた。
「要はゾンビ化とかグール化とか呼ばれてる状態なんよ、これ。
あの影のモンスターはこのダンジョンを支配してるらしくて。
ダンジョン内のモンスターを操って、一階層目で侵入者の情報を収集する。
二階層で、その収集した情報を元に侵入者と同じ動きをして襲ってくる。
ここまではいいか?」
「うん」
「そんで、二階層で襲った際相手を殺して寄生するわけだ。
なんでそんなことをするかってのは、二十階層まで攻略した上での体感だけど。
おそらく、あの影たちは、このダンジョンから出ようとしてるんだ」
「……え?
人のフリして外に出る……。
スタンピードを起こそうとしてるってことか??」
「使い古されたSFホラー映画みたいな話だけどな。
ただ、ダンジョンから出ると寄生された奴らはポンコツになる。
それが精神に異常をきたす、の真相だ。
ダンジョン内ならこうして攻撃性をもって襲ってくる。
けれどダンジョンの外に出たら、支離滅裂なことを口走り、奇行に走る。
攻撃性もなくなる。
そして、基本的に一生そのままだ。
ダンジョンの中と外で何かが違うらしいが、なにが違うのかはまだよく分かっていない。
ただ、スタンピードを起こすのが目的かって言われると、なんか違う気がする。
それに、それだけが目的ならこのダンジョンは二階層迄でいいはずだ。
でも、少なくとも五十階層くらいあるだろ」
「…………」
「ダンジョンには、いまだにわからないことが沢山ある。
謎だ。
数千年前の超古代文明が存在したとされる時代にもあったとされてる。
けど、その時代のダンジョンはいつの間にか消えていた。
忽然とな。
それから数千年の間世界各地にダンジョンが現れた記録はなく。
そして今から百年ほど前に、突如としてダンジョンは世界各地に現れた。
以来百年、ダンジョンは消える素振りもなくこうして存在し続けているわけだ」
蛇はマスク越しに、冬真の形をとった影のモンスターを見た。
それはずっと暴れている。
蛇はさらにパンパンと手を叩いた。
すると、鎖が影のモンスターを締めつけていく。
ギリギリと、そのまま締めつけていき、
「ぎっ、ぎゅアアア!!」
という影のモンスターの断末魔の悲鳴があがる。
ボタボタと黒い塊が地面に落ちた。
「さて、じゃあここからが授業だ。
こうやって寄生された人間をどうやって元に戻すかだが」
言いつつ、蛇は何も無い中空から大剣を出現させた。
そして、
「魔滅の剣改」
そう呟くと、大剣が七色に明滅する。
その大剣を構え、雪華と恋を交互に見遣り、
「こっちにしよ」
と言って、鎖に拘束したままの雪華の腹に、その大剣を突き立てたのだった。
冬真の形をした影と全く同じ悲鳴が、雪華からあがる。
しかし、お構い無しに蛇は大剣を突き刺したままグリグリと動かした。
雪華から血は出ていない。
やがて、叫び声がおさまった。
かくん、っと雪華の体が脱力する。
それを確認して、蛇は雪華から大剣を抜いた。
雪華は怪我はおろか、服すら破けていない。
蛇は、冬真を振り返り、
「これで元に戻せる。
【魔滅の剣改】は前に教えてあったよな?
ちなみに、万能薬はほぼ役に立たない。
何故かはわからん」
そう説明した。
「まぁ、説明がつかないのは今に始まったことじゃないからなぁ」
なんて言って、冬真は剣を鞘から完全に引き抜いた。
そして、いまだに暴れ続けている恋を見た。
「うぅ、でも怖いなぁ」
「慣れろ」
「はい、センセー」
そう言って、少し躊躇いつつも、
「魔滅の剣改!」
冬真も恋の体を剣で貫いたのだった。
普段の恋からは想像もできないほどの叫び声が、断末魔の悲鳴が彼女の口からあがる。
しかし、雪華と同じくやがてそれも絶え、恋の体も鎖に囚われたまま脱力したのだった。
「よし、ひと仕事終わったし。
この子らは入口近くに寝かせて、トンズラするか。
さっき言った【管理部】から派遣された特殊部隊が来るまで、もう時間ないし」
蛇の言葉に、
「りょーかい」
冬真は素直に従うのだった。
「相変らず、特定班は怖いなぁ」
冬真はつい、そう呟いた。
特定班というのは、スレ民の一人である。
情報収集のエキスパートなのだ。
そうして、二人は後片付けを終えると宣言通りSSランクダンジョン【レンフィールド】から撤退したのだった。